国内企業最前線
みんなで屋根上ソーラーをつくろう!
日本初・体験型施工DiOがついに実現日曜大工気分で屋根上にソーラー発電パネルを取り付けよう、という動きが本格化しそうです。名づけてDiO。《Do-It-Ourselves》の略ですが、プロと一緒に建物のオーナーや参加者たちが自らの手で太陽光発電の設置を行うというもの。目の前でみるみるうちにソーラーパネルが組みあがるのを本誌記者もしっかり見せてもらいました。
第一部
ソーラーパネルの取り付け、実はこんなに簡単!
太陽光発電などの買取価格の下落やFIT(固定価格買取制度)法の見直しなどで、冷や水を掛けられた感のある再生エネルギーの普及。だが、そんなことであきらめない人たちもいます。たまエンパワーを中心とするDiOの取り組みは、「日本の屋根に革新を」の呼びかけとともに、ソーラーパネルの設置作業の一部を自分たちも担い、設置価格の引き下げとともに、都市部のビル屋根にソーラーをでっかく広げようとしています。
1.設置場所を決める
2.設置架台を組み立てる
3.ソーラーパネルを組み込む
4.配線で外部とつなぐ
DiOのメリット
当日は、㈱太陽住建のスタッフの皆さんと参加者が一緒に組立作業を行いました。写真で見てもわかるようにあっという間に完成しました。DiOの特長はズバリ次の2点にあるといえます。
*プロと一緒につくるから安心
*コストが安く付くこと、愛着がわくこと
第二部
DiO開発のねらいと今後の事業展開を語る
私たちはこんな会社です
山川: まず、自己紹介からお願いします。
河原:太陽住建の河原です。私たちはリフォーム事業からスタートして、2016年末で8期目に入る若い会社です。本社は横浜市磯子区にあります。私たちが目指すのは、社会貢献と本業の一体化です。横浜市神奈川区にある日本で一番古いアイススケートリンクの建て直しを2015年12月に行いましたが、その施設は「横浜銀行アイスアリーナ」と呼ばれています。
こちらの屋根を横浜市体育協会より借りて太陽光発電事業を行い、その収益の一部を福島の子供たちの支援に活用しています。つまり、「電気で受けた恩は、電気と元気で返すプロジェクト」ということですが、私はその会の発起人をさせてもらっています。
川畠:クラニッヒソーラーという会社の日本法人の責任者をしています。クラニッヒソーラーは、1995年に創業したドイツの太陽光関係の機器を専門に扱う商社ですが、メーカーでなく商社というところがミソです。当社の創業者はもともとポルシェの研究開発センターなどで開発の仕事をしていたのですが、父親が太陽光パネルの仕事を請け負うマイスターでした。そんな関係で太陽光発電に関わるようになりました。
山川: たまエンパワーの山川です。たまエンパワーは、2015年に生まれたばかりの新しい会社ですが、2012年から多摩電力という会社で多摩地域で公共施設や企業の屋根を借りて、市民ファンドで資金調達し、屋根を借りて太陽光発電事業を行ってきました。それが前身となり「たまエンパワー」を立ち上げました。
事業を展開する上でこだわっているのは、地域が主体となって再生可能エネルギーを拡大していくことです。地域のことは地域の人たちが一番よく知っています。そういう方とつながり、信頼できる施工店とマッチングし、地域で末長く事業を展開するため、ホワイトフランチャイズ(=価値観を共有する組織が手を組み、共同仕入れや保証体制、防災教育など個では及ばない大きな力を発揮する)という仕組みをつくり、「エネフローラ」ブランドで太陽光発電事業を展開してきました。
私たちの事業とその特長
山川: それぞれの事業の特長をお聞かせください。
川畠:ドイツでは、ソーラーパネルの設置は、瓦を加工したり、屋根に金具をつけて取り付けるため、ライセンスを持った人しか触ってはいけないということになっています。創業者の父親がそのマイスターであり、ドイツで太陽光発電が盛んになったときに家業を引き継ぎました。
コンセプトは「100パーセント再生可能エネルギーで人々が安心して暮らせる環境をつくること」で、ドイツの原発や化石燃料が社会問題化されている中、持続的に生活していく上で、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー事業を推進していこうと決めました。
河原:今、私たちが力を入れなければならないのは、都市部での再生可能エネルギーの普及です。都市部の土地代は高く、発電用地を探すのはとても大変ですが、建物は沢山あり、その屋根はほとんど活用されていません。しかし、陸屋根へのソーラーパネルの設置はコストがかかるという問題もあり、なかなか普及につながっていません。
