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2016年単年で約120億円の経済効果!
カタール国の東北支援を三菱総研が調査2012年1月に設立されたカタールフレンド基金(QFF)。「健康」「水産業」「教育」「起業家支援」の4つを柱に総額で1億米ドル(約80億円=当時)の支援が東北の被災地支援に充てられた。このほどQFFの東日本大震災プロジェクトによる経済的波及効果について、(株)三菱総合研究所が調査した。
東北の復興モデルを世界の復興モデルに
(株)三菱総合研究所の調査によると、東北地方に与える全体の経済効果は 2016年単年だけで約120億円。今後10年間でおよそ1,800億円と推計される。QFFのような国際支援が災害時における復興支援の成功例として世界的に活用できることを実証した。
この日の報告会には、カタール開発基金(QFFD)のカリファ・ビン・ジャシム・アル・クワリ局長のほか、メディア、QFFプロジェクトの関係者ら約50名が集まった。アル・クワリ局長は、QFFのプロジェクトが地域にもたらした経済効果に加えて、東日本大震災と津波によって打撃を受けた地域の士気の向上と強いコミュニティの構築に尽力できたと次のように振り返った。
「明らかな経済効果に加えて、広範囲な影響には子どもたちへの教育、有能な人材のトレーニング、起業家の育成も含まれます。これらのQFFのプロジェクトによる目には見えにくいけれど重要な活動は、地域にポジティブな効果を生み出し続けます。それらは経済復興のための雇用創出だけではなく、熱意とイニシアティブを育成し、子どもたちの科学とエンジニアリングに対する興味を広げ、専門的技術の支援と提供を通して、起業家や社内起業家を増やすことで、東北での革新や起業を促進します」と語った。
アル・クワリ局長は、プロジェクトの選定時に、持続可能なプロジェクトの支援を戦略的に重要視したと述べた。
東北の復興に大きな貢献を果たす
アル・クワリ局長の発表後、政策評価、公共事業評価などを専門分野とする(株)三菱総合研究所の土谷和之主任研究員より、QFFのインパクト評価書に記載された研究結果が述べられ、東北におけるQFFのプロジェクトの経済効果および経済波及効果と今後10年間に東北で予想される効果について報告があった。
評価の手法
1つがインパクトマップと言われるもの。各プロジェクトがどんなアウトカムやインパクトを達成したか、今後達成しうるかということをロジックモデルという形で可能な限り整理し、ロジックがつながって最終的なインパクトにつながるかというところをイメージ化した。この方法は世界中でこうした社会的な事業の社会的な効果を計測するためのツールとして使われている。そのインパクトマップによって、各事業がどんな効果があるかということを整理した上で、経済的インパクトがどれだけあったかということを、都道府県間産業関連モデルと言ったもので計測をしている。
評価
QFFは多様な分野の多様な事業にまとまった助成をしている。当初、100億円をかなり上回っていることも分かった。経済的な効率性といった意味でもQFFのインパクトはかなり大きかったと考える。
経済波及効果の実際の数字については、分野別の計算と地域別の計算をしている。プロジェクトが集中している宮城・岩手・福島の効果は大きいが、東北他県にも波及しており、その他県にも波及している。
起業家支援はその特性上、産業を育成する効果は大きいが、水産業での経済効果が見込めると分かってきている。健康については、数字が小さく見えてしまうが、本来医療関係の支援によって健康寿命が伸びることも含めて経済効果が図れればさらに大きくなったと思うが、今回はそこまでの計測はできていない。
土谷氏は、自身が過去に携わった政府とNGOの復興支援の経験に触れ、QFFと他の復興支援プロジェクトの明確な違いとして、各プロジェクトの持続可能性とQFFの強力な支援と監視システムを挙げ、それらがより強力なプロジェクト管理を可能とし、ひいては全体のプロジェクトを強化したと述べた。地元自治体の強力なサポート、地域および全国のネットワーク、地元の企業や施設とのコラボレーションを、これらのプロジェクトの持続性の秘訣と述べた。
地域に希望と経済効果を与えた
