2020年新年特集

COP25に“未来への叫び”は届いたか

若者たちの熱気で盛り上がったCOP25からの報告

16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんや環境大臣小泉進次郎さんの発言に注目が集まった国連の温暖化防止会議(COP25)。産業革命前と比べて地球の平均気温を2度未満(できれば1.5度)に抑えようとする「パリ協定」のルールづくりが焦点だったが、成果は見られたのだろうか。この会議に参加したWWFジャパンの報告をもとに、COP25を振り返ってみよう。[2020年1月6日公開]

© Chris Martin Bahr / WWF

© Chris Martin Bahr / WWF

2020年からスタートする「パリ協定」。そのルールづくりが焦点だった

COP25のテーマは、今年から始まる「パリ協定」に向けて、これまで積み残したいくつかのルールづくりなど実施に向けた細部の取り決めで合意することにありました。

大筋のルールは、2018年12月にポーランドのカトヴィツェで開かれたCOP24で決められていましたが、そこでも積み残された「市場メカニズム/非市場メカニズム」と呼ばれる論点(パリ協定6条:協力的アプローチ)などが焦点の1つでした。2カ国以上が協力して温室効果ガス排出量の削減を行い、その削減分を国際的に取り引きする仕組みです。

(図:WWFジャパン提供)

(図:WWFジャパン提供)

排出量のダブルカウンティングを防ぐ
新しい市場メカニズムのルールは合意できず

市場メカニズムと呼ばれる仕組みは、「削減量」を国際的に移転・取引する仕組みです。ルール形成のやり方を誤れば、各国の削減目標に抜け穴が生じることになり、それでなくても足りない各国の削減目標がさらに不十分なものになってしまいます。

つまりCOP25では、各国の利害を調整して、可能な限り“抜け穴のない”ルールで合意できるかが課題となっていました。結論から言うと、COP25では合意には至らず、2020年末にイギリスのグラスゴーで開催されるCOP26に先送りされた形となりました。

「6条再び合意に至らず延期」と聞くと、COP25は失敗だったように聞こえるかもしれません。しかし、決着を急ぐあまり妥協に走り、抜け穴だらけのルールが生まれることを避けるうえでは、賢明な選択であったかもしれません。

パリ協定のルールは、すでにほとんどが決まっており、国同士で排出枠を取引するこの6条が決まらなくても運用に大きな支障はありません。

①排出量の2重計上(ダブルカウンティング)を防ぐことの意義

A国で10トン削減した分を、B国に移転し、どちらの国も10トン削減した、と認めれば、削減量の2重計上になります。世界全体の削減量は減るどころか増えてしまのです。

そのため、削減した相当分を二国間、あるいは多国間で調整して、二重計上を防ぐ新たなルールづくりが必要となります。COP25では、このルールをいかに厳格につくるかで意見が分かれました。一部の新興途上国、特にブラジルが強く反対しました。

会期延長後の議長提案では、「二重計上を期限と条件をつけて認める」という妥協案が提示されましたが、合意に至らず、COP26へ先送りされることになりました。

COP25-3

②京都議定書時代のクレジットをパリ協定でも使えるようにするか

国によって主張が異なったもう1つの論点は、2008年から実施されている京都議定書の排出クレジットを、パリ協定でも使えるようにするかどうか、でした。

京都議定書では、国を超えて削減量(排出クレジット)を国際移転する仕組みが出来上がったのですが、各国は削減目標を容易に達成できたため、多くの排出クレジットは未使用のまま残ることとなりました。

その未使用分の排出クレジットを、パリ協定のもとでも使えるようにしてほしいと、ブラジルやインドなどの新興国が強く主張し、中国もそれに同調しました。これを使えるようにすれば、ただでさえ不足しがちなパリ協定の削減量が、さらに不十分なものとなるため、多くの国は反対しています。

スイスや欧州連合、小さな島国連合などは、「抜け穴をつくるくらいなら、6条合意はなし」との態度を貫きました。

「損失と被害」「共通タイムフレーム」という論点

COP25の論点には、温暖化の影響が社会の適応できる範囲を超えたときに発生してしまう「損失と被害」への対応があります。 この論点は、大臣レベルでの非公式協議の中で交渉が続けられました。

気候変動の影響が、対応できる範囲を超えて発生し、実際に「損失と被害」が発生した際に、どのような国際協力で対応できるのか、という課題です。

交渉では、資金支援を含めるかどうかで、先進国と途上国の意見が対立してきました。

対立の溝はCOP25でも埋まらず、先進国に対して気候変動の影響に特に脆弱な国々への支援(資金を含む)を行うことを要請する一般的な文言が入った他は、GCF(グリーン気候基金)など既存の資金メカニズムとの連携を深めるための専門家グループの設立を決定するなど、部分的な取り決めにとどまりました。

