企業とNGO/NPO

東京オリパラは観客でも、SDGsはあなたがプレーヤー

WWFジャパンのパネルディスカッション「評価されるSDGsとは」から

東京オリンピック・パラリンピックでは、エネルギーの脱炭素化と並んで、木材・紙・パーム油・水産物などの調達でも環境に配慮した取り組みが求められている。この分野で先進的な取り組みを続ける日本企業の担当者に、「評価されるSDGsとは」という観点で語ってもらった。[2019年10月7日(月)公開]

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スピーカー

福田 里香さん(パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部CSR・社会文化部部長)
飯田 朋治さん(ミサワホーム株式会社 生産統括部部長)
藤岡 秀章さん(花王株式会社 購買部門原料部長)

ファシリテーター

WWFジャパン 小西 雅子さん


認証を受けた南三陸の養殖カキを社員食堂に

(パナソニック株式会社)

小西:東京オリンピック・パラリンピックでは、調達などでも、これまでの大会を上回る持続可能な仕組みづくりが求められています。本日は、これらの分野で先進的な取り組みをされている3社のご担当者にお話をうかがいます。まず、サステナブル・シーフードを社員食堂で提供しているパナソニック株式会社の福田さんからお願いします。

小西:パナソニックさんは、南三陸でカキ養殖の復興支援を行ってきましたね。

パナソニック株式会社福田 里香さん

パナソニック株式会社 福田 里香さん

福田:パナソニックは、1918年の創業から100年を迎えました。今では全世界で27万人が働き、従業員の半数以上が海外、売上も半分が海外となっています。パナソニックは、創業時から「事業を通じて社会の発展に貢献する」を社訓としてきましたが、最近では、新興国から途上国を念頭に、「人材育成」「機会創出」「相互理解」の3つの切り口で、貧困解消などSDGs(持続可能な開発目標)にも力を入れています。社会の格差を考えたとき、機会が与えられなかったという背景があります。サステナブル・シーフードを社員食堂のメニューとして導入するという取り組みも、ここがベースになっています。

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福田:私たちは20年ほど前からWWFジャパンと“海の豊かさを守る”活動を続けてきました。南三陸では、東北復興ということでカキ養殖の支援を行い、2016年3月にカキで日本初となるASC*の認証を取りました。このカキで生産者と消費者をつなぐことができないかと考えたのが、社員食堂へのカキ導入のきっかけです。

* ASC: 水産養殖管理協議会の略。WWF(世界自然保護基金)とIDH (オランダの持続可能な貿易を推進する団体)の支援のもと、2010年に設立された、独立した国際的な非営利団体。養殖水産物の認証を行う)

福田: 2012年のロンドンオリンピックで初めてMSC*が導入されましたが、東京2020でも水産物の調達基準としてMSC/ASC等の採用が決まりました。私たちも社員の社会貢献活動の1つとしてサステナブル・シーフードを社員食堂に入れられないかと考えました。

* MSC: 海洋管理協議会の略。MSC認証は天然の水産物を対象とした認証制度。

小西: 社員のみなさんには何を期待されましたか。

福田: 食をとおして消費行動を見直すきっかけにし、海を守る活動につながればと考えました。現在23都県の社員食堂で導入していますが、全国に100拠点の食堂があるので、2020年までにはもっと広げたいと思っています。こうした活動がSDGsでいう「海の豊かさを守ろう」や「パートナーシップ」につながればと考えています。

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小西: これだけでも非常にユニークな活動だと分かります。それでは続いてミサワホームの飯田さんにお話しいただきます。


循環可能な森林からの木材調達方法を探る

(ミサワホーム株式会社)

ミサワホーム株式会社 飯田 朋治さん

ミサワホーム株式会社 飯田 朋治さん

飯田: 私が所属する生産統括部は、生産技術と木材の調達を行っています。ミサワホームは「環境を育む」「暮らしを育む」「日本の心を育む」「家族を育む」の4つの育むをCSRの基本方針とし、子どもたちの未来への約束としています。1つめの「環境を育む」には、環境と社会に負荷を与えないという目標があり、調達部門としては生物多様性を認識しながら木材の調達にあたっています。

木材調達ガイドラインを設けるとともに、「供給地の特定」「伐採権の確認」「森林認証を受けた木材」を調達方針に盛り込んでいます。その達成度を確認するため、年に一度ですが、WWFジャパンが作成・公開した林産物調達チェックリストに基づいて、木材のトレーサビリティということで①森林管理の合法性と持続性 ②環境面の持続性 ③社会面の持続性の3つで森林管理の適切性を確保するため、木材の出所を調査しています。

