CSRフラッシュ

エネルギー100年の計~地産地消で地域おこしを!

「エコプロダクツ展」環境・エネルギーの討論会から

課題大国と呼ばれる日本。なかでも喫緊の課題が地方経済の復興・再生だろう。昨年末に行われた「エコプロダクツ2017」では、再生エネルギーで地域おこしができないかという試みのもと、有識者3人によるパネル討論会が行われた。 [2018年3月5日公開]

3人のパネラー。左から柏木孝夫氏、増田寛也氏、杉山範子氏

3人のパネラー。左から柏木孝夫氏、増田寛也氏、杉山範子氏

エネルギー100年の計~持続可能な地方経済と地方創生に向けて

柏木:本日は「エネルギー100の計」という大きなテーマです。「持続可能な地方経済、地方創生に向けて」という副題があります。地域の多様性や独自性を生かしたエネルギーの最適化はいかにあるべきか、意見を交わしたいと思います。

地域コミュニティーをいかに維持していくか

増田:3年ほど前に『地方消滅』というタイトルの本を出版しました。全国では一部の地域を除いて急激な人口減少が起き、このままでは地域経済の担い手がいなくなります。地域のコミュニティーをどう維持するかが問われています。

野村総合研究所顧問/東京大学公共政策大学院客員教授増田 寛也氏

野村総合研究所顧問/東京大学公共政策大学院客員教授
増田 寛也氏

柏木:小規模な再生可能なエネルギーを活用して地域電力を育て、それでもって地域を復興させるという動きがあります。

増田:経済も行政も、これまでは東京に集中してきました。東京を中心に税が集まり、公共事業などで再配分して地域間のバランスを取るという発想でした。

柏木:道路や橋は地方でも行き届いた感があります。これからはエネルギーや環境の分野に資金を入れて、再配分していこうというわけです。地域電力を育てるのもそうした動きですね。

増田:地域自立型の電源を育てるという動きがあります。森林から生まれる木質バイオマスを使った電力なども有望なものです。山を活用することで産業としての林業を復活させようという狙いもあります。九州では鹿児島の志布志港から中国に向けて木材を出していますが、林業再生という思いが込められています。

柏木:現政権も林業の再生を考えているのですね。

増田:高性能な林業機械を使って、山に手を入れようとしています。林業は伸びしろのある産業に転換するかもしれません。

柏木:杉山先生はドイツで開かれたCOP23※の会議から戻られたばかりですが。

※COP23(国連気候変動フィジー会議)
南太平洋の島国フィジーがホスト国を担った。フィジーには国際会議場がないため、会議そのものはドイツ・ボンで行われた。会議の焦点は「パリ協定のルールづくりの進展」と「パリ協定の各国目標引き上げのための対話( 2018年実施予定)」。パリ協定の離脱を発表したアメリカの動向にも注目が集まった。


自治体と市民の力で環境への取り組みを前進させる

杉山:この会議には各国から自治体の首長も集まってきました。すごい熱気でした。

柏木:シンクグローバル、アクトローカルと言いますが、世界の環境問題を動かすのには、地方自治体によるローカルの取り組みが重要だというわけですね。

杉山 大きく動かすのは市民の力ですが、そのリーダーシップを取るのは地方自治体だというわけです。

柏木:先生は「市長誓約(Covenant of Mayors)※」の日本の事務局をされていますが、「市長誓約」についてもお聞かせください。

杉山:「市長誓約」は、地方自治体の首長が集まってエネルギーや環境の取り組みを進めていこうという取り組みです。エネルギーの「地産地消と地域創生」を目標にしています。欧州からスタートし世界に広まりました。これまでに世界の7,500を超える自治体が誓約に参加しています。

最近の報告では315の自治体で最終エネルギーの消費が18%削減され、最終エネルギー消費の再生可能エネルギーの割合が7%増加しました。地域内の再生可能エネルギーによって発電された電力は34TWh(EUの2,100万人/年にエネルギー需要に相当)まで増えています。この結果、温室効果ガス排出量は基準年よりも23%削減されました。

