識者に聞く

貧困との闘いはいつまで続くのか⁈

ユニットエイド理事長フィリップ・ドスト=ブラジさんのインタビュー

7月13日~16日。第3回開発資金国際会議がエチオピアの首都アディスアベバで開催された。環境を保護しつつ経済の繁栄、健康、教育、雇用機会の改善を促すとともに、持続可能な開発のための財源を確保し、最も必要とされる場所に開発資金を行きわたらせるという会議だ。人類の英知が試されている。

左がフィリップ・ドスト=ブラジさん。ユニットエイド(UNITAID)の活動を支援するオランド仏大統領(中央)、ビル・ゲイツさん(右)とともに。写真はユニットエイド(UNITAID)提供

左がフィリップ・ドスト=ブラジさん。
ユニットエイド(UNITAID)の活動を支援するオランド仏大統領(中央)、ビル・ゲイツさん(右)とともに。写真はユニットエイド(UNITAID)提供

あと一世代で極度の貧困はなくせる⁈

この会議を前にした7月6日、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、 「ミレニアム開発目標(MDGs)報告2015」を発表しました。それによれば、「極度の貧困はあと一世代でこの世からなくせるところまで来た」と成果を強調しています。

その上で、「MDGsは歴史上最も成功した貧困撲滅運動になった。これからの持続可能な開発目標への踏み切り台になるだろう」と期待を示しました。

「ミレニアム開発目標(MDGs)」とはそもそも何なのか。少しおさらいをしてみましょう。20世紀から21世紀への変わり目に、国連が中心となって取り決めた国際社会への8つの約束、それが「ミレニアム開発目標(MDGs)」です。今年2015年の達成を目指してきました。

◆ミレニアム開発目標とは
1 極度の貧困と飢餓の撲滅
2 普遍的な初等教育の達成
3 ジェンダー平等の推進と 女性の地位向上
4 乳幼児死亡率の削減
5 妊産婦の健康の改善
6 HIV/エイズ、マラリア、 その他の疾病のまん延防止
7 環境の持続可能性を確保
8 開発のためのグローバルな パートナーシップの推進


正念場をむかえる貧困との戦い

8つの目標を確認するにつれ、貧困との戦いが道半ばであるかがわかるはずです。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の報告では、開発途上国で1日1ドル25セント未満という極度の貧困状態で暮らす人々の割合は、1990年は世界人口の47%でしたが、2015年までに14%まで減り、初等教育の就学率も2000年に83%だったものが、91%に改善されています。

ユニットエイド(UNITAID)提供

ユニットエイド(UNITAID)提供

5歳未満の子どもや妊産婦の死亡率の削減については、改善は見られたものの目標の水準に遠く及ばず、女性の地位についても就職率や政治参加で男性との間にいまだ大きな格差が残っています。また、二酸化炭素の排出量は1990年から50%以上も増えていることに触れ、気候変動が開発の最も大きな脅威になっていると警鐘を鳴らしています。

今後は、9月の国連会議で採択される予定の「ポスト2015開発アジェンダ」でミレニアム開発目標(MDGs)に続く新たな目標づくりがどのように進められるのか、そしてもう1つは12月に開催される国連気候変動パリ会議(COP21)で京都議定書に代わる新たな協定が結ばれるのか、地球と人類社会の未来が試されています。

こうすれば開発のための資金は調達できる

さて、いずれの国際会議でも、会議を実のある成果につなげるには、資金の裏付けが必要です。ギリシア経済危機によるEUの停滞や中国バブル崩壊がささやかれる中、あらためて途上国の開発のための持続可能な資金の裏付けが求められています。

国連の革新的資金調達に関する事務総長特別顧問を務める、フランスの元外務大臣でユニットエイド*創設メンバーでもある現理事長のフィリップ・ドスト=ブラジさんがアディスアベバ開発資金国際会議を前にインタビューに臨み、示唆に富む発言を行っています。

ユニットエイド(UNITAID): 途上国にエイズ・マラリア・結核の治療普及を支援するグローバル・ヘルスの国際機関。航空券連帯税などの革新的資金メカニズムから資金の提供を受けて、治療薬等に対する恒常的な需要を形成し、価格の低下・供給量の増加などを実現することにより、途上国での医薬品の利用拡大を促進する。2006年、国連総会の共同宣言に基づいて創設された。ユニットエイドの資金は主として航空券にかけられる1ドルの連帯税で賄われています。


フィリップ・ドスト=ブラジさんのインタビューから

貧困格差をなくさなければ、21世紀も“極悪非道”は続く

ユニットエイド(UNITAID)提供

ユニットエイド(UNITAID)提供

Q.「ポスト2015年開発アジェンダ」交渉の流れの中で革新的資金調達はどのような役割を果たせますか。

ブラジ: 2015年は歴史的な年です。世界の未来にとって非常に重要な3つの国際会議が開催されます。アディスアベバでの開発資金の会議、国際社会が持続可能な開発目標に乗り出す9月の国連総会、そして12月にパリで行われるCOP21(気候変動についての国際会議)です。

3つの会議に求められるシナリオは、壮大な政治的合意ですが、それをバックアップする財政手段がありません。だから警鐘を鳴らしたい!  革新的資金調達法を今すぐ見つけなければ、富めるものと貧しいものの格差がさらに広がり、21世紀の世界は極悪非道に至るでしょう。