国産林と商社経由の木材についてはチェックリストでの確認となりますが、直接輸入している木材については、チェックリストと独自の取り組みの2つで確認します。

WWFオリパラ調達6

当社はインドネシアからラワン材を調達していますが、現地ではFSC*認証林からの調達に加え、政府発行の認証材も取り入れています。さらに年に一回、伐採地の現地を確認することもやっています。現地では、計画的な植林と伐採のサイクルが組まれており、種を落とすマザーツリーは伐採しないとか、原住民の資源となるマングリースは採らないなどの取り決めがあります。現地なりのルールを尊重し、それらを通常の認証+アルファーとして採用することで、現地の信頼を得ることもできます。

*FSC: 森林管理協議会の略。木材を生産する世界の森林と、その森林から切り出された木材の流通や加工のプロセスを認証する国際機関。

飯田: 次に中国からの調達です。現地に合法性の確認を任せるだけでは心もとないところもあり、現地政府の伐採許可書をもとに現地で植林などの状況も確認するようにしています。現地の業者の方には違法伐採林は買わないということも言っています。

小西: 調達方針の進捗状況はいかがですか。

飯田: 2018年度の「供給地の特定」と「伐採権の確認」は100%となっています。ただ、「認証材の使用」は80%にとどまっています。国産材を使用する機会が増え、認証材の比率が下がり気味のところを、どうにか80%まで維持しているわけです。

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SDGsの目標ですが、目標12「つくる責任 つかう責任」については、できていると思いますが、目標15「陸の豊かさも守ろう」に関連した「生態系の保護・回復」と「土地の劣化の阻止・回復」については、さらに現地の状況を把握する必要がありそうです。

小西: 着実に前進しているのが理解できます。続いて花王株式会社の藤岡さんにお願いします。


紙とパーム油などで持続可能な調達を進める

(花王株式会社)

花王株式会社藤岡秀章さん

花王株式会社 藤岡秀章さん

藤岡: 花王グループは、“よきモノづくり”をモットーとし、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献することを使命としています。一番大きな変化があったのは2013年で、サステナビリティステートメントを策定し、パーム油(アブラヤシの果肉部から得られる油脂)の調達なども自らの手で積極的にやろうと決めました。また、2018年からESG*委員会を立ち上げました。

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* ESG: 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した投資の新しい潮流を指すが、花王は外部への戦略的なコミットメントとして強く打ち出している。

藤岡: 私は購買部門で調達を担当していますが、資源の制約や環境問題、生物多様性の劣化、人権課題など、開発におけるリスクを認識し、持続可能な原材料の調達に取り組むとともに、調達におけるガイドラインを決めました。

花王ではおむつなどをつくるため、紙パルプの二次加工・三次加工をしていますが、WWFジャパンのチェックリストを参考に、製紙会社、段ボール会社と連携し、再生紙は持続可能性に配慮したものであること、古紙以外のパルプについて、原料木材の産出地の森林破壊ゼロを十分に確認するものとしています。2020年までに原料産出地の追跡可能なパルプのみを購入するものとしています。

次はパーム油ですが、2015年末、消費者向け製品に使用するパーム油は、ミルまで原産地で追跡可能なもののみを購入することを目指します。2020年までに、農園(プランテーション)、サプライヤー(ミル、リファイナリー)および第三者機関との協働により、原産地の森林破壊ゼロを確認し、保護価値の高い森林や炭素貯蔵量の多い森林および泥炭湿地林の開発に加担しないこととしました。

消費者向け製品に使用するパーム油は、2020年までに持続可能性に配慮した農園で原産地追跡可能なもののみを購入することとしています。花王グループの工場では、RSPO* SCCS*認証取得を目指し、追跡可能なサプライチェーンの構築に努めるとともに、自社で追跡したパーム油の使用を行います。

今年、花王はSDGs コミットメントとアクションとして「Kirei Lifestyle Plan」を発表しました。その 12のアクション項目の中の1つに『責任ある原材料の調達』が掲げています。

昨年、花王はインドネシアで脂肪酸の工場を立ち上げました。これまではマレーシアを拠点にしていたのですが、今後はインドネシアを拠点に育てるため、小規模農家を含めた支援を行おうとしています。

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*RSPO: 持続可能なパーム油の生産と利用を促進するための円卓会議。
*SCCS: 生物多様性保全のための厳しい条件をクリアし、RSPOに認められた農園で収穫した持続可能なパーム油を使った製品を生産・販売し、消費者に届ける目的でつくられたサプライチェーンシステム。


重要となるサプライチェーンとトレーサビリティ

小西: 私自身は気候変動の専門家ですが、東京オリンピック・パラリンピックを機に調達の勉強をさせてもらいました。そこで重要だと分かったのがサプライチェーンとトレーサビリティです。私たちが使うものがどこでつくられ、どのようにして私たちに届いているのか、サプライヤーを巻き込むことが大切になっています。

パナソニックさんにお聞きしたいのは、最初は南三陸で生産の支援をされていて、その後社員食堂という消費の側からの支援を始められたわけですが、間にある給食の会社の説得はいかがでしたか。

