識者が聞く

無垢の木の個性が10本の鉛筆に

株式会社ミネルバ(五反田製作所グループ代表) 宮本 茂紀さんに聞く

天然木の木のぬくもりが伝わってくる10本の鉛筆セット。1本1本が異なる木からつくられており、見るだけでほっとする逸品だ――先のロハスデザイン大賞のモノ部門で大きな支持を集めた「樹木鉛筆」。この鉛筆をプロデュースした宮本茂紀さんにモノづくりへのこだわりについて聞いた。

2016年ロハスデザイン大賞授賞式に臨む宮本茂樹さん

2016年ロハスデザイン大賞授賞式に臨む宮本茂樹さん

Q1.第11回ロハスデザイン大賞のモノ部門で宮本さんが手掛けられた「樹木鉛筆」が準大賞を獲得しました。樹木鉛筆を製造することになったきっかけからお聞かせください。

宮本: 受賞した「樹木鉛筆」は、鉛筆の軸にヒノキやローズウッドなど異なる10種類の天然木を使った鉛筆セットです。今から20年ほど前の1993年に発表しましたが、当時つくってもらった鉛筆屋さんが倒産するなど、継続してつくることが難しくなり、現在は岐阜県の建具屋さんでつくってもらっています。

10種の樹木の軸でできた10本の鉛筆「樹木鉛筆」。イタヤカエデ製のトレイにセットされている。

10種の樹木の軸でできた10本の鉛筆「樹木鉛筆」
イタヤカエデ製のトレイにセットされている。

天然の木材が貴重品となり、さまざまな性質をもつ天然木の魅力に触れる機会が少なくなっています。木がもつ美しさや個性を知ってもらえるきっかけになればと思って今回のイベントに出展したところ、皆さんから大きな支持いただきました。

木はそれぞれに木肌や硬さもまちまちで加工は大変ですが、素材の個性をコントロールする楽しみがあります。「樹木鉛筆」は、今も当社のwebで販売しており、月々10セットぐらいずつ販売されています。

五反田製作所が展開するネットストアhalcana

http://www.gotanda.co.jp/halcana/

樹種を変えて200脚以上の椅子を製作してきたシリーズ「BOSCO」

樹種を変えて200脚以上の椅子を製作してきた
シリーズ「BOSCO」

Q2.そんな宮本さんのこれまでの歩みを簡単にご紹介いただけませんか。

宮本: 私は静岡県伊東市出身ですが、中学校を卒業すると同時に、芝家具の流れを汲む椅子張り職人として東京で修業を積んできました。

日本の洋家具の歴史は西洋人が入ってきた横浜からスタートし、文明開化の流れもあって東京の芝周辺には洋家具の職人が大勢住んでいました。鹿鳴館は日比谷公園ですし、外国の大使館などもその周辺にありましたから、洋家具の製造や修理の需要があったのだと思います。

ただ、日本が経済成長に向かう昭和30年から40年にかけて、海外の有名ブランド家具が大挙して日本に押し寄せました。その頃から大手百貨店の高島屋さんが手掛ける家具の修理を私が中心となって手掛けるようになりました。

修理などは昔の職人気質からすると手間のかかるもので、「面倒なことは宮本にやらしておけ」というような風潮でした。ところがその前後から天然木だけを使ってきた家具の世界もウレタンのような化学合成樹脂にどんどん代わっていきました。

私は人一倍好奇心が旺盛だったこともあり、海外のメーカーが手掛けた家具の修理なども率先して手掛け、そうした仕事を通じて木材を扱う、布を扱う、ソファを張る、塗装・彫金・金箔も行うようになりました。日本に上陸した外国家具メーカーと深く関わるようになったわけです。

日本と世界の家具づくりについて語る宮本茂樹さん

日本と世界の家具づくりについて語る宮本茂樹さん

Q3.宮本さんはデザイナーと共同で家具を創りあげるわが国初のモデラーだと聞きました。モデラーとはどのような仕事ですか。

宮本: 海外メーカーのモノづくりに深く関わるようになってから、デザインや技術にはそれぞれ物語や背景があり、それを理解しなければならないと考えるようになりました。そこでイタリアのあるメーカーに頼んで工場での研修をさせてもらいました。1973年のことです。あくまでもモノづくりを理解するためでした。

