識者に聞く

AV出演強制被害者は、なぜなくならないのか

ヒューマンライツ・ナウとライトハウスが国会で法制化を訴える

若い女性の無知や困窮に乗じてアダルトビデオ(AV)出演を余儀なくされる事例が後を絶ちません。「タレントにならない?」「モデルにならない?」などの甘言にだまされて一度契約すると、「仕事を断れば違約金」「親にばらす」などと脅され、出演を強要され、映像が国内外のネット等に出回り続ける……。このほど参議院議員会館でかつてAV出演を強要されたくるみんアロマさんらが、この問題の深刻さを訴え、問題解決に不可欠な法制化を呼びかけた。

[2017年5月23日公開記事]

くるみんアロマさん(左)と伊藤和子さん

くるみんアロマさん(左)と伊藤和子さん


1.AV出演被害者が、勇気をもって自身の体験を語る

くるみんアロマさん(ユーチューバー)×伊藤和子さん(弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ 事務局長)

伊藤:昨年(2016年)、くるみんさんはAV出演被害者としてあえてご自分を公表されましたが、どのような思いからですか。

くるみん:今日は私が苦しんだ過去の話を聞いてほしいと参加しました。AV出演は早く忘れ去りたい過去でしたし、事務所を辞めた後もふさぎ込み、Facebookには「給与ももらわずに辞めました」とだけ書きました。その書き込みを見たメディアの方から取材のお誘いがありましたが、心の整理がつかず一旦はお断りしました。

けれども、ある記者さんから被害が増え続けていることを聞かされ、自分でなければ伝えられないことがあると思うようになり、取材を受けました。こうして表に出ることは、本当に大きな決断でした。

AV問題2

“夢をかなえたい”気持ちを利用される

伊藤:くるみんさんは、スカウトされてプロダクションと契約されたのでしたね。

くるみん:新宿の街で「グラビアをできる人を探している」と声を掛けられました。グラビアモデルに興味はありませんでしたが、高校時代に音楽活動をしていたため、もしかしたらアーティストになる自分の夢が叶うのかもしれないと。

事務所と契約した1週間後にはグラビアの仕事で社長と面接に行きました。すると社長がいきなり「この子はヌードもできます」と。水着の仕事さえ抵抗があったので、えっと思いました。でも面接前に社長から「絶対ノーという言葉だけは言わないでよ」とクギを刺されていたこともあり、その場では何も言えませんでした。

その後は毎日泣いていました。もどかしい気持ちと、戸惑いばかりでした。

伊藤:ヌードは嫌だったはずなのに断われなかったのはなぜですか。

くるみん:最初がサイパンでグラビアとイメージビデオの撮影だったのですが、どんどん水着が過激になり、最後はヌードを要求されました。何というか…現場では、何人もの方に囲まれて説得が凄かった、事務所からは「脱がなければアーティストとして売れるのに10年かかる」とも言われました。

最初の撮影後は、“脱ぎ損”で言いの?と何度も言われました。1度ヌードになったら、徹底的にやらなければ(そして有名にならなければ)“脱ぎ損”だと。そして「そのうち音楽デビューしようね」「こんな番組に出ようね」「好きなアーティストさんに会わせるよ」と。夢をかなえるためには、つらい仕事、ヌードも乗り越えなければと思ってしまいました。

伊藤:私たちの調査では、AV強要被害はタレントやモデルにならないかと若い女性たちの夢を膨らませる誘いから始まります。くるみんさんの場合は、歌手になりたいという夢がかなうかもしれないという思いを利用されたわけですね。