もう1つの論点は「共通タイムフレーム」と呼ばれる時間軸に向けた課題でした。各国が掲げる国別目標をいつまでに実施するのか、という目標の明確化です。

たとえば、日本は「2030年までに温室効果ガス排出量を2013年と比較して26%削減する」という目標を掲げています。そうした個別の目標で各国の足並みをどこまで揃えられるかが焦点でしたが、それを「5年」=2035年、「10年」=2040年にするのか、それとも、「5+5年」=2035年+2040年にするのかで、各国の意見が対立し、決定に至りませんでした。


日本をはじめ各国の排出削減目標の引き上げは進んだのか

各国の削減目標を引き上げる機運がどこまで醸成されるかも課題でした。

先進国・途上国の枠を超えてすべての国が参加するパリ協定ですが、削減目標を含む国別目標はそれぞれの国が決めたものを国連に提出する仕組みとなっています。

各国が提出している現状の削減目標では、すべてを足しても、気温上昇を1.5℃はおろか、2度未満にさえ抑えることのできないレベルにとどまっています。

2020年2月までに、各国が削減目標を再提出することとなっていますが、その際に、「強化」して持って来ることを、今回のCOPが決定として呼びかけることができるかどうかに注目が集まりました。

グレタ・トゥーンベリさんの到着と気候マーチ

2019年は、世界各地で異常気象が観測され、気候「危機」や気候「非常事態」という言葉が頻繁に使われるようになりました。それを受けて、若者が世界各地で声をあげ、学校ストライキや行進を行いました。そんな「未来のための金曜日」と呼ばれる運動の中心にいたのが、スウェーデンの16歳、グレタ・トゥーンベリさんでした。

 世界中に広がった「未来のための金曜日」を始めたグレタ・トゥーンベリさんを讃えるプラカード(©WWFジャパン)

世界中に広がった「未来のための金曜日」を始めたグレタ・トゥーンベリさんを讃えるプラカード(©WWFジャパン)

トゥーンベリさんは、第1週目の金曜日、12月6日にCOP会場に到着しました。COP24にもトゥーンベリさんは来ていましたが、その当時とは比較にならないほど大きな注目を集めました。

同日には、マドリード市内で気候マーチが開催され、主催者発表で50万人とも言われる多くの市民やNGOが、気候変動対策を訴える行進に参加。WWFのメンバーも、「今しかない!」と対策を訴える横断幕をかかげ、行進に加わりました。

トゥーンベリさんの他にもアフリカ・ウガンダの少女など世界中から多くの若者たちが参加し、「若者COP」と言えるほど、若者たちが会場で活発に「野心(削減目標などの温暖化対策)の強化」を訴えました。「今は私たちの世代は20%に過ぎないけど2050年には80%になる。私たちの将来を壊さないで」と訴える若者の声が、会場中に響き渡っていました。

石炭火力にこだわる日本の姿勢に批判が

COP25で日本は2回も化石賞を受賞しました。この賞は、地球温暖化問題に取り組む世界120か国1300を超えるNGOのネットワークであるCANインターナショナルが、温暖化対策に消極的な国に与える不名誉な賞ですが、1回目は、梶山経済産業大臣が12月6日の記者会見で「石炭火力発電など化石燃料の発電所は選択肢として残していきたい」と発言したことで受賞が決まりました。

そして2回目の化石賞は、注目を集める小泉進次郎環境大臣が現地に到着し、大臣級会合で行ったスピーチに与えられました。

小泉環境大臣は、日本の大臣として初めて参加したCOPにおいて「国際社会からの日本の石炭政策に対するグローバルな批判は認識している。グテーレス事務総長の石炭中毒からの脱却の訴えも、日本に対するメッセージと受け止めた」と率直に述べ、「本日は日本の石炭姿勢に何も進展は伝えられないが、自分を含めて多くの日本人がより気候対策をしなければならないと信じている」と無念さを滲ませていたのが印象的でした。

ただ、環境問題に関心のある世界の人々からは、日本政府のCOPに向けた取り組みはゼロ回答であると映ったのです。

石炭火力発電は高効率のものであっても、天然ガスの約2倍のCO2を排出するため、気候変動の要因とされています。日本政府が国内で石炭火力発電の新設を進め、さらに公的資金で海外の石炭火力を支援している姿勢に、世界の環境NGOは早くから批判をくり返してきました。

日本は「パリ協定」の資金援助の基金に多額の資金(累積拠出額世界第2位)を提供しているにも関わらず、石炭に固執する姿は、後ろ向きと見られてしまいました。

(©WWFジャパン)

(©WWFジャパン)

さらなる「野心の強化」に向けて

COPの会議では、削減目標の引き上げを含む取り組みの強化を、しばしば「野心(ambition)の強化」と呼びます。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、開会のスピーチにおいて、「各国は、パリ協定のもとでの約束を誠実に守るだけでなく、野心を大幅に強化することが必要です」と呼びかけました。議長国であるチリのシュミット環境大臣も今回のCOPを「野心のCOP」にしたいと述べました。

この「野心の強化」に向けた気運を盛り上げるため、2019年9月にグテーレス国連事務総長主催で開催された国連気候行動サミットにおいて、COP25議長国チリ主導で野心のための気候同盟(CAA :Climate Ambition Alliance)が結成されました。

