国内企業最前線

その人が自分らしく。がん治療中の女性を医療用ウィッグで応援する。

新しい医療用ウィッグを発売したアデランスの取り組み

乳がん患者の多くが苦労する、抗がん剤による脱毛。働き続ける女性たちが、治療と仕事を両立するうえで、欠かせぬサポートが「外見の変化へのケア」でした。株式会社アデランスは、働きながらがん治療を行う女性への支援を続けるため、医療用ウィッグ『TEAM Rafra(チーム・ラフラ)』の新商品を発売。同社に外見ケアの意義について聞いてみました。[2020年1月20日公開]

医療用ウィッグ『TEAM Rafra』の新商品

医療用ウィッグ『TEAM Rafra』の新商品

お子さまの髪の悩みを心の傷にしない――
アデランスが本業の中にCSRを強く意識したきっかけ

CSRを「社会的価値をもった活動」と位置づけるアデランスが、2019年11月末に働きながらがん治療を行う女性患者のみなさんをサポートするため、医療用ウィッグ『TEAM Rafra』の新商品を発売しました。同社の医療事業推進部を訪ね、ピンクリボンアドバイザーである上田浩子さんをはじめ、医療事業推進部マネージャー遠藤敏文さん、グループCSR広報室サブマネージャー松岡博之さんにお話をうかがいました。

取材に協力いただいた左から遠藤敏文さん、上田浩子さん、松岡博之さん

取材に協力いただいた左から遠藤敏文さん、上田浩子さん、松岡博之さん

Q:アデランスグループは、CSRを経営の柱に位置づけているようですが、そのきっかけはどのようなものでしたか。

A: 当社は「お客様の毛髪に対するお悩みを解決したい」との思いから、1968年に創業しました。国内では男性用オーダーメイド・ウィッグでアデランスのブランド名が認知されましたが、実は当初から病気やケガによる脱毛のお問い合わせもあり、医療向けのウィッグにもニーズがあることは認識していました。

そうしたお声の1つに応えるため、創業10周年を迎えた1978年から社会貢献活動として「アデランス愛のチャリティ」キャンペーンを開始しました。病気やケガで髪を失ったお子さまにウィッグをプレゼントする活動です。以前はクリスマス限定のキャンペーンでしたが、2012年からは通年で行い、これまでに約5,700名のお子さまにウィッグをプレゼントしてきました。

Q:毛髪の悩みは幅広い層が抱える悩み事かもしれませんね。

A: ウィッグビジネスを展開する中で、病気やケガによる医療向けのニーズも小さくないと気づきました。最初は独立した専門部署ではなく、ルート開発部という全国の理美容室を担当していた部署が、やけどやケガ、円形脱毛症によってお困りの方々を対象に、10年ほど前から本格的に取り組み始めました。


医療用ウィッグ『TEAM Rafra(チーム・ラフラ)』誕生の背景

Q:『TEAM Rafra』は、働きながらがん治療を行う女性を応援する医療用ウィッグですが、誕生にはどのようないきさつがあったのでしょうか。

A: 2004年にがん体験者が中心となって設立された㈱VOL-NEXT((ボルネクスト)という会社があります。設立から14年間で約20万人のがん患者様の生活と心のサポートを行っています。VOL-NEXT社とは、当社の女性向けレディメイド・ウィッグのブランドであるフォンテーヌが、医療用ウィッグ『Rafra(ラフラ)』を立ち上げた2005年から協力関係にあります。

その後、VOL-NEXT社から「働く世代のがん患者を応援するウィッグを作製してほしい」という提案があり、同社の監修を受けて試作を重ね、2018年6月に、「がんに罹患しても自分らしく意欲を持ち、治療と生活(仕事)を両立すること」をテーマとするアデランスの医療用ウィッグ『TEAM Rafra』が生まれました。

Q:VOL-NEXT社と共同で、『TEAM』の基準もつくられたそうですね。

A: VOL-NEXT社が設立した一般社団法人TEAMが定めた基準を満たす商品です。「T」はTraceability &Transparencyで、すべての素材・生産現場の情報が公開されていること。「E」はEco & Ethicalの意味で、地球環境に配慮し、かつ公正な労働環境が保たれていること。「A」はArtificial hairの意味で、技術革新により優れた人工毛の開発努力を進め、人道的な配慮から人毛は一切使わず、この基準に沿って当社の生産現場で、試作品を何度もつくり直しました。そして、「M」はMedical Qualityの意味で、使う人の安全のために、製品はJIS規格適合とPL保険適用を条件としています。

Q:あえて厳しい基準に挑み、クリアさせてきたわけですね。

A: TEAMという言葉には、ウィッグの基準だけでなく、すべてのスタッフがチームとして患者様をサポートしていくという私たちの意思も含まれています。この製品を取り扱う当社のスタッフはVOL-NEXT社の「医療接遇講習」と「TEAMRafraプロフェッショナル養成研修」を受講し、がん患者様の心をしっかり受け止めるよう教育されています。認定を受けた社員だけが医療用ウィッグ『TEAM Rafra』の販売ができます。


仕事も日々の暮らしもハツラツと
『TEAM Rafra』の特長とは

Q:新商品にはどのような特長がありますか。

A: 医療用ウィッグ『TEAM Rafra』は、がんに罹患しても自分らしく意欲を持ち、治療と仕事を含めた生活を両立させることを目的に開発しました。

そのため『TEAM Rafra』は、生活のオンとオフを切り替えるため、外出時用の「Rafra Main」と自宅用の「Rafra Ex」の2種類をセットにして販売し、どなたにも似合うよう、基本的にはカット無しで装着できるようつくられています。また、快適なつけ心地で毎日を過ごせるよう、軽やかさも追求しました。