AV強要被害の問題をより深くご理解いただくために(1)
十分に周知されていない深刻なAV強要被害の実態

衆人環視のもとで意に反する性行為を強要されるAV強要による被害は、深刻なPTSDに苦しめられる人、ネット上などで半永久的に映像が公にさらされ続けることを苦に自殺をする人、整形手術を繰り返す人など、非常に深刻です。しかし「多くは職業として自らの意思で出演しているのでは」「全てを強要被害とするのは職業差別では」といった議論のなか、未だ被害の実態が十分に周知されていません。ヒューマンライツ・ナウでは2016年3月にAV強要被害調査報告書(http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2016/03/c5389134140c669e3ff6ec9004e4933a.pdf)を公表しています。調査報告書には、被害者救済が喫緊の社会的テーマであると実感せざるを得ない、様々な被害事例が具体的にあげられています。


おどしと甘言で、もう1人の自分が洗脳されていく

伊藤:AV出演に至る経緯はどんなものでしたか。

くるみん:何回か小さな番組などに出たのですが、どれもセクシータレントの扱いでした。別の仕事がしたいと相談すると、AV女優の話になりました。

絶対嫌だと断わると「それって職業差別じゃないの」「芸能界分かっていない」「時代は変わってるんだよ、AV女優から有名になる人もたくさんいる。むしろAV女優の方がグラビアアイドルよりずっと上だ」と。1年近く、時には十数人の人に囲まれて説得されました。どんどん逃げ場がなくなり、追い詰められていくようでした。

冷静な自分は「AV女優になって有名女優になる人はほんの一握り」と分かっているのに、事務所には「あのタレントもデビューさせたすごい人だ」といわれる人もいて、「そうなのかな、自分が甘いのかな、デビューするために我慢しなければいけないのかな」と洗脳を受け入れている自分もいました。

伊藤:AV出演にはいくつかパターンがあります。1つは道端などで簡単なビデオ出演などとだまして書類にサインさせ、AV撮影と知って断ると「契約違反だから高額の違約金を払え」と言って脅すものです。くるみんさんの場合は、だましたうえに時間をかけて説得し、洗脳していくパターンです。

「芸能界の大物に会わせる」などと言って夢を利用するのですが、最終的にはすべてウソばかりです。10代から20代前半の女性は人を信じて疑わないところがあります。簡単にだまされます。

くるみん:1年近くも説得されていたある日、とうとう「やります」と答えると、次の日にAV撮影の面接でした。事前に

事務所は「できないことがあったら言ってね」と言ってくれましたし、“これはできない”という撮影中のNG項目をかなり出しましたが、実際にAV撮影が始まるとすべて無視されました。私ができないというと事務所の人から「お前、やる気あるの」と強く言われました。

「メーカーさんに迷惑かけないで、うちの他の子が使われなくなるから」「不平不満ばかり」となじられ、恐怖と責任感の板ばさみ状態でした。毎日泣いていました。一度AVに出演した後は、もう夢を追うことはできない、自分はAVの道を進むしかないと絶望的な気持ちになりました。

出演費用を1銭ももらうことなく、事務所を退職する

伊藤:その後、どのように事務所を辞めたのですか?

くるみん:事務所からは2年契約と言われ、それまでは頑張らなければいけないと思いこんでいました。ある日、事務所に行くと、スカウトやマネージャーやプロデューサーなどが集まり、「社長が持ち逃げした。プロダクションが倒産したので、別のプロダクションに移籍だ」と言われました。

ところが、従来はグラビアアイドルも所属する事務所でしたが、移籍した事務所に所属する人は全員AV女優でした。そこで、ようやく自分はだまされていたのだと、辞める決心がつきました。

2本のAVに出演したお給料を全くもらっていませんでしたが、「その話は誰々に言ってよ」とたらいまわしに。それも狙いだったのかもしれません。

伊藤:事務所を辞めた後、NPO法人ライトハウスに相談し、出演AVの販売停止措置を行ったのですね。プロダクションの人たちは今どうしているのですか。

くるみん:社長は逮捕されたと聞きましたが。夢に付け込まれ、だまされた。もちろん事務所の人たちを許せません、同時に、そこまでうまく利用された自分自身への憤りや失望感があるのです。


