CSRフラッシュ

風力発電は未来を担うエネルギーになれるのか⁉

市民の力を集めて風力発電に取り組む 北海道グリーンファンド鈴木亨さんの報告

再生可能エネルギーの普及が急がれる中、その一翼を担う風力発電の伸びは決してはかばかしいものとはいえない。2001年、市民風車第1号「はまかぜ」ちゃんの運転開始によって、市民風車づくりに先鞭をつけた北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨さんに風力発電事業について聞いた。[2019年9月16日(月)公開]

市民風車1号「はまかぜ」ちゃんの1歳の誕生日を記念して集まった仲間たち

市民風車1号「はまかぜ」ちゃんの1歳の誕生日を記念して集まった仲間たち

自然エネルギーのトップランナーをめざし、
世界で広がる風力発電の現状

世界の先進国では発電電力量に占める再生可能エネルギー(以下、再エネ)の比率が着実に増えつつあり、なかでも目覚ましい伸びを見せているのが風力発電です。

北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨さん

北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨さん

経済産業省・資源エネルギー庁のホームページによれば、2017年度でドイツは33.6%となった再エネ比率のうち風力が16.4%を占めています。スペインは再エネ32.4%のうち風力は18.0%、イギリスは再エネ29.7%のうち風力は14.9%となっています。アメリカ、カナダ、中国も風力発電の比重を急速に高めています。

さて、日本はどうでしょう。再エネの比率は16.1%ですが、うち太陽光が5.2%で風力は0.6%にすぎません。隣国の中国は再エネ比率24.9%で、うち風力は3.8%になっているのと比べても、出遅れ感がいなめません。

世界における風力発電の累計導入量は、2018年度末で591GW*ですが、うち23GWが洋上風力発電となっています。世界の洋上風力発電だけでわが国の全発電設備の約2倍を超えている状況です。

なお、風力発電の建設は、国内では三菱重工や日立製作所などの有力企業が担ってきましたが、三菱重工が陸上風力事業からの撤退を決めたほか、事業の軸足を海外に移す動きが進んでいます。今後は海外風車メーカーと建設やメンテナンスで連携せざるを得ない状況です。

*電気をつくる能力である「発電容量」には、kW(キロワット)、MW(メガワット)、GW(ギガワット)などの単位があります。1,000W=1kW、1,000kW=1MW、1,000 MW=1GWとなり、100万kW=1GWとなります。(編集部)


私たちが各地で積み上げてきた市民風車の取り組み

北海道グリーンファンドは、環境負荷の少ない、持続可能なエネルギーの実現をめざして、1999年7月に設立されたNPO法人です。市民や地域が主体となった省エネルギー活動の推進と再生可能な自然エネルギーの普及促進、そのために必要な社会的制度、政策の提言などによって社会に寄与したいと活動を続けてきました。

原子力や化石燃料に依存しない社会、欲しい電気を選べる仕組みづくりには、今よりもっと環境負荷の少ない自然エネルギーを広めていくしかありません。そのためにはエネルギーを誰かにお願いするのではなく、自分たちの手でつくろう!と始めたのが風車(風力発電)の建設でした。

設立から約2年。2001年9月に市民風車第1号となる「はまかぜ」ちゃん*が北海道浜頓別町で運転を開始しました。「はまかぜ」ちゃんの建設費用は2億円(2000年当時、出力1000kW級)ですが、当時は国や自治体からの補助金もなく、建設計画をもとに金融機関からの借入で資金調達することを予定していました。ところがNPOが計画した風力発電のプロジェクトに億単位の融資をしてくれる金融機関はありませんでした。考えてみれば当たり前のことで、私たちはまだ設立から2年目、会員寄付の基金もほんの少しだけでした。

秋空のなか、稼働する 「はまかぜ」ちゃんの雄姿

秋空のなか、稼働する 「はまかぜ」ちゃんの雄姿

一般の方から出資を募ることはできないか、というアイデアのもと、基本設計から事業のキャッシュフローの精査、そして実際の契約書の完成に至るまで、飯田哲也さん(NPO法人環境エネルギー政策研究所所長)をはじめ、公認会計士や税理士、弁護士、金融機関、風力事業者等と何回も会合を重ねて、市民出資によるファイナンスモデルができました。

「はまかぜ」ちゃんの出資モデル

「はまかぜ」ちゃんの出資モデル

NPOが、不特定多数の市民から資金を調達する新しい資金調達の仕組みは、その後の市民風車の取り組みや太陽光発電(備前グリーンエネルギー、おひさま進歩エネルギー)など、各地の地域主導型の再生可能エネルギー事業に活かされることになりました。

「はまかぜ」ちゃんは、総事業費の約8割となる1億4,150万円が217の市民出資者・団体によって賄われました。


全国に広がった市民風車の仲間たち。市民風車だけで全国で38基 (建設工事中を含む)に

市民風車の取り組みは、もうすぐ20年に迫ろうとしています。地球温暖化、世界の石油産出量が頂点に達するピークオイルなど、自然エネルギーに対する社会の期待は高まる一方ですが、わが国のエネルギー政策そのものは相変わらず原子力が中心で、今も自然エネルギーにとって逆風が続いています。そのような状況のなか、市民風車は少しずつ仲間を増やしていきました。