陸屋根に特化したソーラーパネルの設置方法がないかずっと探してきましたが、3年前に名古屋にあるクラニッヒソーラーさんが、陸屋根に置くだけで設置ができる架台をドイツから持ってこられました。建物にも負荷がかからず、台風などにも強いということで、太陽住建は日本で一番初めにそれを施工しました。
川畠:弊社は日本に入ってきて3年と歴史が浅いこともあり、日本国内での認知度はまだ低いですが、ヨーロッパはもちろんのこと、アメリカ・メキシコ・オーストラリアなど世界各国で事業展開をしており、世界のマーケットで培った20年の実績があり、国内でも最近では公共施設等でも実績がでています。そうした積み重ねで少しずつ私たちの技術力も評価いただくようになりました。
また、太陽光機器の販売だけでなく、プロジェクトのファイナンスやメーカーとコラボレーションした商品開発なども行っています。一般の商社のように大量に仕入れて大量に販売するのではなく、技術検討や技術試験等を実施して、評価できる商品しか売らないというスタンスを取っています。太陽光に付随する優れた商品は日本メーカーや海外メーカーを問わず取り扱っています。お客様に最適なものを提供するため、メーカー色を薄め、当社独自の技術検証の下で組み合わせているところが弊社の最大の特長だと思います。
山川: 首都圏を見回すだけでもたくさんの市民電力・ご当地電力が存在します。単独では展開に限界があっても、地元ではめっぽう強いという方々とパートナーシップを組んで展開しているのがたまエンパワーの特長です。
今日も八王子・町田・小平・板橋といった首都圏の地域の方々、鳥取・島根といった遠方の方々も参加しています。太陽住建さんも弊社のパートナーの1社です。太陽光発電、蓄電池等を社会に普及することによって、建物のエネルギーの自給自足、地域でのエネルギー循環に資するような活動を心がけています。
DiOの原点と可能性
山川: DiOはある体験がきっかけだったそうですね。
河原:あるとき、「ソーラーバッタ」というおもちゃを親子で一緒に組み立てるイベントをやりました。でき上がって太陽光が当たってバッタが動くと、大人も子どもも「ワ~ッ」とみんな喜んでくれました。これがヒントとなり、「太陽光発電は自分たちで組み立て、それが発電したら、感動につながる」と考えました。感動こそが再生可能エネルギーの普及につながっていく力になると思ったのです。
大手建設資材メーカーの方にも来てもらい、「これならいける」とお墨付きももらいました。弊社独自にDIYという形で神奈川県内ではじめました。複数の施工実績があり、神奈川県のホームページにも掲載してもらっています。その中で発達障がい者支援団体との連携も始めています。彼らの集中力は素晴らしく、2時間を予定していた工事を1時間半で仕上げてしまいました。そうした経験も踏まえ、更にこうした動きを拡大するため、たまエンパワーの山川さんに相談して誕生したのがDiO(Do it Ourselves)です。
山川: DiO開発に当たっては太陽住建、クラニッヒソーラー、弊社の3者共同で行ってきました。体験会に参加した方はわかると思うのですが、DiOの施工は拍子抜けするほど簡単です。こうした施工体験を通じて、屋根に上がったことがない方も、太陽光発電のこと、再生可能エネルギーのことを身近に感じることができ、まなびにつながります。
また、みんなで汗を流すことはコミュニティが活性化するよいきっかけにもなります。ただ一方、建物オーナー様からすると、いろいろな心配が先に立って、なかなか決断がつかないこともありますね。
川畠:弊社が扱うK2社の架台はアンカーを打たないので屋根の防水層を傷つけないので基本的に雨漏りの心配はありません。また、耐風圧設計に優れおり、日本のみならずフロリダのような大型ハリケーンが来るような場所にも納入実績があります。日本のJIS規格にも準拠しており、今まで弊社が納入したところで飛散事故等は一件も発生していません。
山川: DiOでは“プロと一緒に”という点にこだわっています。餅は餅屋という言葉もあるように、日本人は品質に対するこだわりが強いという特徴がありますね。プロと一緒に行うことで安心感をもって作業ができ、かつ、素人ができるところはしっかりと役割を担うことで施工店の稼働数を短縮しながら、品質とローコストを実現するというのがDiOのアプローチです。
ドイツと日本の太陽光パネルの設置コストには大きな開きがあります。今後、設置コストの低減はますます必要になります。とはいえ、過度の価格競争は業界全体が疲弊し、健全な産業の育成につながりません。「役割と責任をプロと素人でシェアする」という新しい発想で合理的にコストを下げていくことが日本の屋根上太陽光に新たな可能性を拓くと考えています。(2016年12月)
クラニッヒソーラー株式会社
株式会社太陽住建
たまエンパワー株式会社
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