企業とNGO/NPO

カンボジアの若者たちに平穏な日々は訪れたのか

国境なき子どもたち写真展2016から

ストリートチルドレンや人身売買の被害に遭った子どもの支援を行うNPO「国境なき子どもたち(KnK)」。このほど経済成長著しいカンボジアの若者たちの“今を伝える写真展”を、新宿区のギャラリー「シリウス」で開催した。会場で行われた写真家・渋谷 敦志さんとアナウンサー・渡辺真理さんのトークを届けよう。

「明日に吹く風―カンボジアの若者たち」から

「明日に吹く風―カンボジアの若者たち」から


[ギャラリートーク]

写真家・渋谷 敦志さん×アナウンサー・渡辺真理さん

一ノ瀬泰造さんに憧れ、17歳で写真家を目指す

渡辺: この場所で最初の「国境なき子どもたち写真展」をしたのは何年前ですか。

渋谷: 今から10年以上前です。

渡辺: その当時、写真に撮った子どもたちは何歳ぐらいだったのですか。

渋谷: 10代前半もいたが、10代後半の高校生から大学生の年代くらい…。

渡辺: カンボジアの子どもたちを撮ろうとしたきっかけは……。

渋谷: 当時、イギリスに留学していました。KnKからカンボジアの若者たちを撮影してほしいという依頼があり、写真家として成長する機会をもらったと思いました。初めてカンボジアを訪れたの2003年でした。

写真家・渋谷 敦志さん

写真家・渋谷 敦志さん

渡辺: カンボジアに行ったのはそれが初めてですか。

渋谷: ええ、初めてです。

渡辺: カンボジアの印象はどうでしたか。

渋谷: 私は17歳のときに写真家になろうと決めました。一ノ瀬泰造さんという報道写真家の本を読んだことがきっかけでした。彼は26歳の若さでカンボジアで亡くなっています。ポルポトが支配を強めようとしていた時期でした。おそらく捕まって殺されたのだと思います。その本を読んで、カメラマンになってカンボジアに行きたいと思ったのです。その頃からカンボジアは戦場のイメージ、ポルポトのイメージでした。

KnK写真展2016-2

一ノ瀬泰造さん:フリーの報道カメラマン。1972年からバングラディシュ、ベトナム、カンボジアを約2年にわたって取材。当時クメール・ルージュ(ポルポト派と呼ばれる)の支配下にあったカンボジアで消息を絶つ。後に一ノ瀬泰造の書簡と日記をまとめた『地雷を踏んだらサヨウナラ』(講談社刊)が出版された。(編集部)


10年で変わったもの、変わらなかったもの

渡辺: ポルポト時代はひどい時代で、国民の1/4とも1/3ともいわれる人たちが亡くなったといわれています。1970年頃から20年あまり、カンボジアでは戦火が止むことはありませんでした。街や文化も大きな破壊を受けた時代です。

渋谷: 理想をもって社会を変えようとした人たちがドンドン過激な集団になっていきました。最初はそうでなかったはずで、一ノ瀬泰造さんもそう思っていたはずです。優しい心をもったカンボジアの人たちがそんな残酷なことをするはずがないと……だれもがずっとは信じられなかったのです。

KnK写真展2016-7

渡辺: 隣国のタイは、とても優しい国として知られますね。

渋谷: カンボジアの方たちも穏やかで優しい方たちなのです。気候も良くて、本当は豊かな国でした……。

渡辺: 10数年前の訪問で撮った子どもたちをもう一度撮っているケースもありますね。皆さんそろそろ30歳前後ですか。

渋谷: 7〜8人に会いました。新婚だったり、子どもが生れた人もいます。幸せそうにしていました。

渡辺: 再会できなかった子たちもいたわけですか。

渋谷: そうです。会えなかった人の方が気掛かりです。再会できた人は、会う心の準備をして、私を受け入れてくれました。会えなかった人たちがとても気になります。

(写真はKnK提供)

(写真はKnK提供)

40点の写真から見えてくるカンボジアと若者たち

渡辺: 連絡さえつかなかった子もいたわけですね。

渋谷: そうです。紛争が収まってもすぐに子どもたちに平穏が訪れたわけではありません。家族が紛争で亡くなった子どもたちの中にはストリートチルドレンになった子や人身売買に遭った子もいます。カンボジアの皆さんにとって隣国のタイは憧れの国ですが、タイとの国境に近い村に住む子どもたちの中には、お金を稼いで家族に仕送りをするけなげな子もいますが、派手な生活に染まって薬物に手を染めたり、売春をしたり、荒んだ暮らしをする若者たちも見ました。

渡辺: 今回の渋谷さんの40点の写真にはコメントが付いたものもあります。それを読むとカンボジアの今がひとつの物語のようにつながってきます。

アナウンサー・渡辺真理さん

アナウンサー・渡辺真理さん

渋谷: この10数年で豊かになった人々もいます。工業団地がたくさん生まれて、中国系企業がそこに入って縫製工場ができました。郊外に行くと朝6時くらいからトラックに満載された女性労働者たちの通勤風景が見られます。でも中には劣悪な労働条件で働かされている人たちも大勢いるようです。

渡辺: 建設中の巨大な空港ビルの写真もありますね。

渋谷: プノンペンは建築ラッシュが続いています。クレーンが十数本立ち並び、高層ビルのラッシュが続いています。

KnK写真展2016-4

渡辺: 少しずつでも変わっているのは良いことですが、生き方を自分で決めるという幸福があるかどうかですね。

渋谷: ある若者から「勉強しても仕方ない」「大学を出ても良い仕事に就けない」「コネもないしお金もない」という話を聞きました。頑張ったら報われる社会になってほしいものです。

渡辺: 日本では戦後70年経って、貧困という事態からどうにか抜け出そうとしていますが、新しい貧困が問題になっています。カンボジアの若者たちも希望が持てる社会になると良いですね。

渋谷: 貧困による格差がカンボジアでも存在します。

渡辺: 渋谷さんが一人ひとりにカメラを向け、レンズに返してくれる笑顔がこれだけあったわけです。

渋谷: 彼らの存在から生きるエネルギーや生命力をみなさんに届けたいと思いました。今回の写真展のタイトル「明日に吹く風」は、そんな思いから生まれました。(2016年10月)

※このギャラリートークはゆうちょ財団の助成で実施されました。この財団は2010年4月から2014年3月まで国境なき子どもたちが行う「カンボジアの刑務所内での教育事業」に助成をしています。


KnK写真展2016-8

渋谷 敦志(しぶや あつし)/写真家・フォトジャーナリスト 東京都在住

1975年大阪府生まれ。大学在学中に写真を本格的に撮り始める。2002年London College of Printingを卒業。現在は東京を拠点に、アフリカやアジア、東北などで紛争や貧困の地で生きる人々の姿を写真と言葉で伝えている。第3回MSFフォトジャーナリスト賞、日本写真家協会展金賞、視点賞・視点展30回記念特別賞など受賞。「ナショナルジオグラフィック日本版」やミュージシャンの後藤正文氏が編集長を務める「THE FUTURE TIMES」などに写真や文章を寄稿。写真集『回帰するブラジル』(瀬戸内人)、著書『希望のダンス』(学研)、共著『ファインダー越しの3.11』(原書房)。
www.shibuyaatsushi.com

認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)

担当:清水 匡 / 松浦 ちはる
URL : www.knk.or.jp

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