いざ、研修を始めるとその工場はその昔は馬具をつくっていたことが分かりました。まさにそのメーカーにはメーカーならではの物語があり、そこで培われた技術があったのです。

イタリアでは、従業員たちも率直にモノが言え、比較的自由に表現できる環境にありました。その象徴がモデラーという存在であり、モノづくりでは重要なプロデューサー的な役割を担っていました。

モデラーという存在は、デザイナーと製造の間に立って両者の“橋渡し”をします。デザイナーであってもすべての素材や加工に熟知しているわけではありませんし、製造の側もデザイナーの意図を十分に理解しているとは言えないからです。

ときには、つくる側からの逆提案もありますし、それに対するデザイナー側からの提案もあります。結果として両者の関係にいい意味の緊張感が生まれ、素晴らしいモノづくりにつながっています。そうした空気に触発され、私もモデラーを名乗ることにしました。

Q4.帰国後、日本初のモデラーとして新しい意欲的な仕事に関わっていきますね。

宮本: 隈謙吾、川上元美、倉俣史朗、梅田正徳、喜多俊之、ザハ・ハディドといった時代を代表するデザイナーと組んで椅子を製作することが出来ました。

こうした人たちの仕事の流儀にはそれぞれ特徴があります。喜多俊之さんから見せられた図面はほとんどスケッチ画でした。初めはなんだろうと思いましたね。

そこからプロトタイプ(試作品)をつくり、さらに原寸大のものを作成するのですが、最後はデザイナーも私自身も想像していたものと全く異なる仕上がりになることも珍しいことではありません。

こうした一流といわれる方々と等距離で仕事ができたことが今では私の生涯の誇りです。

ミネルバ5
ミネルバ6

Q5.歴史的に価値のある椅子の修復なども手掛けています。思い出深いものがありましたらいくつか紹介いただけますか。

宮本: 東京や京都の迎賓館の建設や修復、宮内庁の儀装馬車の修復や家具の製造、国会議員が座る椅子の修復などにも関わってきました。また、2014年に東京オペラシティで開催されたザハ・ハディド展で、ザハさん直々の指名により、ザハさんがデザインした椅子を製作しています。

面白いところではマッカーサー元帥に白洲次郎さんが贈ったとされる椅子のレプリカを白洲家の皆さんから依頼されてつくりました。

白洲次郎さんからマッカーサ―元帥に贈られた椅子のレプリカ

白洲次郎さんからマッカーサ―元帥に贈られた椅子のレプリカ

私は大沢商会の仕事をしていた時期もあり、大沢商会の会長をされていた白州次郎さんとも面識がありました。白州次郎さんは、GHQ(連合軍最高司令部)のマッカーサー元帥と日本政府の間に立ってご苦労された方ですが、そうした個人的なつながりもあって、思い出の椅子の復元に関わりました。ケヤキ板でクギなしで組み立てられていますが、私が復元を試みて、組手のひとつに誤りがあることも分かりました。

Q6.日本では森林の育成とともに、家具などにも国産林の活用ができないかという声がありますが、どのように考えたら良いでしょうか。

宮本: 2つの問題があります。為替と国産天然木資源の問題です。

1ドルが360円だった頃までは、日本の海外大使館や公使館で使う家具のほとんどは日本で私たちがつくったものを送っていました。1ドルが100円前後になった現在は、とてもそんなことはできません。

もう一つは、国産材の多くが針葉樹のため、家具などの製造にあまり向いていないということがあります。かつての日本には、ブナ、ナラ、タモなどの広葉樹林もたくさんありましたが、現在、広葉樹林が残っているのはほとんど山の傾斜地だけです。切り倒すにも、運ぶにも人の手間が掛かります。

国産材の活用には、広葉樹の植林に加えて、職人の育成など長期の視点が必要です。アメリカなどでは、広大な大地に目的別に広葉樹が植林されています。日本製家具のコスト面での競争力は年々厳しくなっています。

自ら手掛けた椅子に腰をかける宮本茂樹さん

自ら手掛けた椅子に腰をかける宮本茂樹さん

株式会社五反田製作所

http://www.minerva-jpn.co.jp/ordermade/index.html


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