AV強要被害の問題をより深くご理解いただくために(2)
人権を無視した契約そのものが無効である

被害者はプロダクションと「モデル契約」または「業務委託契約」を結び、メーカーに派遣されて出演し最終的に販売されます。本来、アダルトビデオ出演のために労働者を派遣する場合、有害業務派遣として、有罪判決が出されたケースがいくつもあります。しかし、業者が派遣法の適用を回避するために、雇用契約でなく、委任契約等の名前で女性と契約を結び、労働者派遣法上の罰則を免れてきました。

また、ある契約書ではAV出演と記載されない一方で“自分の身体管理—妊娠、性感染症、体重の極端な増減—に関しては自己責任”と明記されるなど、多くの契約内容は非常に一方的な内容です。しかも、被害者に契約書のコピーを取らせないなど契約書を渡さないケースも多くあります。

AV強要被害者には真面目で責任感が強い女性が多いという現状があります。未成年や20代の若い女性たちは、契約を破棄するには違約金を払わなければいけない、違約金を払えないからAVに出演するしかないと真面目に対応しようとする“律儀さ”を利用されている側面があります。

本来、私たちは誰と性的な関係を持つかという自由を持っています。その自由を侵害されるAV出演(被害者が出演を強要されたAV作品には非常に残虐な内容が少なくありません)の強要そのものが人権侵害であり、本来、人権侵害を含む契約は憲法に反し、契約は無効となるその原則が被害者はもちろん、社会全体で周知が徹底されておらず、被害者救済には法整備が急務となっています。

<例>ある被害者がAVで強要された行為(注:くるみんアロマさんではありません)
*撮影のため1日12リットル以上の水を飲まされる
*避妊具も付けず洗浄もしないまま複数人から挿入行為をされる
*避妊具も付けず洗浄もしないまま肛門と膣の出し入れをされる
*膣内に男性器に見立てた管を通し、大量の液体(卵白)を何時間も続けて流し込まれる
*避妊具もつけないまま複数人の精液を無理やり膣内に注入される
*下半身をむき出しのまま、上半身は木の板囲いによって固定され、身体的自由を奪われたまま凌辱を受ける
*多数におよぶ無修正の動画への出演強要


2.AV出演強要は「人身取引」そのもの

相談窓口である人身取引被害者サポートセンター
ライトハウス代表 藤原志帆子さん

AV問題3低

AV出演強要も実は人身取引です。暴力やおどし、だましの手段を使って、人の自由を奪い、働かせ、その利益を搾取しているからです。

この3年はAV関連の被害者の相談が急激に増えています。2013年まではほぼゼロに近かったのですが、2014年からは毎年ほぼ倍増しています。それでも相談の声を上げられる被害者(女性も男性もいます)は、本当に一握りだと感じています。

全国からの相談内容は「明日が撮影だが絶対に行きたくない」「来週には自分の撮影されたものが販売されてしまう」など、緊急対応が必要なケースが多いです。

人に見られたくないプライベートな情報—裸の映像、暴力的かつ残忍なことをされているような映像—をさらされ、なおかつ放置されている。特に、海外のサーバーに置かれてしまうと、日本にいる私達が回収することは限りなく困難です。

親にばらす、学校や職場にばらすなどと脅され、出演を強要された当座だけでなく、映像が出回り続けることで、被害者はその後の人生も苦しんでいます。被害者の多くは「拒否できなかった自分がいけなかった」と自分を責めてしまう、そうした中で勇気を出して、やっと支援団体と繋がり、声を上げ始めましたが、表に出ている被害の実態は本当に氷山の一角です。

2015年にはAV出演を断った女性に対してプロダクションが約2,500万円の違約金を請求する裁判がありました。東京地裁が「本人の意に反して強要できない性質の仕事だ」として、請求が棄却されました。2016年度は内閣府が専門調査会を立ち上げました。警察も大手プロダクションの逮捕に着手しました。メディアの皆さんもようやく注目していただきつつあります。