名古屋大学大学院環境学研究科附属
持続的共発展教育研究センター・特任准教授 杉山 範子氏

※市長誓約(Covenant of Mayors)
CO2排出量のさらなる削減のためEU(欧州連合)で2008年から始まった。その後、全世界的な市長誓約(Global Covenant of Mayors)の仕組みが準備されている。日本版「首長誓約」は、このEUの仕組みをモデルにして、首長のイニシアティブによって「気候エネルギー自治」を確立し、地域創生と地球環境への貢献を同時に実現することを目指す。

エネルギー100年-4

柏木:EU域内ではどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。

杉山:イタリア北部のトリノ市街地における地域熱供給の計画があります。トリノは、フランスとの国境に近いこともあって、以前はフランスの原発エネルギーに頼っていましたが、いまは水力発電やコージェネレーション※による熱供給や蓄熱槽に切り替えて原発への依存をやめました。2022年には、さらにゴミなどを燃やす廃棄物焼却炉なども熱エネルギーの供給場所として活用する計画です。地域内でエネルギーを完結しようという試みです。地域経済にとって大きな転換といえます。

イタリア・トリノ市街地における地域熱供給計画図

イタリア・トリノ市街地における地域熱供給計画図

「世界首長誓約」では、①持続可能なエネルギーの推進 ②温室効果ガスの国の目標以上の目標削減 ③気候変動の影響への適応 ④取り組みのモニタリング実施などにより、パリ協定の目標達成を地域から支えて、貢献しょうとしています。この仕組みを日本でも広げていきたいと活動を広げています。

※コージェネレーション
内燃機関(エンジン、タービン)や燃料電池で発電を行ってその際に発生する熱をさらに活用する方法、蒸気ボイラーと蒸気タービンで発電を行って蒸気の一部を熱として活用する方法がある。日本国内では主に内燃機関による方法が用いられ、一部熱供給を伴う大型発電所や木質系バイオマス・コージェネレーションにおいてボイラー・タービン方式も見受けられる。欧米では、後者が主流であるが、徐々に天然ガス・コンバインドサイクルに交換する動きがみられる。

柏木:欧州と日本ではエネルギーインフラの所有権の在り方が異なります。ドイツでエネルギーの完全自由化が行われたのは1998年ですが、当時あった8つ大きな電力会社は、20年経って4つになっています。

電力の自由化で電力会社からの電力が7割に減って、3割が新しい地域電力からのものになりました。そのうちの2割が自治体の首長さんの音頭で始まったローカルエネルギーです。インフラ整備はどうなっているのでしょうか。

東京工業大学特命教授・名誉教授/先進エネルギー国際研究センター長柏木 孝夫氏

東京工業大学特命教授・名誉教授
先進エネルギー国際研究センター長 柏木 孝夫氏

杉山:エネルギーへの投資には時間も費用も掛かります。地域を決めて少しずつ行うのが一般的です。たとえば古くなったエネルギーインフラを更新する際に、化石燃料を熱源とするのではなく、再生可能な新電力に切り替えていくといった方法です。

柏木:日本の電力会社には、発電所があって、送電網があって、配電線があります。配電線を市民が買い取るという動きもあるのでしょうか。

杉山:自治体が出資をする、自治体の資金では限りがあるので、市民が出資するという動きはあります。ライセンス契約というやり方もあるようです。

柏木:なぜ、日本でそれができないのでしょう。岩手県知事でもあった増田さんのご意見もお聞かせください。


市民が参加できる新たな仕組みづくりを

増田:日本は地域分割された大手電力会社で運営してきました。そこが発電所だけでなく送配電網も自前で持っています。電力の自由化も遅れており、自治体に電力を運営するノウハウはありません。たとえば風力発電は日本の場合、市街地から遠く離れていますので、送電網をどうするかが大問題になっています。電力会社ベースでやっていくしかないのが実態です。

わが国にはドイツの市民風車のような市民レベルの電力づくりのノウハウが不足しています。

杉山:歴史が浅いだけで、日本でも地域電力による太陽光や風力の発電所が各地で生まれています。

増田:地域分散型の市民エネルギーは国としても育てていかなければなりませんね。

柏木:バイオマス発電所などの設備機器も海外からの導入です。国内でそうした技術対応ができないのかと思うのですが。欧州ではどんな構想のもとにバイオマスの資源化を進めているのでしようか。

