CSRフラッシュ
私が日本の金融界に伝えたいこと。今こそ再生可能エネルギーに支援を
国連環境計画・金融イニシアチブ 特別顧問 末吉 竹二郎さんの講演からトランプ大統領による「アメリカ第一主義」が世界を震撼させている。就任早々、環境保護団体や先住民らが激しく反対してきた2つの石油パイプライン計画を認める大統領令に署名した。化石燃料への逆戻りを意味するだけでなく、COP21の合意を裏切るものとなれば、その責任はいつか地球全体で負うことになりそうだ。警鐘の意味も込めて末吉竹二郎さんの講演を届けたい。
エネルギー転換が始まっている
世界を見渡すとエネルギー政策の大転換が始まっています。
欧米では1番目に「省エネへの注力」が来ます。省エネこそ第一の燃料だという見方です。2番目に「自然エネルギーの拡大」が来ます。伝統的な「火力発電」はそのうしろに来ます。これが最近の世界の潮流です。日本だけが旧態依然としたエネルギーの順番付けがまかり通っているのです。
「自然エネルギー世界白書」であるREN21レポートによれば、2015年の末で、世界の自然エネルギー(除く水力)の発電容量は785GW、わが国の原発を含む発電容量が230 GWですから、日本の全発電能力の約3倍の自然エネルギーが世界には存在するのです。
ちなみに世界の原発は382 GWとなっていますから、単純比較で原発の2倍以上の自然エネルギーが世界で動いている計算です。
中国、アメリカ、ドイツが自然エネルギーのトップ3に
国別でみると自然エネルギーのトップ3は、中国、アメリカ、ドイツとなっています。その後に日本ですが、大きく水を開けられています。日本は、再生可能エネルギーで世界のトップを走っていると思っていたら、いつの間にか、違った道を走っていたわけです。
自然エネルギーの設備ができるのには資金が必要です。このような分野に資金がどの程度入っているのかを見ると、2015年だけで年間約30兆円の資金がこの分野に入っています。
一昨年英国に行きました。英国のランドさんというエネルギー気候変動大臣が「2025年までに英国の石炭火力発電所を全廃する」と発表しました。この発表があった直後の30分ほどで英国の証券市場では石炭火力発電所の時価総額が80億円も消えたそうです。
先進企業が自然エネルギーの利用に舵を切っている
企業の側も業務で使用するエネルギーは100%再生可能エネルギーで賄おうという動きが始まっています。IKEAをはじめ、スターバックス、ウオールマート、ナイキ、BMW、コカ・コーラ、グーグルなど68社に上っています。
こうした企業はどうしているかというと、自然エネルギーのプロジェクトに資金を投入して、再生可能エネルギ―をつくってもらい、それを自社の業務に必要な電気を賄うというスタンスです。アップル社は米国、英国、豪州、中国など23カ国で再生可能エネルギ―100%を実現しています。その他の国を含む全世界でも達成しつつあると思います。それほど巨額の資金をこの分野に投資しているわけです。
電気自動車会社で知られるテスラ―という企業のオーナーは壁掛け式の蓄電池を使って電気を貯めて置けば、送電網に頼らなくても自家発電で対応できるというアピールを行いました。こうした流れはこれからさらに進むはずです。
将来性を見極めて変化を進める電力会社も
こうした流れを心配している人々もいます。既存の電力会社の方々です。2020年以降、既存の電力会社の売上はおそらく半減するだろうと言われています。ドイツにおける世界最大級の電力会社では、すでに伝統的な発電部門と自然エネルギーの部門を分離することにしました。どちらを社外に出したと思いますか。売上の9割を占める伝統的な発電部門を社外にスピンアウトしたのです。日本なんかの発想とは逆なわけです。
ニューヨークの市長を3期勤めたブルンバーグさんが民間に戻りましたが、そこで出したレポートによると、発電用の化石燃料の需要はあと10年で頭打ちになるというものでした。なぜ、化石燃料が伸びないかというと、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの新設コストが規模拡大によるスケールメリットにより、急激に下がるからだと言われています。
いま動いている化石燃料を使った発電所を動かすコストよりも、新設の自然エネルギーのコストの方が安くなる時代が近づいているわけです。風力や太陽光などの再生可能エネルギーは燃料で動くわけではなく、技術で動いています。大量に出回れば当然コストは下がります。そこが石炭や天然ガスを燃料とする既存の発電所とは大きく異なる点なのです。
銀行員はどこに行ってしまったのか
少し話題を変えて金融の話に戻します。金融というと良いこともしてきましたが、リーマンショックでは世界経済に大変な迷惑を掛けました。ところがその金融も急激に変わり始めています。
私はこの20年来国連環境計画の金融イニシアチブの仕事をしています。この会議が生れたのは1992年のリオサミットがきっかけでした。国連環境計画が生れたのは1972年ですが、それまでの環境問題というのは特定の地域に限られていました。
ところがリオサミットの頃になると、海洋汚染や大気汚染の原因と結果が国境をまたぐようになりました。グローバルに環境問題を考える組織が必要になると、国連も考えるようになりました。
これまでさまざまな産業セクターの方々が国連環境計画の活動に協力してきましたが、銀行員は誰一人として協力してきませんでした。ということに気づき、欧州の銀行などに声を掛けて生まれたのが金融イニシアチブです。金融が環境に取り組み始めた歴史はそれほど浅いわけです。