しかし、この問題をNPOだけで解決するのは困難です。行政のさらなる力が絶対に必要です。より多くの皆さんに現状を知っていただき、“法律を作る”ところに結び付けなければならない、今この瞬間も緊急の対応を必要としている被害者、特に若い女性や男性の被害を止めていきたいなと思っております。


シンポジウムには業界から現役AV男優の辻丸(つじまる)氏も出席し『自分は長年にわたる“加害者”として参加した。正直、業界ではこの問題を正面から受け止めようとしていない。また、現場の実感として最近のAV業界には自らの意志で入ってくる中年女性なども多い、その背景には深刻な女性の貧困など日本の別な社会問題もあると思う。』と多面的に意見が届けられた。」


3.AV出演被害者を救済できる法整備を

被害防止と被害者の救済立法に取り組む
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ 事務局長 伊藤和子さん(弁護士)

AV問題5低

AV強要被害が刑事処罰の対象になりにくい現状

若い女性たちの多くはAVに出演するという意識がないままプロダクションと契約し、「契約だから仕事を断れば違約金が発生する」「親にばらす」などとおどされ、AV出演を余儀なくされています。

多くの女性は契約書の中身を理解できないままサインをし、コピーすら渡されていません。ひとたび撮影されれば、著作権はずっとメーカーが持ち、半永久的に流通し、二次利用や三次利用でいつまでも被害に苦しむ結果となります。意に反して出演したAVが大量に販売されていることを知って、自殺に追い込まれた女性もいます。

現在の法律では、18歳未満の少女のみを対象とした「児童ポルノ法」がありますが、刑法上の「わいせつ」には該当しないとされる例が多いのが実情です。過酷で虐待的な演技をさせられても「同意した」「演技だ」と言われて、なかなか刑事事件として告発されません。

本来は、AV出演への勧誘は職安法違反、雇用している女性をAV出演に派遣することは有害業務への労働者の派遣として労働者派遣法違反となり処罰の対象となると解され、有罪判決も出ています。しかし、多くの業者は女性との契約を労働契約ではなく、たくみに「委任」「委託」などとし、指揮命令関係がないとして法律の規定を逃れています。

さらに、被害者は消費者の定義に当て嵌まらないということで、消費者法でも対応できないということになっております。つまり、現状は労働者としても消費者としても保護されない状況が続いています。

被害者の立場に立った国としての対策を

現在、AV強要被害については監督官庁も設置されていません。早急に包括的な救済立法を制定する必要があることから、マスコミの皆さんのご協力で問題を多くの皆さんに認知いただくととともに、国会議員の皆さんに超党派での取り組みをお願いしています。

ヒューマンライツ・ナウでは、以下の10項目を盛り込んだ被害防止と救済立法をめざしています。

1)監督官庁の設置
2)真実を告げない勧誘、不当なAVへの誘因・説得勧誘の禁止
3)意に反して出演させることの禁止
4)違約金を定めることの禁止
5)禁止事項に違反する場合の刑事罰
6)契約の解除をいつでも認めること
7)生命・身体を危険にさらし、人体に著しく有害な内容を含むビデオの販売・流布の禁止
8)意に反する出演にかかるビデオの販売指し止め
9)悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止などの措置
10)相談および被害救済窓口の設置

AVには非常に広範かつ多くの企業が関わっていますが、巨額の利益を生み出すこのAV業界の末端では深刻な人権被害が生じています。業界、関係する企業には、問題を早期に是正し、防止策を講じ、きちんとした対策を確立してもらいたいと考えています。

本件へのお問い合わせ

特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ(HRN)

Email:info@hrn.or.jp
Tel: 03-3835-2110/Fax: 03-3834-1025
Web: http://hrn.or.jp/

特定非営利活動法人 人身取引被害者サポートセンター ライトハウス

Tel: 050-3496-7615/Fax: 020-4669-6933
Email: info@lhj.jp
HP: http://lhj.jp
Facebook: https://www.facebook.com/LHJapan

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