企業とNGO/NPO
継続は力なり。本業を生かした社会貢献活動広がる
企業フィランソロピー大賞の2020年贈呈式から17回目を数えた「企業フィランソロピー大賞」 の贈呈式が2月 21日に開催されました。本賞は、 社会課題の解決のために経営資源を有機的・持続的に活用している企業の社会貢献活動を顕彰するもの。その栄誉に浴した今年の7社の活動を紹介します。[2020年3月8日公開]
大きな企業も小さな企業も。
全国に広がる自社の特性を生かしたユニークな活動
「企業フィランソロピー大賞」は、公益社団法人日本フィランソロピー協会 (東京都千代田区/会長 浅野史郎、理事長 髙橋陽子)が2003年から毎年行ってきたもの。今年で17回目を数えます。この数年は、人材・ノウハウ・技術・情報などその企業の経営資源を生かして、社会課題の解決に尽力した企業に贈られてきました。
選考委員長として今年の選考に当たった神戸大学副学長の國部克彦教授によれば、(1)革新性(固定観念や既成概念にとらわれず、先駆的に行動し新たな社会価値を創造している) (2)継続性(一過性に終わることなく、真摯に活動を継続している) (3)波及性(従業員はじめステークホルダーの参画、他企業や他セクターとの連携など社内外への広がりがみられる) (4)経営との関連性(経営陣の関与・経営理念との関連性が明確である) (5)経営資源の活用(事業活動により培われた経営資源=人材・ノウハウ・技術・情報など=を活用している)の5点を重視したとのこと。以下は今年受賞した7社の顔触れと主な取り組みです。
(※企業フィランソロピー賞の社名は 50 音順です。)
企業フィランソロピー大賞
第一勧業信用組合(東京都新宿区)
金融をとおして地域社会の持続的成長を目指す
協同組織金融機関として東京都 23 区一円を営業地域とする一方、全国の地域金融機関や自治体など、業態・業種を超えた連携を拡大中。都内在住者の地方不動産売却、農業ファンド組成、各地の名産品を東京で販売する物産展開催など、東京発の地方創生と地域間の資金循環に取り組んでいます。創業期や事業性の低いソーシャルビジネスなど与信判断の難しい資金需要に対しても、信用組合ならではの目利き力を生かした支援を行ない「人とコミュニティの金融」「育てる金融」 「志の連携」という、3つの基本方針を具現化することによって地域の持続的成長を支えています。その姿勢は金融の原点を示すものとして示唆に富んでいます。国際的な金融機関組織 GABV(The Global Alliance for Banking on Values)に日本で唯一加入するなど海外でも評価されています。
企業フィランソロピー大賞
北良(ほくりょう)株式会社(岩手県北上市)
医療と防災のヒトづくり×モノづくりで地域に貢献
家庭用・産業用・医療用ガスなどを製造・供給する同社は、最新技術を駆使したユニークな災害対応、災害対策を進めています。なかでも、災害時の医療・療養環境に着目し、電源確保、酸素吸入などの医療装置、水の供給まで、シームレスな支援体制を構築しています。とかく縦割りになりがちな行政の法律、規制を、技術力と人的なネットワークを使いながらクリアしようとする手法は、民間の技術力を生かしたイノベーションの賜物。東日本大震災以降、各地の災害に「出動」し、その過程でさらに技術的改良を積み上げ、志を同じくする官民組織のすべてを巻き込む姿勢で災害支援フローの改革を進めています。その原動力は、東日本大震災時、「十分な役割を果たせたか」 という自問とともに、「もてる限りの技術と知恵で眼の前の人を救いたい」という従業員たちのまっすぐな思いを束ねる力となっています。
企業フィランソロピー賞 【里山イノベーション賞】
石坂産業株式会社(埼玉県三芳町)
三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)をはじめとする環境保全活動
産業廃棄物処理事業をエネルギー供給、再生事業と捉え、同業他社とともに循環型 社会、環境教育についての取り組みを進めています。事業に対する地域社会の理解を図るため、施設は廃棄物を屋外に一切出さないつくりに変え、見学用通路を設けて透明性を高めているほか、環境体験プログラムや地域住民の交流の場として「三富今昔村」(※JHPE 認証 AAA)を整備。近隣の土地所有者からの提供もあり、今では東京ドーム 4 個分の敷地を同社が管理し、生物多様性を維持しながら、人も集まる森に育てています。住民との信頼を基盤に、地域の共有財産としての里山を取り戻 す取り組みは高い評価を得るにふさわしいものといえます。
※JHPE 認証:生物多様性の保全や回復に資する取り組みを評価・認証するもので公益財団法人日本生態系協会が開発・運営。AAA は最高ランク。
