企業とNGO/NPO

学生主体のNPO組織は、こんなリーダーに運営されてきた

アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー2016から

社会起業家を対象とした「アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー」が、東京・大阪で開催された。2つの会場には、地方創生や子どもの貧困など社会課題の解決に挑む起業家30名がそれぞれに集結。「サービス」のあり方を学んで、事業と組織のサービス革新に役立てていく。NPO法人ブレーンヒューマニティー理事長 能島裕介さんの講演をお届けしたい。

サービス・アカデミーで講演中の能島裕介さん

サービス・アカデミーで講演中の能島裕介さん

受講生の中からわが国を代表する社会起業家が

今年で6年目を迎えた「アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー」。これまでに180名もの社会起業家が参加し、サービスに特化した研修を2泊3日の合宿で行うとともに、半年後のフォローアップで各人の確実な成長につなげてきました。

受講した起業家たちの中には、Teach for Japan、日本ブラインドサッカー協会、カタリバ、マドレボニータなど日本のソーシャルビジネス分野の第一線で活躍する団体も多く、起業家同士のネットワークづくりにも役立っています。今回は、3日間の多彩なプログラムの中から、関西学院大学の学生を中心としたNPO法人ブレーンヒューマニティーの運営に関わる理事長の能島裕介さんの講演の模様を紹介します。

受講生とメンターが一堂に会して(前列左が能島裕介さん)

受講生とメンターが一堂に会して(前列左が能島裕介さん)

学生ボランティアを束ねるリーダーが目指したもの

阪神・淡路大―震災の経験を経て、NPO組織を結成

ブレーンヒューマニティーの前身は、1994年に設立した関西学院大学の学生による家庭教師の紹介や斡旋を行うサークル「関学学習指導会」でした。ところが翌年の1995年に阪神・淡路大震災が発生し、被災した子どもたちを支援するため、「関学学習指導会」の中に「ちびっこ支援センター」を設置して、被災した子どもたちへの学習支援活動やキャンプなどのレクリエーション活動を展開するようになります。

家庭教師派遣事業が原点だった

家庭教師派遣事業が原点だった

震災の翌年には私が理事長に就任したのですが、1998年には大学を卒業していったん銀行員になったものの、1年後の1999年には銀行を辞め、「関学学習指導会」を改組して、ブレーンヒューマニティーとしました。2000年には兵庫県知事より特定非営利活動法人の認証をもらって現在に至っています。

子どもたちに対する「学習支援活動」と「レクリエーション活動」が2本柱ですが、1999年に事務局を開設し、職員を雇用するようになり、不登校の子どもの学習支援活動や青少年を対象としたさまざまな活動を展開しています。

人気のプログラムである「キャンプ」での体験活動(ブレーンヒューマニティーのWEBから)

人気のプログラムである「キャンプ」での体験活動
(ブレーンヒューマニティーのWEBから)


イベントの企画運営を通じて地域おこしにも貢献(ブレーンヒューマニティーのWEBから)

イベントの企画運営を通じて地域おこしにも貢献
(ブレーンヒューマニティーのWEBから)

現在、年間の事業総数は100以上、年間の予算総額は108百万円(2015年度決算から)となっています。障がい者を対象としたガイドヘルパーの派遣やデイサービスを行う株式会社YEVIS、生活保護世帯や被災世帯への学校外教育バウチャーを提供する公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン、キャンプ等の野外教育プログラムの旅行企画・実施を行う関西教育旅行株式会社などの関連団体もあります。

※ブレーンヒューマニティーの詳しい活動はこちらから

http://www.brainhumanity.or.jp/
ブレーンヒューマニティー6


学生の挑戦を応援する開かれた組織へ

ブレーンヒューマニティーは、2000年には学生を主体とした全国初のNPO法人としてスタートしました。しかし、学生を主体に経営を続けるというのは、たやすいようで難しい問題を背負っています。

「子どもたちに多様な価値を提供し、子どもたちが多様な選択肢をもつ社会をつくる」とミッションこそ明確なものの、現在950人を超える学生ボランティアのうち、毎年、経験を積んだボランティアメンバーから順に学生のほぼ4分の1が入れ替わっていくのです。それと同時に年間200人以上の大学生が新人ボランティアとして参加してくるわけです。

つまり、私たちの組織は4年間でほとんどの構成員が入れ替わるわけです。極めて早いサイクルで組織の新陳代謝が図られるため、いわゆる“淀みを生まない”という利点がある半面、経験・知識・スキルの蓄積が難しいという側面もあります。

組織はどこまでもオープンな運営をモットーにしています。現在、理事13名のうち、8名が大学生ですが、私のような常勤の理事も年に一回、大学生たちによって報酬の査定を行われます。

もう1つ大事なことは、参加してくる学生に対して、「君は向いていない」「君は向いている」といった選別は一切行いません。あくまでも学生が自主的に参加し、向いていないと思う学生は自然に辞めていきますし、2年生になってから新たに参加してくる学生もいます。

ただ、私たちの組織に参加してくる以上、「学生自身がさまざまな経験を積み、育っていく」というのは、私たちの組織の重要なミッションだと思っています。そのための働きかけを事務局は担っているのです。

