識者に聞く

選ばれるソーシャルプロダクツを、いかに育てるか

人・地球・社会への配慮が込められたソーシャルプロダクツ。つくり手の思いやこだわりはどこまで社会に届いているだろうか。一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会は、このほど「選ばれるための戦略視点~顧客は何を購入するか」と題するセミナーを行った。マーケティング学の第一人者で同協会会長の江口泰広(学習院女子大学名誉教授)さんが講師となった。[2019年1月7日公開]

講演中の江口泰広先生

講演中の江口泰広先生


“社会に役立つ”だけでは売れない

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会が2012年から始めた「ソーシャルプロダクツ・アワード(SPA)」は、2019年で7回目を数えます。この間、素晴らしい商品を社会に提案してきましたが、社会に大きなインパクトを与える商品は簡単には生まれてきません。

実はどれほど素晴らしい商品であっても、それが売れて代金を回収し、利益を出さなければ社会に還元できないのです。

商品に込めた想い、つくる方の心の姿勢は正しくとも、販売にその想いが表現できていないのです。よい商品・よいサービスなのになぜ社会は認めてくれないのかということになりがちですが、それを考えてみたいと思います。

社会から選ばれるには8つほどの条件があります。きょうはそのすべてに触れる時間はありませんので、「競争力」の話から始めましょう。

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選ばれる商品だけがもつ力

競争力で大切なのは認識力とブランド力です。企業の認識力はトップの判断で決まることが多いのですが、過去の常識にとらわれている企業が少なくありません。過去の常識で現在から未来は生きられないのです。

“競争に勝つ”とはどういうことでしょうか。それは言葉を換えれば、世の中が認めたことを意味します。しかし、「いいね」となるための競争は熾烈を極めています。なぜでしょうか。どの商品も類似化しているからです。

今日の企業の最大の課題は“類似化”です。
例えばソーシャルプロダクツでしばしば登場するコーヒー。どれもフェアトレードをうたっていますが、これだけではアピールできません。いかに志しはよくとも、市場から見ればありふれたものとなっているからです。

“脱”類似化が必要なのです。これは一般に言われる差別化戦略を意味します。差別的優位性をいかにして確保するか。こういうと皆さんは競合他社の商品との差別化だと思いがちですが、実はもっと大事なことがあります。

競争の一番の本質は「戦わない」ことです。戦わずして勝てる商品をつくるのです。多くの企業では勝てない競争の視点で戦っています。それは「Doing Things Better」です。他社より少し良くするという改良型の行動ですが、これでは競争に勝てません。

では勝てる戦略とは何か。「Doing Things Different」です。他と異なったことをすることです。他と違ったユニークな存在になることが、競争力確保の大前提です。


名前とブランドは違う

突き詰めるとブランド戦略にたどり着きます。ただ、今でも名前とブランドは違うということを理解していない方が大勢います。選んでもらえる魅力や特長をもった製品がブランドです。

選んでもらえるということはどういうことか。それは販売力があり、集客力があり、高く売れることを意味します。最低でも定価で売れることが条件です。

つまり、お客様に“独自のイメージ”を植え付けることができる商品です。それは製品力とは限りません。例えばレクサスとベンツ、あなたはどちらを選びますか。機能でいえば互角でしょうが、世界から見るとベンツはレクサスの5倍を上回るブランド力をもっています。人はかならずしも製品の優劣で購入するとは限りません。自分に合っているかいないかが大切な条件なのです。

この話をスターバックスとマックで考えて見ましょう。みなさんはどっちのコーヒーが好きですか。米国の『コンシューマーリポーツ誌』で行ったブランド名を伏せたブラインドテストでは、レギュラーコーヒーに関してはマックが美味しいといった人が過半数を超えました。普通おいしさで言えばスターバックスを選ぶことのほうが多いでしょう。しかし目をつぶって飲んでみると、マックがおいしいといった人の方が多かったのです。

これは何を意味しているのでしょうか。

そうです。消費者は真実を知って買うのではなく、ブランドのイメージで買っているのです。人びとが期待する価値を「顧客価値」と呼びますが、ブランドはイメージで決まるのです。

