企業とNGO/NPO

ケニア・マサイ族の村で母子の健康改善に貢献

「Mother to Mother SHIONOGI プロジェクト」が成果を発表

塩野義製薬と国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンが2015年10月に開始したアフリカの母子の健康を支援する「Mother to Mother SHIONOGIプロジェクト」。その第一期事業が約6年の歳月を経て完了し、このほど報告会が東京都内で行われました。(2022年3月27日公開)

シオノギが現地で建設した診療所

なぜケニアで、シオノギが

アフリカにおける母子保健支援活動である「Mother to Mother SHIONOGIプロジェクト(以下、M2Mプロジェクト)」は、医薬品だけでなく医療アクセスの向上を目指す塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木功)が、持続可能な社会の実現とシオノギの成長を支えるため、「感染症などのAMR(薬剤耐性)治療への貢献」ととともに掲げる大きなテーマとなっています。

その発案は海外事業本部に所属する土田愛さんの「子どもたちのために治療を待つケニアのお母さんを助け、アフリカにもシオノギの薬を届けたい」という素朴な提案がきっかけでした。

東アフリカに位置するケニア共和国では、妊産婦死亡率が日本の68倍、5歳未満児死亡率が日本の22倍と、SDGsが掲げる目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成にはほど遠い状況が続いています。

シオノギでは、国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンの協力を得て、ケニア共和国ナロク県イララマタク地域において2015年からM2Mプロジェクトをスタート。同地域は遊牧民のマサイ族が多く暮らす地域で、保健施設や医療サービスの質・量の不足だけでなく、地域住民の保健に関する知識不足、古くから残る自宅出産の慣行など解決しなければならない課題を多く抱えていました。


6年に及んだ母子支援活動のポイント

途上国における妊産婦や新生児、乳幼児の健康は、病院や診療所など医療インフラの整備だけで終わりません。外部からの支援が撤退したあとも、安定的で自立的な医療支援の仕組みづくりが維持できるかが問われていました。

新しい医療支援の仕組みづくりには、まず現地の実情をしっかり把握し、その地域や村落にふさわしい母子支援活動のあり方を模索することが必要となります。そこで、多くの国で豊富な実績を持つ国際支援団体ワールド・ビジョンと連携することからプロジェクトはスタートしました。

シオノギでM2Mプロジェクトに関わったヘルスケア戦略本部CSR推進部の谷由香利さんによれば、「現地でまず“知らないことを知る”ことが大切な学びにつながった」と語ります。医療サービスを受けるお母さんたちから生の声を聞き、飲料水にも事欠く現地の生活環境を知ることで、地に足の着いた取り組みが始まりました。

プロジェクトでは事業ビジョンを、「お母さんと子どもたちの健康管理を自立的かつ持続的に行えるコミュニティの実現」に置き、「保健システム・サービスの強化」と「住民への啓発と意識・行動変容」に力を注ぎました。

コミュニティの母親たちの中からリーダーとなる「Mother to Motherグループ(M2Mグループ)」を募り、地域保健の担い手である村落保健員とともにそれらのリーダーを通じて地域住民への意識の醸成・浸透を図っていきました。

現地ではさまざまな形で住民への啓発活動が

妊産婦と5歳未満児の健康状態の改善を図る

当面の目標は、「妊産婦と5歳未満児の健康状態の改善」でした。まず、2016年から診療所の建設に着手するとともに、妊婦の診察と子どもの栄養状態の調査、予防接種などからなる巡回診療を拡充していきました。

その一方で、既存の医療従事者や住民の知識の向上と行動変容を図るため、村落保健員とM2Mグループの研修を進め、母子保健だけでなく、栄養教育、井戸や貯水タンクの整備による水衛生などにも取り組みました。

安全な水の確保に向けて浄化剤の使用を学ぶ

この日の発表会で登壇したワールド・ビジョン・ジャパン事務局長の木内真理子さんによれば、こうした取り組みの結果、「2018年と2021年を比較すると、自宅出産から診療所での出産が進み、専門技能者の介助を含む保健施設での出産が、12倍に拡充。また、妊娠から出産までに4回以上の産前検診を受けた妊婦の割合は1.3倍に、生後12か月から23か月の幼児の予防接種完遂率は1.7倍に」なるという成果が生まれました。


長崎大学熱帯医学研究所による評価

M2Mプロジェクトでは、もう1つ重要な取り組みがありました。長崎大学熱帯医学研究所によるプロジェクトの評価と改善のアドバイスです。

アジア・アフリカで感染症研究施設を運営してきた長崎大学熱帯医学研究所は、2006年からケニアでもプロジェクト拠点を設け、現地の研究者とさまざまな調査研究を進めており、今回ワールド・ビジョンが中心となって実施した水・衛生環境整備や栄養教育、母子保健の取り組みについてもアカデミアの立場から評価を行いました。

今回の発表会にも登壇した長崎大学名誉教授の一瀬休生さんによれば、「水源へのアクセスの変化や医療サービスの利用で直実に成果が生まれ、子どもたちの下痢症状が大幅に減少した」との報告がなされました。

現地では予防接種も

今後の展望について

M2Mプロジェクトの第一期事業は、予期せぬ新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で期間延長のやむなきにいたりましたが、2021年7月にはこの間立ち上げた診療所を県政府に引き渡して第一期事業を完了することができました。

シオノギでは、引き続きケニアにおける母子保健支援で“点から面”への広がりが必要ととらえ、2020年4月からケニア・キリフィ県の3つの診療所において第二期事業をスタートしています。

今回の発表会の最後に登壇した同社の取締役副社長でヘルスケア戦略本部長の澤田拓子さんによれば、「夜間の診療や出産に対応したり、冷蔵庫でワクチンの保存を行うには、電気の安定供給が欠かせず、この分野で実績のあるパナソニックなど他企業との連携を強めていきたい」と抱負を語りました。

M2Mプロジェクトは、今後も分野横断的なパートナーシップにより、互いの強みを活かしつつ、ケニアにおける医療アクセスの向上とUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ=すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられること)の達成に向けて取り組んでまいります。

報告会に登壇した皆さん。右から長崎大学名誉教授の一瀬休生さん、ワールド・ビジョン・ジャパン事務局長の木内真理子さん、塩野義製薬ヘルスケア戦略本部CSR推進部の谷由香利さん、塩野義製薬取締役副社長ヘルスケア戦略本部長の澤田拓子さん 

塩野義製薬株式会社について

塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「医療アクセスの向上」を掲げており、AMR治療へのアクセス向上への貢献、アフリカでの母子保健支援などの活動を行っています。外部パートナーとの連携も含めた取り組みを強化し、社会に対して新たな価値を提供し続けていくことで、患者さまや社会の抱える困り事の解決に取り組んでいます。
https://www.shionogi.com/jp/ja/

ワールド・ビジョン・ジャパンについて

ワールド・ビジョンは、キリスト教精神に基づいて開発援助・緊急人道支援・アドボカシー(市民社会や政府への働きかけ)を行う国際NGOです。国連経済社会理事会に公認・登録され、約100カ国で活動しています。日本事務所は東京都中野区です。https://www.worldvision.jp/


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