杉山:まず、燃料としての活用から始まって、熱供給や発電に利用しています。

増田:林業では間伐などでたくさんの端材が出ます。それをペレットなどにして活用することで、林業家に資金が回り、山そのものを強くすることにつながります。

柏木:エネルギーの地産地消ということで考えると、再生エネルギーの買い取りの対象になっているのは「太陽光」 「風力」 「水力」 「地熱」 「バイオマス」の5種類です。最初の2つをコントロールできれば、有望な地産地消のエネルギーになりえます。

杉山:欧州ではコージェネレーションの活用も広がっています。

柏木:日本では公益性の高い公共事業でもコージェネレーションの活用はあまり見かけませんね。ガスや電気に比べると見劣りしませんか。

増田:欧州は、建物自体も古いものを大切に使います。地域ごとに冷暖房をコントロールするという伝統もあります。日本に普及しなかったのは、都市部に人口が増えたため、郊外の開発が優先されたからです。今後は都市中心部の再開発で、こうした新しいエネルギー供給の在り方を取り入れなければなりません。

自治体の首長さんの中には、エネルギー問題に深い関心を持って、たとえばCO2を地下で固定化するという取り組みに野心的な構想を持つ首長さんもいます。日本政府は、2050年までにCO2を80%削減するという目標を掲げていますが、削減どころかかなり増えています。

市民に“見える化”して、これだけCO2を削減する、あるいは省エネすると得ですよというインセンティブを持たせる方法もあります。野心的な目標を掲げて市民にチャレンジしてもらうことに意義があるのです。

柏木:「市長誓約」の日本における動きはいかがですか。

杉山:特定の自治体だけでは広がりが持てないので、いくつかの都市が連携し、市民を巻き込んでやっていこうとしています。地域資源を生かしたエネルギー事業ができないかということで検討も始めています。

増田:どの地方自治体も人口が縮小しています。税収も小さくなり、地方のインフラ整備事業は取捨選択しないといけない状況です。箱もの設備の更新費だけが増えています。1つの自治体でやれることは限られています。新しい事業は広域で進めていかざるをえないのです。

柏木:民間の活用なども重要になってきますね。

増田:地方自治体が重要なキープレイヤーであることは間違いありませんが、民間との連携も大切です。

柏木:この数年でスマホやインターネットの情報処理スピードが格段に上がっています。もうすぐ電力の制御もリアルタイムでできるようになります。IoTが一般化するとさまざまなサービスで新たなイノベーションが生まれ、地域にも思わぬ効果が現れるのではないでしょうか。

杉山:災害や健康の分野でも新しい活用が始まりそうです。

増田:AI、ロボット、ICTの活用で、人手に頼ってきたサービスも変化します。もう若い人はマイカーやマイホームを持つという意識ではなく、シェアするという方向です。エネルギーの活用法も変わるかもしれません。

柏木:所有に対する意識が変わらないと真のスマート社会はやってきません。

杉山:所有したいという気持ちはわかります。ただ、突き詰めると本当に欲しいのは機能であったりもします。意識を切り替えることが必要でしょうね。利用だけなら環境への負荷ももっと小さくできます。

柏木:最後に地域創生に向けて一言ずつお願いします。

増田:消滅か成長かという二者択一ではなく、もっと多様な選択肢があってよいと思っています。いま一番踏ん張らなければならないのは地域コミュニティーの維持となっています。地方創生の原点はここにあります。

杉山:私はエネルギーの地産地消を進めることが大切だと思っています。地域によって人々の考えは異なりますし、答えは1つではないかもしれませんが、それを結びつけることで、新しい答えが生まれると思います。

柏木:新エネルギーの広がりを応援する新技術も生まれています。これらを活用してエネルギーの「地産地消と地域創生」に結び付けていきたいものです。

※この記事は、2017年12月に東京ビッグサイトで開催された「エコプロダクツ2017」の会場で行われた「環境・エネルギー会議」の模様を取材し、当編集部で要約したものです。文責は当編集部にあります。

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