CAAに参加する国々のうち、2020年までに削減目標を強化して再提出すると宣言している国は73カ国にのぼり、さらに国内で検討を始めた国が11カ国あります(12月11日時点)。この計84カ国の中に、残念ながら日本は含まれていません。

国内検討を始めた11カ国の中には欧州各国が多く含まれており、実際に、12月11日、欧州委員会から、「欧州グリーンディール」という、削減目標引き上げ(現行の40%削減から50〜55%削減)への提案を含む一連の政策が発表されました。

会期後半には、マーシャル諸島やコスタリカなど、島嶼国や一部の中南米諸国からなる高い野心連合(High Ambition Coalition)と呼ばれる国々のグループが記者会見を開き、国別目標の強化の文言を出すことを支持しました。

会議後半ではこうした内外からの声に、COP25がどのように応えるかが注目されただけに、会期を1日延長した12月14日土曜日の朝、議長国チリが出した妥協案に、会場内では失望の声があがりました。

途中経過報告の総会では、その議長案に対して、島嶼国、後発開発途上国、EU、ノルウェー、スイス、AILAC(コロンビア、コスタリカなどの中南米国グループ)が、国別目標の強化を入れるべきだとの声をあげました。

夜を徹した交渉が行われた結果、会期延長2日目の12月15日の未明に出てきた議長案は、間接的な表現ではあるものの、各国に現状の努力とパリ協定の長期目標のギャップを検討した上で、「可能な限り、最も高い野心」を反映させることを呼びかける内容となりました。


高まる非国家アクターの動き

国連によるのCOPの交渉の外で、政府以外の主体「非国家アクター」の積極的な温暖化対策の表明が活発に繰り広げられました。

アメリカの非国家アクターの積極的な温暖化対策

パリ協定は、非国家アクターと呼ばれる都市や自治体、企業などが、国を超えて集まりさまざまな温暖化対策のイニシアティブを立ち上げ、野心的な温暖化対策を次々と打ち上げたことも、成立の大きな力となりました。

その後に開催されたCOPでは、実際の政府間の交渉の場と同じ大きさの会場が本会議場の横に用意され、各国政府のみならず、都市や自治体、企業がパビリオンなどを出展して、「2050年(もっと早くも)に排出実質ゼロ」、「石炭火力廃止」などの積極的な約束を競って表明するようになっています。

今回のCOP25においても、活発な非国家アクターの動きが繰り広げられました。なかでも大きな注目を集めたのは、トランプ大統領のアメリカです。トランプ大統領は今回国連に対して正式にパリ協定からの離脱を通告しました。

もっともパリ協定は離脱を通告してから1年後にしか抜けられないので、アメリカが正式にパリ協定から離脱するのは、2020年11月4日、つまり次期大統領選挙の翌日です。それまではアメリカ政府代表団もCOP25を含めてCOP会議に参加し、真摯にパリ協定のルールづくりに参加しています。

そのアメリカで連邦政府が不在の中、州政府や都市、企業の連合が「我々はまだパリ協定にいる」という連盟が拡大しており、今やアメリカのGDPの65%、排出量にして50%を超える参加を得て、ますます力を増しています。

日本の非国家アクターの積極的な温暖化対策

日本の非国家アクターのネットワーク組織としては、WWFジャパンも事務局として参加する気候変動イニシアティブ(JCI)があります。非国家アクター連合体の国際ネットワークであるAlliances for Climate ActionとともにCOP25に参加し、多彩なサイドイベントを開催しました。

アメリカや日本だけでなく、世界各国において、非国家アクターは、ときに政府よりも一歩先んじた、脱炭素化に向けた取り組みを実施しています。

今回もジャパンパビリオンにおいて、東京都、横浜市、京都市の参加を得て、日本の非国家アクターもすでに排出ゼロに向けてさまざまな取り組みを行っていることを紹介しました。


COP26にむけて

2020年は、パリ協定が始まると同時に、すべての国が温室効果ガス排出量削減目標を含む国別目標の再提出を行うことになっています。

日本は、批判を受けた石炭火力発電所に関する海外支援および国内政策についての姿勢を見直し、国別目標の「野心の強化」を行うことが求められています。

(©WWFジャパン)

(©WWFジャパン)

2週間にわたってCOP25の会議の行方を現地で追い続け、より高い着地点を目指して活動してきたWWFジャパン 気候変動・エネルギーグループの専門家である小西雅子さんと山岸尚之さんは、『若者たちの声がかつてないほど大きく響いたCOPでした。交渉の「中」と「外」の温度差に多くの国が気付き、「野心の強化」につながるよう、努力をしましたが、その中に日本の姿がなかったのが無念です』と語っています。

地球の未来に危機感を深める若者たちの声と、気候危機への対応を求める世界の潮流を無視し続けることはできません。

※この記事は、COP25に参加したWWFジャパンの報告を当編集部が抜粋し要約しました。COP25の詳細な報告はWWFジャパンのホームページをご覧ください。

WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp
TEL: 03-3769-1714

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