Q.開発には巨額の財源が必要です。FTT(金融取引税)は他の革新的資金調達のツールと比べて、必要な資金を集めるのに適しているのでしょうか。

ブラジ: 金融は現在のところもっとも課税の少ない分野の1つです。2008年のリーマンショックによる経済危機のせいで、金融が国際開発にもたらした深刻な影響を知ったら驚かれるはずです。金融取引に痛みのない比率で薄く広く税を掛ければ、世界中で莫大な額の資金がもたらされ、その結果、極貧、パンデミック、環境変化などとの闘いに積極的に取り組むことができます。

私たちは今、完全にグローバル化された世界に住んでいます。従ってこうした脅威は世界のだれにでも降りかかってきます。グローバル化された活動や取引だからこそ国際的な助け合いに貢献すべきなのです。私たちが航空券に国際連帯税を実施した際、シラク大統領とルーラ大統領(ブラジルの35代大統領。「飢餓ゼロ計画」を打ち出した)と共に私たちが心に描いたことです。

人々の移動はますます活発化しています。彼らの航空チケット料金にほんの少し課税することで、世界中で命を救う治療を受けられる機会を増やすことができました。FTT(金融取引税:Financial Transaction Tax の略。E U各国が導入を検討している税の1つ) も同じ考え方を踏襲します。お金はあるところから得る必要があります。革新的資金調達のツールは成長の敵対者として位置づけるのではなく、世界の成長を補完するものとして捉えられるべきです。

Q.ユニットエイドはHIV/エイズ、結核、マラリアと闘うため、国際連帯税という手段で集められた資金を投資しています。それら病気との闘いにおけるユニットエイドの実績を教えてください。

ブラジ: 1つめとして、2007年、ユニットエイドの投資は、より効果的な主要HIV治療の市場づくりのお手伝いをしました。その結果、年間1,500ドルだった治療費を500ドル以下にまで下げました。

2つめは、グローバルファンドとユニセフをサポートすることで、ユニットエイドは4億3,700万ドルを超える最良の抗マラリア治療薬を提供することに貢献しました。これにより世界中で2000年以来47%死亡率が下がりました。

3つめは、最新の結核テスト(GeneXpert)で使うカートリッジの価格を145か国を対象に40%下げる取り決めをしました。これはUSAIDとビル&メリンダ・ゲイツ財団と共に行いました。これは世界中で2年間に7,000万ドルの節約になり、薬剤耐性の結核患者を見つけだすことについては年間30%増やすことができました。

ユニットエイド1

Q.新プロジェクトUNITLIFEについて教えてください。どのようなものなのでしょう。準備はどの段階にあるのでしょうか。

ブラジ: 今世界では8億7,000万人が栄養失調にかかり、アフリカ大陸の30%近くの子供たちが慢性的栄養不良でそのため学校でも勉強が遅れ、ひどい成長の阻害に至っています。私たちはこれに立ち向かわなければなりません。

私たちは何世代にもわたって多くの命を奪い、社会を不安定にし、アフリカを中心に多くの国を痛めつけているという天の仕業に直面しています。だからこそ良い結果をもたらす助け合いの手を差し伸べる義務があります。これがUNITLIFEを始動したい理由です。

UNILIFEは単純な原理に基づいています。アフリカで採掘された資源からもたらされる巨大な富、そのほんの僅かな一部を栄養不良への対策に割り当てます。こうした方法で助け合いのグローバリゼーションが経済のグローバリゼーションと一対となるのです。今のところアフリカ6か国の元首がこうした原理を受け入れています。ユニットエイドがWHOに主催されているように、UNITLIFEはユニセフに主催されることになります。

Q.欧州11か国で今後実施されるFTTが有益で効果的となるためにはどうあるべきでしょうか。例えばフランスやイギリスのFTTの例をどのように評価されますか。

ブラジ: フランスとイタリアのFTTには実にがっかりしています。規制という意味でも収入という意味でも期待を満たしていません。フランスとイタリアの政府は自国の金融セクターの防御しか考えていなかったのでしょう。

課税控除が設定されていて、投機的取引には課税できないようになっています。デリバティブ、マーケットメーカー、イントラデイ、超高速取引は2つのモデルは課税できないのです。それらがもっとも危険であるにも関わらず……。

FTTがほとんどの財源に課税するものであるなら、それらの手段に課税することです。同じ理由で、外国株には適用されない欧州FTTにも非常にガッカリです。金融セクターの反応にびくびくする代わりに、11か国の政治リーダーは本当の意欲を示して広い範囲で、逃げ道のない強いFTTをデザインするべきです。

Q.この税で集められた資金の一定の割合が開発に使われることをどのように確認するのでしょうか。

ブラジ: フランスFTTの17%がすでに気候とパンデミックに割り当てられています。オランド大統領は欧州FTTの一部も同じように割り当てられるだろうと言っています。率が多くなるように祈りましょう。

「スペイン」のマリアーノ・ラホイ首相もまた収入の一部を国際連帯に充てると約束していますが、今のところ発表されているのはその2つのみです。11か国でどうなるか楽しみです。

各国トップらは国際連帯への共同割り当てについていずれも態度を表明しています。FTTの収入をグローバルファンド、WHO、グリーン・ファンドなどの多国間基金に資金提供すれば、集められたお金が実際に開発に使われていることを確認できる最良の方法でしょう。

今も地中海を小さなボートで渡ろうとしている何千何万という移民がいます。地中海は世界でいちばん大きな墓場になっています。私は貧しい国から豊かな国への大量移民を解決する唯一の方法は、私たちが国際公共財と呼ぶ食糧、飲み水、必須医薬品、教育、衛生をすべての人類に供給することだと信じています。

※フィリップ・ドスト=ブラジさんのインタビューは、通信会社IPSが行った取材記事がベースとなっています。ユニットエイドの協力で入手しました。(2015年8月)

●ユニットエイドFace Bookサイト


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