新商品は既存のショートスタイル・ショートボブスタイルに加え、新たにロングスタイルのデザインを追加するとともに、「外出時用」と「自宅用」の組み合わせを自由に選べるようにしました。

Q:「オン」と「オフ」の切り替えをウィッグでできるという点がとても新鮮ですね。

A: 乳がんに罹患したことのある方に尋ねたところ、約7割の人が治療をしながら仕事も続けたと答えています。そして、仕事と治療の両立で、もっとも苦労したのは「外見の変化へのケア」だったと回答しています。

Aderans-3

Q:女性も仕事を持つのが当たり前になっています。病気の治療時も仕事を続けられる方が増えているわけですね。

A: 乳がんになられた患者様は、以前は1カ月ほど入院する方が多かったそうですが、最近では2~3日の入院で退院し、あとは通院治療をするのが一般的となっているようです。

ただし、抗がん剤治療は、多くの患者さんが副作用によって毛髪が抜けてきます。そのため、「外見の変化へのケア」がとても大切になってきます。

<かつては外出用にだけウィッグを使い、自宅では帽子で過ごす方が多かったのですが、女性の患者様からすると、夫や子どもたちの前でもふだんと変わらぬ自分でいたいという強い願いがありました。24時間着けても違和感のないシームレスなウィッグが欲しい、というご要望が私たちに多く寄せられていました。

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Q:新商品にロングスタイルが加わり、治療中も自分らしいヘアスタイルを維持できますね。

A: ロングの方が、治療中だけショートやボブにするのは違和感があります。また、病気の治療が進み、自分の髪が回復してきた方は、1日も早くウィッグを取り外したいと思われます。ところが髪が伸びるには時間が掛かりますし、短い髪の状態でいきなりウィッグを取り外すと、周囲の方に不審がられるのではないかなど、タイミングが難しいのです。

自分の髪の成長に合わせて、ロングスタイルのウィッグを短めに調整していけば、ウィッグから自然な形で自髪のヘアスタイルに戻すことができます。また、短いタイプのウィッグですと、スタイルの変化が限られますが、ロングだと後ろで束ねたり、ヘアスタイルのアレンジが楽しめます。

乳がんには、お若い方も罹患する可能性があります。『TEAM Rafra』は、30〜60代の幅広い層に受け入れられるヘアスタイルにしました。

新商品発売後の医療用ウィッグ『TEAM Rafra』では、ロング、ショート、ショートボブの3つのスタイルが選べ、さらにカラーもブラウン系、ライトブラウン系、ダークブラウン系から選べます。それらを組み合わせると36ものパターンになります。

医療用ウィッグの普及に取り組む医療事業推進部 東京オフィスの上田浩子さん

医療用ウィッグの普及に取り組む医療事業推進部
東京オフィスの上田浩子さん

Q:医療用ウィッグならでは難しさ、あるいは心がけていることがありましたら。

A: 治療中ということもあって、ちょっとした刺激にも頭皮が過敏になられている方がいらっしゃいます。薬の副作用などで、通常ではありえない皮膚トラブルが起きやすいので、頭皮にやさしいということを特に心がけています。頭皮に触れるベースの素材には抗菌防臭加工を施しています。

Q:お客様への心遣いなどではどのような点に配慮されていますか。

A: 精神面の配慮を忘れないことが大切です。抗がん剤などによる脱毛は女性の患者様にとって大変ショックな出来事で、夫や家族に心配を掛けたくないという思いとともに、だれにも話せないもどかしさを感じています。

病気については、お医者様に相談できても、脱毛による外見の変化までは相談しにくいのが実情です。最近では、看護師の方やがん支援センターの相談員に話されるケースは増えていますが、ウィッグの調整などの際に、お客様の思いをしっかりお聞きし、気持ちをやわらげるよう努めています。

アデランスグループでは、医療用ウィッグの接客にあたるスタッフ全員が、患者様に適正な接客が行えるよう、外部専門講師による医療講習の受講を義務づけています。VOL-NEXT社によって実施される研修に、これまでの累計で1,800名以上の社員が受講し、患者様の心情を理解した接客がレディスアデランスのサロンや当社直営の病院内ヘアサロンで活かされています。

Q:医療用ウィッグで、JISの規定もクリアされているようですね。

A: 2013年から医療用ウィッグのJIS規格化を進め、2015年に医療用ウィッグで世界初となる国家基準(規格番号:JIS S 9623)が制定されました。JISの規定の策定にあたっては、業界のリーダーとしてアデランスが中心的な役割を担いました。


毛髪・美容・健康のために
アデランスの今後に向けた抱負

Q:最近では、「毛髪・美容・健康のウェルネス産業へ」という構想を打ち出していますね。

A: アデランスグループは「お客様の毛髪の悩みを解決する」を社是としてきました。しかし、最近ではもう一段上の高みをめざして「毛髪・美容・健康のウェルネス産業へ」と事業領域を広げています。

髪の毛は、身体の一部です。よい髪の毛を育てるには、健康な頭皮が欠かせません。また、健康な頭皮を育てるには健康な身体が不可欠です。ウェルネスがとても大切な要素になります。いま、当社では“健康と美容”の両面から大阪大学や大分大学と産学連携を進めています。

Q:病気による「外見の変化」をやわらげるという意味で、アデランスグループが果たす役割は大きいですね。

A: だれもが病気にかかる可能性はあります。もし、病気にかかっても、その人がその人らしく、これまでと変わらぬ日々が送れることが大切です。病気による脱毛のケアなどにより、心も体もウェルネスになれるようお手伝いするために、日々精進を続けています。

株式会社アデランス
https://www.aderans.co.jp/corporate/


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