企業フィランソロピー賞【つなぐ 灯(ともしび)賞】
大阪ガス株式会社(大阪市中央区)
グループをあげて取り組む“小さな灯(ともしび)”運動
1981 年(国際障害者年)より従業員一人ひとりがボランティア活動に取り組むため「小さな灯」運動をスタート。「小さな灯」基金を設け、従業員、OB・OG、協力会社、一般市民からの寄付金を積み立て、災害時義援金、福祉、歴史・文化、まちづくり、スポーツ、食育など幅広い分野で活用しています。従業員の参加意識は高く、大学や自治体、市民団体等と連携して物品寄贈や講習会、チャリティイベントなどを開催し地域社会との顔の見える関係づくりにつながっています。創業時からの「お役立ち精神」を具現化し、CSR の根幹をなすものとしての、地道で裾野の広い取り組みとなっています。
企業フィランソロピー賞【笑顔を届けま賞】
株式会社クラレ(東京都千代田区)
アフガニスタンの子どもたちにランドセルを贈る
ランドセル用素材として7割以上のシェアを占める人工皮革を製造・販売する同社は、戦禍によって教育機会を奪われたアフガニスタンの子どもたちに、日本の小学生が使っていたランドセルを贈る「ランドセルは海を越えて」の活動を 2004 年に開始。これまでの寄贈数は累計 127,993 個にのぼります。使用済みランドセルは、同社グループ従業員を中心に約 200 名のボランティアが、汚れや破損、宗教上の理由で贈ることができない豚革製ランドセルの有無などを検品。手紙や文房具、ろうそくを添え、NGO と連携し現地に届けています。同様の取り組みは他社にも波及し、子どもたちの社会貢献やモノを大切にする心を育んでいます。「ランドセルは海を越えて」の活動は、アフガニスタンと日本の子どもたちの懸け橋となっています。
企業フィランソロピー賞【未来への道しるべ賞】
阪急阪神ホールディングス株式会社(大阪市北区)
「SDGsトレイン未来のゆめ・まち号」を運行
「未来にわたり住みたいまちづくり」を進めることを目指し、「阪急阪神未来のゆめ・まちプロジェクト」を実施。グループ横断の社会貢献活動としてグループ約 100 社が参加、沿線地域のコミュニティづくりと子どもたちへの多様な教育機会を提供するほか、市民団体への助成、従業員ボランティア推進など多岐にわたる活動となっています。2019 年 5 月、同プロジェクト 10 周年を記念し、国・自治体・企業・市民団体と連携した啓発列車「SDGsトレイン」を運行。車内広告スペースを使い SDGsや 社会課題解決に共感する人を増やすために働きかけています。同社が先鞭となり東京都内の鉄道でも同様の取り組みが始まっています。経営資源を活用し、地域に貢献するとともに、地域住民の社会貢献意識の醸成、従業員の仕事への誇りを生む骨太でかつきめ細かな取り組みとなっています。
企業フィランソロピー賞【地域モビリティ賞】
株式会社光タクシー(北九州市)
https://www.mapion.co.jp/phonebook/M12002/40108/24030405920/
乗合タクシーの運行で高齢者の暮らしを支援
高齢化率 36.0%(全国平均 28.1%)と北九州市の中でも高齢化率の高い地域で、2000 年 より「乗り合いタクシー」を運行しています。かつて大手製鉄会社の企業城下町であった八幡東区枝光(えだみつ)地区は、山地を切り開いて住宅地を造成したため狭隘で急な坂道が多いのが特徴。乗り合いタクシーはこうした地域と商店街、医療施設を巡回し、交通手段に困っていた高齢者にとって無くてはならない足となっています。行政、商店街・自治会等とも連携し、現在は運賃 200 円で一日 56 便運航しています。また、旧福岡銀行枝光支店をリノベーションし、演劇、ダンス、音楽ライブや子ども向けイベント等に利用できる「枝光本町商店街アイアンシアター」を開設。若者も含めた人の往来を作り出しています。乗り合いタクシーが住民間のコミュニケーション促進、商店街活性化に貢献する好事例となっています。
【公益社団法人日本フィランソロピー協会について】
1963 年設立、 1991 年よりフィランソロピーの推進事業を開始。 2009 年に公益社団法人としての認定を受ける。企業の CSR・社会貢献担当者を対象とした定例セミナーや機関誌 『フィランソロピー』 の出版などの各種事業を通じて、民間の果たす公益の主体となる企業や個人の社会参加意識を高め、公正で活力ある心豊かな社会の実現を目指す。 会員企業は 128 社 (2019 年 12 月 25 日現在 ) 。
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