東日本大震災から1年が経過した2012年3月、新たな市民風車が誕生しました。名前は「風民(ふ~みん)」と「夢風(ゆめかぜ)」です。2基の風車はそれぞれワタミ株式会社、生活クラブ生活協同組合(東京・神奈川・埼玉・千葉)の協力により建設され、つくられた電力も東北電力に売電するのではなく、特定規模電気事業者(PPS)を通じて両社の各施設に供給するという仕組みです。

この取り組みは、エネルギーの産直として、電力の生産者と消費者をつなぐ活動として注目を集めています。

はまかぜ5はまかぜ6
※この年表は2015年時までのもので、最近のものは含まれていません。

実は2018年12月に新しい風車が完成し、稼働を始めました。石狩湾新港工業団地で営業運転を開始した「石狩コミュニティウインドファーム」です。こちらは風車7基からなる合計出力20,000kWの大型風力発電設備で、一般家庭14,000世帯分の発電電力量に相当する年間5000万kWhを発電できる規模です。2019年9月8日に石狩市で竣工記念セレモニーを行い、そこで風車の愛称なども発表する予定です。

一番新しい「石狩コミュニティウインドファーム」

一番新しい「石狩コミュニティウインドファーム」

風力発電を増やすにはやるべき課題がある

わが国は、風力エネルギーの活用面から考えると恵まれた環境にあります。ただし、陸地の建設は急峻な山も多いため、北海道、東北、九州などに集中する傾向にあります。青森や北海道は、沿岸部で年平均の風速が7mを超える地域が多く、リスクとなる台風の影響も少ないため、とりわけ有望視されています。わが国は、四方を海で囲まれており、洋上風力発電も有望だとされています。

2012年のFIT(固定価格買取制度)の導入に伴う事業収益の向上等により、わが国でも風力発電は拡大していますが、欧州などに比べるとまだまだ出遅れ感がいなめません。以下は風力発電を阻むわが国独自の課題などについて考察しました。

1. 送電線網への接続

天候によって電気の出力が変動する風力発電は、電力系統の電圧や周波数を調整する必要があります。そのため蓄電池の設置が義務化されています。こうして生まれた電力も送電網の空き容量がないと送電できないという制約があります。また、風力発電所と送電網の連系地点までは事業者が独自で送電線の敷設を求められます。

どちらもコスト増により、事業実施が困難とされますが、解決策として、例えば北海道では、JR・旧国鉄の線路への送電線の埋設が考えられます。JR北海道が取り組めば、使用料の収入が期待できるほか、埋設された送電線のメンテナンスはJRの保線員に担ってもらうことも可能です。鉄路を守り、JR北海道の新しいビジネスにもなるはずです。

北海道で風力発電が増えると、道内の需要を上回ることが予想され、本州に送電する送電網の整備も重要になってきます。

2.工事計画届と認証制度

風力発電が再エネの「主力電源化」をめざすには、コストの低減が不可欠です。現状は、複雑な認証制度により、工事計画届前の風況観測のやり直しなども多く、それによって支持構造物の設計見直しも行われるため、認証の長期化や工程の大幅な遅延が発生しています。

また、各種許認可と土地利用においても、農地法、森林法、道路法などの許認可が必要となり、あまりの煩雑さのために事業を断念せざるを得ないケースも見られます。

3.複雑な環境影響評価方法

風力発電の建設では、事業者が環境への影響を調査して、それを公表し住民と話し合う『環境影響評価(アセスメント)』が必要です。従来、風力発電はアセスメントの対象ではありませんでしたが、現在は発電の規模によって2種類のアセスメントが義務化され、その手続きに4〜5年かかり、そのためには1億円から1.5億円の費用が発生します。

アセスメントについては、地域の事情に沿って評価項目を絞り込める『簡易アセスメント』の導入も検討すべきだと考えています。

(1)ファイナンス

風力発電は、1基当たりの建設費用が数億円規模となり、太陽光などに比べると資金調達の難易度は高くなっています。「無制限・無保証」の出力抑制などを考えると、資金調達の重要度がかなりのウェートを占めます。

(2) 社会合意

もともと法アセス(環境影響評価法)の対象であった原子力発電所や火力発電所に比べて、風力発電そのものは、水や空気の汚染のないクリーンな発電方法です。一方で、野鳥が風車にぶつかるバードストライク、騒音、景観などへの配慮が必要で、一定規模の風力発電所が法アセスの対象になりました。

欧州では、気候変動対策として風力発電への理解が進んでいますが、とくにデンマーク、ドイツといった風力先進地では、農家、協同組合による取り組み、地域のオーナーシップが風力発電の導入を牽引してきたといえます。地域の資源である風で得た利益を地域で分かち合うことも社会合意づくりに必要であると考えます。

はまかぜ8

※この記事は、8月に開催された市民電力連続講座「風力発電、日本でなぜ増えない? 市民風車設立をめざそう」と題する鈴木亨さんの講演をベースにしています。紙面の都合により要約したところも多く、文責は当編集部にあります。

北海道グリーンファンド

市民電力連絡会 Peoples power network

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