馬場治教授の研究プロジェクトでは、QFFが支援した2つの水産業プロジェクト、すなわち宮城県女川町の多機能水産加工と貯蔵施設のマスカー(MASKAR)と、岩手県釜石市の高付加価値冷凍システムと汚水処理設備を備えた釜石ヒカリフーズ(株)が与えた影響に注目した。
マスカーについて
教授は、「マスカーは、『再建のシンボル』として女川町の人々の希望の光である」と述べた。130億円の経済効果に加えて、マスカーは直接的および間接的に約700の仕事を創出したと述べる。この施設の建設は、水産加工業者と水産業に安定した確実な支援と、柔軟な解決策、そして便利さと使いやすさを提供。さらにマスカーが有する、レベル1の津波に対する防衛策は、最悪の事態が再び起きた場合にも大切な在庫や原料を守ることができ、漁業関係者と地域の水産加工業者に大きな安心感を与えているという。馬場教授はマスカーが、再建のシンボルから、女川町とその周辺の水産業 の再活性化の中心的な役割へと今後発展していく必要性を強調した。
評価
イノベーションの効果については、水産加工施設でありながら防災施設としての役割を持つということで、従来になかったもの。臨海部に設置せざるを得ないため、施設としてコストはかかるが、今後の施設のあり方として評価できる。
課題
当初は、施設を失った方たちの当面の保管庫の役割を果たしてきたが、規模の大きい事業者は自前の冷蔵庫を整備しており、当初の役割は終わっている。しかし、冷蔵庫の準備ができない中小規模事業者や大規模事業者でもこまごました商品を保管する施設として、非常に便利な存在になっている。マスカーを巡る状況は変わってくるが、その状況の変化に対応してマスカーの今後の活用方法が必要。女川ブランドの確立とそれに関わる人材育成の必要性が問われている。
釜石ヒカリフーズについて
馬場教授は、釜石ヒカリフーズのプロジェクトが「先駆的な水産物処理装置、また水産物加工業界発展の推進力としての重要な役割」を担っていることに触れ、高く評価した。22の新しい仕事を創出し、2015年に2億3,000万円以上の売上を成し遂げることに成功し、44社の500以上のレストランに冷凍食品と唐丹(とうに)ブランド加工水産物の直販網を確立した。この企業は、QFFの支援によって、高付加価値冷凍システムを活用するだけでなく、その周辺の水路と海が衛生的な状態を保てるよう汚水処理設備も組み込まれている点を評価した。
釜石ヒカリフーズはこれまで地元になかった事業として全くゼロからスタートし、短期間で2億円以上の売上にまでもっていくには、経営者の個人的なネットワークや力が貢献している。2015年の減少はイカ・タコなどの原料が減少したためで、これは全国的な傾向だとした。
評価
国の支援は被災地全体の広範囲な支援が求められる。さらに財政的支援の限界があり、復興と言いながらも元に戻す復旧にとどまらざるを得ない。それに対して民間の支援は、ピンポイントの素早い支援ができ、このことが被災住民に対して非常に大きな効果を与えている。明確な意図を持った支援がなされている点を評価した。(2016年11月)
■カタールフレンド基金
東日本大震災の被災地復興を支援するカタール国の基金。カタール国の前首長のシェイク・ハマド・ビン・ハリーファ・アール・サーニ殿下が設立し、新首長タミーム・ビン・ハマ ド・アール=サーニー殿下の指揮の下、活動を続けている。特徴は、プロジェクト運営者による持続可能な方法を編み出し、直接的な支援をしている点にある。東日本大震災の復興に向けた歩みを、被災地とともに手を携えな がら進めていく友でありたい、というカタール国の願いと意志が込められている。
今後のカタールフレンド基金の活動については、公式サイト(http://www.qatarfriendshipfund.org)を通じて発表する予定。2016年6月よりQFFは、カタール開発基金(Qatar Fund for Development(QFFD))の監督下で、カタールファンド・フォー・デベロップメント(Qatar Fund for Development(QFFD))により運営されている。
■カタールフレンド基金 PR 事務局(キャンドルウィック株式会社)
担当: 長柄(ながら)、橋爪
E-mail:press@candlewick.co.jp
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