ブランド戦略では、お客様の認知が最大のテーマとなります。お客様にどう認めてもらえるか、つまり競争力はお客様の“心”で決まるのです。


ブランド力を左右する3つ要素

人はなににお金を払うのでしょうか。評判です。そのために商品を左右する技術やサービスなどが投入されるのです。つまり、商品力とは評判力なのです。

ブランドとは経験の総体であり、経験価値の累積なのです。ブランドの要素の中には、「名声」があります。その「名声」でどのような評判をつくるのか。なにを「約束」し、どのような期待に応えるのか、そして最後の決め手は「経験」です。そのブランドが約束にみあったあるいはそれ以上の、どのような「経験」を提供するかが問われています。

顧客満足は、「名声」による評判、「約束」による期待、「経験」による楽しみによってさらに膨らみます。実は、私たちの分析では、顧客満足にも10段階あるのですが、思った通りだと思われたら負けなのです。期待値を超えてこそ、満足は膨らみ、ブランドへの信頼が高まるのです。

ブランドは、お客様とのコラボレーション(協働)から生まれます。お客様は単なる販売相手ではなく、パートナーなのです。「この商品がいいね」と思えば、お客様がその評判を周りに伝えてくれます。お客様は無給の営業マンなのです。


新しいカテゴリーで勝負せよ

ブランドを構築するためには10大戦略があるのですが、本日はその一部だけをお話します。

お客様が選ぶ最も大きな要素は、「新カテゴリー」です。これはこれまでなかった商品であり、サービスです。スターバックスは、コーヒーショップではなく空間を売りものにしました。プリウスは世界初のハイブリット車です。パソコンのDELは店頭販売ではなく、ダイレクトマーケティングという新しいビジネスモデルをつくりました。

セブンイレブンやクロネコヤマトはどうでしょう。コンビニや宅配業者だと思ったら大違いです。彼らは情報産業であり、ネットワーク産業であり、サービス産業です。いま伸びている企業の多くはなんらかの形で先駆者であり、新しいカテゴリーをつくった革新的企業です。

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私たちが応援するソーシャルプロダクツはどうでしょうか。そうした要素が全く乏しいと思いませんか。

新カテゴリーはなぜ強いのでしょうか。1つは、社会の関心を集めるため、ニュースメディアのパブリシティ効果が期待できます。新しいもの、初めてのもの、強烈なもの、話題性(ストーリ性)のあるものにメディアは興味を示し、報じたがるのです。無料で広告を打つようなものです。

その際に大事なのはコトバです。インパクトのある言葉で、商品の特長をひと言で表現することが求められます。企業のメッセージ調査をすると、企業のキャッチフレーズと企業名が結びついています。日経BPの2015年の調査では「お口の恋人=ロッテ」が1番でした。「コーヒーギフトはAGF=味の素ゼネラルフーズ」が2番、「あなたと、コンビに=ファミリーマート」が3番、「ココロも満タンに=コスモ石油」が4番、「カラダにピース=カルピス」が5番です。

コトバの力は時空を超えます。お客様の心をつかむには、心に刺さる言葉が必要です。

そして最後は物語性です。お客様は物語(イメージ)を購入します。物語(イメージ)は事実よりも重いのです。物語(イメージ)をお客様にどう認識してもらえるかで、ブランドの評判が左右されます。

2007年にアメリカで自動車の信頼度調査(『コンシューマーリポーツ誌』)をしました。トップテンに日本車が7社入ってきました。この調査でメルセデスベンツは36位でした。ところが次に買いたいクルマを聞くと、その上位に必ずメルセデスベンツが入ってきます。

人は信頼だけで物を買うわけではありません。メルセデスベンツには神話とでも呼べる物語が沢山あります。ベンツのドアを閉める音を聞いたことがありますか。「ズン」というなんとも言えない重みのある音です。ベンツはドアを閉めるときの音、このために音響工学の専門家が入っています。安全を音で表現しているのです。これぞ職人技であり、物語です。

神話とでも読める魅力的な物語が、大きく、強く、長く続くのがブランドです。職人気質、安全性、性能という物語を技術(もの、サービス)が補完し、新しい物語=イメージをつくるのです。

新しいソーシャルプロダクツをつくろうとする方は、こうした視点も大切になります。私たち一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会は、ソーシャルプロダクツの応援団として、これからも皆さまのご相談にのりたいと思っています。

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江口 泰広さん

学習院女子大学名誉教授
Fisher College(Boston, USA) 名誉理事 
日本フードサービス学会 顧問(会長2012~16)
(一社)フードコンシャスネス研究所 会長
(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP) 会長

■江口泰広さんの最新著書「マーケティングのことが面白いほどわかる本
JANコード/ISBNコード:9784046019387角川書店
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■お問い合わせ先:一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会


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