最近では、ブレーンヒューマニティーは、学生と社会をつなぎ、学生がチャレンジする場、ときには学生たちの起業のための支援を行う中間支援組織でもあると位置付けています。私たちのミッションの2つ目は、「若者に対し、多様な価値を創造していくための機会と基盤を提供する」ことなのです。

ブレーンヒューマニティー8


徹底した文書化と記録づくりを

ブレーンヒューマニティーの運営で特徴の1つは、「学生による学生のマネジメント」が徹底され、常勤の事務局メンバーであっても定例役員会の承認なしに決定できない仕組みになっていることです。私は理事長ですが、理事長であっても10万円以下の物品の購入を決める権限しか与えられていません。

先ほど学生の4分の1近くが毎年入れ替わると申しましたが、新たな提案を行う場合などは、あの決定はどのように行われたのか、いつでもさかのぼって検証できるようにしなければなりません。もし、事故や問題が発生した場合、これまでの議事録を再検討し、詳細な報告書もすばやく出せるようにしました。

つまり、過去14年にわたる役員会の議事録が常にだれでも閲覧可能になっています。また、今後はそのすべてをWEB上で閲覧または検索できるようシステムについても現在整備を進めています。

こうした徹底した文書による記録の保存とともに、ルール化・マニュアル化を進めています。4年でメンバーのほとんどが代わるという前提だけに、組織の透明性を担保するためにも文書化やマニュアル化は必要なことだと考えています。

ブレーンヒューマニティー9


学生の成長をうながすキャリアパスの設定

先ほど参加してくる学生は、一切選別しないと申しました。しかし、実際に活動を始めると、学生の能力やそれぞれの関心分野が異なるため、それぞれの経験や志向などに合わせて「ガバナンス」「マネジメント「企画管理」「現場」の4つの業務領域に分けてキャリアパスを明示します。業務ごとに権限や責任なども明文化しています。なかには選考をめぐって面接や試験なども行われます。

「ガバナンス」「マネジメント「企画管理」「現場」の4つの業務領域は、それぞれ学年によっても役割が定められ、業務領域ごとに役職や権限も決められています。ただし、各キャリアの横の移動は比較的ひんぱんに行われ、学生がさまざまな業務を経験することができるようになっています。

なぜ、キャリアパスについてもルールを設定したかというと、4年で入れ替わる組織だけに、ルールを明文化しなければ、代表や職員の権限が大きくなりすぎるからです。「俺がルールだ」といった突出した組織の運営が行われれば、学生の主体性が失われ、結果として学生のコミットメントが制限されると考えたのです。

キャリアパスの仕組みを説明する

キャリアパスの仕組みを説明する


限界を超える体験、責任を負う自由

ブレーンヒューマニティーでは、年間100以上の事業を手掛けています。これらのすべての事業やイベントでは、サービスを受ける皆さんのアンケートを実施するとともにその評価を数値化して、学生ボランティアに開示しています。学生間で競わせているのです。アンケートで寄せられた声は、すべての役員が閲覧し、改善が必要なものについては、各担当役員が改善案を策定し、その進捗についても管理します。

そして、最後はそれらの経験もマニュアルという形で残します。常に新しいボランティアが参画してくることを前提に、どんなボランティアでも解釈が変わらない「サルでもわかるマニュアルづくり」こそ理想なのです。

さて、組織におけるリーダーの役割とはどのようなものでしょうか。ヤーン・カールソンによれば、「人は誰も自分が必要とされていることを知り、感じなければならない。人は誰も一人の人間として扱われたいと望んでいる。責任を負う自由を与えれば、人は内に秘めている能力を発揮する。情報をもたないものは責任を負うことはできないが、情報を与えられれば責任を負わざるを得ない」と述べています。

ボランティアは「お手伝い」ではありません。個人の限界を突破する「体験」を提供し、責任を負わせることが大切です。責任が責任感を生み、驚異的な成長をうながします。(2016年9月)

アカデミーの修了式のあと、スタッフも含めた全員で記念撮影

アカデミーの修了式のあと、スタッフも含めた全員で記念撮影

<NPO法人 ETIC.>

NPO法人ETIC.は、1993年の設立以来、若者育成を通じた社会変革の加速を目指して活動を展開して参りました。 長期実践型インターンシッププログラムや、様々な社会起業支援プログラムを通じて、これまでに2,380名の若者育成、200名以上の起業家を輩出して参りました。様々なステークホルダーと協業し、挑戦の場を創っていくことにより日本に挑戦の生態系が生まれ、私達の目標が達成されるものと考えています。

<アメリカン・エキスプレス財団>

アメリカン・エキスプレスは、社会に貢献する良き企業市民であることを企業理念の一つに掲げています。1954年にアメリカン・エキスプレス財団を設立し、現在は3つの活動の柱(「文化遺産の保護・修復」、「地域社会への貢献」、「明日のリーダー育成」)をもとにグローバルな規模で社会貢献活動に取り組んでいます。優れたリーダーの育成に力を注ぐアメリカン・エキスプレスの信念を反映した「明日のリーダー育成」の活動では、2009年に「アメリカン・エキスプレス・アカデミー」を日本で創設し、社会で活躍するNPOのリーダーや若手起業家のリーダーシップ育成に取り組んでいます。

【本件に関するお問合せ】
<主 催> NPO法人エティック(ETIC.)

担当:石塚 真保・野田 香織
TEL: 03-5784-2115 / FAX: 03-5784-2116
Email: info@etic.or.jp


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