WWFジャパン小西 雅子さん

WWFジャパン 小西 雅子さん

福田: WWFジャパンと活動をご一緒する中で、たまたまカキという食材に出会いました。日本で初めてASCの認証が取れたカキということで、それを広げていくことはできないかと思いました。生産者のことを考えると“食べる”という出口につなげる必要がありました。社員食堂で食べれれば広がると思ったのがきっかけです。

認証を取るのは手間もコストも掛かります。価格的には少し割高になります。従業員に受け入れられるかという心配もあり、議論を重ねたのですが、結論は「おいしいものなら食べる」ということでした。サプライチェーンという意味では、どこか1つかけてもうまくいきません。間に立つみなさんの協力があってできています。

小西: 抵抗もあったでしょうね。どのようにして説得されたのでしょうか。

福田: なんでやらなきゃいけないのか、今までどおりでいいじゃないの、という声始めありました。給食会社さんもそれぞれ規模が違いますから……。消費行動を見直す、健康を考える、海を守る、などの意義を話して理解いただきました。やる以上は「みんなで一緒にやろう」というのが大きかったと思います。

小西: SDGSの17番に「パートナーシップで目標を達成しよう」という項目がありますが、そのとおりですね。ミサワホームもトレーサビリティの確保が課題ですが、フィンランド、中国、インドネシアでよくそこまでできましたね。

飯田: 直接木材を輸入している3カ国です。自分たちで輸入する以上、現地に行って確認しようと始めました。それに抵抗がなかったのは、25年ほど前にフィンランドに製材工場を建てたとい経験が生きています。フィンランドは国をあげて森林管理を進めています。それをパートナーとして学んだ経験がベースにあります。フィンランドの伐採現場は高度な機械を使い、よい環境で作業が行われています。中国もインドネシアもそれに習おうとしました。

小西: フィンランドに行かれた当時、「持続可能性」という問題意識はあったのでしょうか。

飯田: 当時、木材を丸太のままで日本に輸出しないという途上国の動きが始まり、北米材などでも生態系を壊すような伐採は許さないという動きとなりました。事業を続けるにはどこから木材を入れるかという意識だけでした。

小西: 事業の継続のためだったわけですね。フィンランドから学んだ持続可能性を契機に、中国やインドネシアにもそれを根づかせようとしたわけですね。

飯田: 調達では安定供給が大事なテーマです。

小西: そうですね。花王さんが農園の支援をやろうというきっかけはなんだったのでしょうか。

藤岡: 持続可能性を認識するようになったのは最近のことです。BCP(事業継続計画)の認識が先だったかもしれません。アタックという洗剤シリーズの中には、汚れを取る界面活性剤にパーム核油(アブラヤシの内果皮の中の核から得られる)を原料に使ったものがあります。まさにサステナブルな活動がなければ私たちの事業は成り立ちません。

小西: ロンドン大会ではパーム油の調達方針はありませんでした。花王さんの取り組みは、まさにパーム油の調達方針を自らの手でつくってこられたわけです。もう1つ、花王さんは、取り組みの進捗状況を情報公開されています。日本企業の多くは、せっかくやっているのに情報発信しないところも少なくありません。

藤岡: 花王はKPI(重要業績評価指標)などの数値目標を先につくって、自分たちを追い込むやり方が得意です。まだまだ国内活動が中心ですが、東京オリンピック・パラリンピックを機に、グローバルなライバル企業の取り組みに学び、目標にしたいと考えています。

小西: 情報公開もことさらやっているというのではなく、自然体に近い形でやられているところが好ましいと思います。先ほどパナソニックの福田さんもおっしゃっていましたが、認証には手間やコストが掛かるという側面についてはどのように社内の説得を進めているのでしょうか。

藤岡: パーム核油でいうと、認証取得で5%くらいのプレミアムが必要です。パーム油の場合は調達量もあるので、少し下がります。花王の場合、ESGの投資案件の1つとしてとらえられているので、社内の理解は進めやすい状況です。

福田: 東京・汐留のビルに認証されたカキを入れたときは大きめのカキで好評でした。社員の中にもお魚離れの傾向があり、少し高めであっても健康志向の推進という側面から取り扱いを強めていきたいと思います。他社様の社員食堂に広がれば、もう少しお安くなるのではないかと、連携を呼び掛けているところです。

飯田: 住宅という商品はトータルで評価される面があります。木材加工にはパネル接着工法というのがありますが、木材の使用量が少なくても同様の強度を維持できるよう工夫を進めています。価格に全く無頓着というわけではなく、北米の2×4(ツーバイフォー)工法ではどのような価格になるのかなどベンチマークによる比較は行っています。認証材の使用はBtoCの企業であってもやるべきことであり、社内での理解は広がっています。

小西: この数年で調達においても認証された素材を使うことが当たり前になってきています。みなさんのお話を聞くと、〈協働、参画、拡大〉がキーワードだと思いました。本日はありがとうございました。

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公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)


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