投資原則に「環境・社会・ガバナンス」が登場する
2006年4月に国連の事務総長が金融業界に提唱したのが「責任投資原則」です。投資の意思決定のプロセスに「環境・社会・ガバナンス」の3つを反映することが決まりました。環境・社会・ガバナンスが重要な投資の要素になったわけです。
投資というのは一言でいうとお金にお金を生ませることを指しています。そこに責任投資原則ができたというのはまさに画期的なことです。お金だけで考える時代は終わりを遂げたといってもよいでしょう。世界の投資家が変わりつつあるのです。
日本でも2011年に「21世紀金融行動原則」というものができました。持続可能な社会をつくるために、必要な責任と役割を果たすと宣言しました。そういう動きのなかで最近、「グリーン・バンク」が生れました。
グリーン・バンクの時代へ
グリーンな資金でグリーンな産業の育成を進めるという動きが加速しています。その中でもっと大きな活動をしているのが2012年11月に英国で発足した「グリーン・インベストメント・バンク」です。政府が公的資金を38億ポンド入れました。日本円でいうと6,000〜7,000億円です。
当初の3年くらいで1兆円を超えるプロジェクトを立ち上げました。洋上浮力発電所がたくさんできています。その後、日本でもグリーン・ファンドが生れました。
クルマにガソリンを入れると炭素税を払うことになります。年間で2,600億円くらいです。その一部を自然エネルギーのプロジェクトに出資をすることにしました。環境省からグリーン・ファンドに資金が入って、民間資金と一緒にして日本の再生可能エネルギーなど国内の低炭素プロジェクトに投資し、応援していこうというわけです。私もこの組織の代表理事をしています。
あなたの投資先は2℃ですか、4℃ですか
この質問の意味はお分かりでしょう。2015年末にパリで開催されたCOP21では「地球の気温を産業革命時から2℃未満に抑えるという宣言をしました」。(現状のままだ4℃の増加となります。)しかし、多くの企業がこの意味を理解し、行動に移しているかというと、まだまだ不十分です。
フランスの環境大臣は、気候変動のリスクに対して対策を打ち出している企業を表彰しました。イギリスのあるNGOは、2℃未満を実現するにはグリーンエネルギーへの追加投資が必要だとしています。そして、2030年には1兆ドル=約100兆円の投資の流れをつくろうという動きが始まっています。
フランスでは、2015年7月に「エネルギー移行法」を制定し、上場企業に気候変動リスクの開示を義務化しました。また、金融機関にもストレステストの実施と結果公表を義務化しました。フランスの企業はCO2の排出量を外部に明らかすることが義務化されたわけです。
ロンドンにあるノルウェーの国民年金基金は、石炭関連企業への投資を引き上げると発表しました。つまりCO2の排出につながる投資はもうやめると表明したわけです。これからの投資先には、「環境(E:Environment)・社会(S:Social)・ガバナンス(G:Governance)」をしっかりやっている企業にするというメッセージです。
2011年から2012年の話ですが、世界のエネルギー関連会社が所有する化石燃料は、確認されたものだけで2兆7,950億トンと言われています。ところがCOP21の協定を守ろうとすれば、CO2の排出量の限度は5,650億トンどまりとなります。で、21世紀の後半にCO2の排出量をゼロにするとなると、地下にある化石燃料の多くは掘り出せなくなるのです。これには英国の中央銀行総裁も「地平線上の悲劇」と述べています。
スイスにバーゼルという国際決済銀行があります。世界の金融機関の監督機関でもあります。銀行の自己資本規制などもそこが中心となって行ってきました。
銀行がお金を貸し出す目安は、これまでは貸借対照表や損益計算書の良い会社が中心でした。これからは環境リスクなどを正しく見ておかないと、企業の中には株式が紙くずになる企業が出てくるというわけで、銀行の自己資本に関わるバーゼル合意の中身を見直す動きも出ています。
国連事務総長のコファ・アナンさんは、2003年5月にニューヨークで行われた年金基金などの機関投資家の会議で「皆さんが投資のあり方を変えない限り、地球に未来はない」と語りました。その結果、2006年に誕生したのが「責任投資原則」でした。
金融の仕事に携わる銀行員などが、気候変動などに目をつむっていると、地球の未来は大変なことになると警告し、新しい投資のための原則を決めました。
数年前、アメリカのシティバンクの前に「私のお金を使わないで」というメッセージが掲げられました。私が預けているお金を環境破壊に使わないでほしいというあるNGOのメッセージでした。これからは銀行員にも高い倫理観が求められているのです。
私は日本の金融界の皆さんにも、「銀行は何のために存在するのか」「銀行が扱うお金はだれのものか」「社会のお金は社会のために流すのが銀行の役割だ」と述べたいのです。社会のお金は社会のために正しく仲介して流すのが、銀行本来の姿であり、役割なのです。
※この記事は、2016年夏に市民電力連絡会における末吉竹二郎さんの記念講演のポイントを当編集部の責任で要約し、まとめたものです。文責は当編集部にあります。
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