CSRフラッシュ

国を越えて、互いを知り、学び、成長しよう

国境なき子どもたち(KnK)発足25周年ワークショップから

9月に設立25周年を迎えた認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)。これまでの活動を振り返る写真展「共に成長するために-世界の子どもたち各地で開催するとともに、9月10日に日本、カンボジア、パレスチナの同世代の子どもたちがオンラインンで顔を合わせ、交流を行いました。[2022年9月26日公開]

オンラインで子どもたち同士の対話も

「5つの質問」をとおして、未来の自分と世界を考える

この日のワークショップは、参加する子どもたちにknkから出された「5つの質問」への回答を通じて、国や地域などの違いを越えてお互いが置かれた社会の違いを考え、理解を深めるというもの。参加者は12歳から17歳のいわゆる日本でいう中高生の世代に当たります。日本から7名、カンボジアから4名、パレスチナから4名がワークショップに参加したほか、KnKが現在も支援活動を続けるバングラデシュ、シリア、フィリピン、ヨルダン、パキスタンからもそれぞれ1名が書面で参加しました。以下に「5つの質問」と子どもたちの回答ぶりを振り返ります。

日本の参加者たち。真ん中は当日の進行役を務めたknkの松永晴子さん

質問1 あなたは誰とどこに住んでいますか?

日本の参加者7名は、「一軒家とマンションで家族と暮らしている」という回答が多く、カンボジアの参加者4人のうち3人はKnKが現地で運営する「若者の家」に。1人だけが「家族と一緒に、村の安全な場所に」という回答でした。

パレスチナの子ども4人のうち3人は「難民キャンプ」と答え、1人は「一軒家に家族と一緒」と答えています。書面で参加したシリアの1人も「難民キャンプのキャラバン」としています。

カンボジアの一軒家に住む子が「村の安全な場所に」と答えているのは、親たちの世代がかつて経験した内戦の影響もあるのかもしれません。

質問2 あなたの国の食べ物で、好きな食べ物は?

カンボジアの子どもは、「ブロホックティース」「チャートローペンジュー」「サモロー・ココ」「ムチュ・クレング」「ロックラック」をあげてくれました。「サモロー・ココ」だけが2人の好きな食べ物となっています。肉魚野菜などが入ったスープで、ご飯にかけて食べる料理ですが、KnKの「若者の家」でもよくつくられる人気の料理だそうです。

タイとベトナムの中間に位置するカンボジアは、食べ物の辛さも両国の中間ぐらいとされています。

パレスチナの子どもたちは、「ムサッハン」「モロヘイヤ」「マンサフ」「ファラーフェル」「ダワリ」「マンサフ」をあげてくれました。こちらは全員違う食べ物です。

ちなみに日本の子は、「寿司」「刺身」「お好み焼き」「たこ焼き」「ワカメのお味噌汁」「うどん」「ラーメン」「肉うどん」をあげています。ただし、「寿司」だけは4名が好きだと答えています。

書面で参加したバングラデシュの子は「マトンとお米」、難民キャンプで暮らすシリアの子は「ピザとシュワルマ」、フィリピンの子が「ポークアドボ」、ヨルダンの子が「モロヘイヤとバーガー」、パキスタンの子が「カプリ・パラウ」をあげています。

世界の穀倉と呼ばれるウクライナが戦争に巻き込まれ、中東やアフリカでも食糧危機が心配されています。パレスチナにも影響がありそうです。

カンボジアの子からも日本の子に質問が

質問3 あなたの町や国の素敵なところ、美しいところは何ですか?

カンボジアの2人は、「美しい水田」や「山」「新鮮な空気」をあげ、もう1人は「クメール様式の美しく伝統的な家々の眺め」、もう1人は「平和で発展されていて、素晴らしい文化と文明があるところ」と述べています。

パレスチナの子は、一軒家に家族と住んでいる子が「(住んでいる)ジェリコは、住民たちがお互いのことを知っていて、渋滞もなく落ち着いているところ」と述べ、難民キャンプで暮らす3人は「わかりません」「国への帰属意識、連帯感」「美しいところがたくさんあるところ」とそれぞれ回答しています。

書面で参加したバングラデシュの子は「美しい学校とモスク」、難民キャンプで暮らすシリアの子は「シャームスクエアとおじさんの農場」、フィリピンの子は「ハッピーなこと。たくさんの観光地があり、人々がおもてなしの心を持っていること」、ヨルダンの子は「現代的な建物(タワーやテレビ、ラジオなど)」、パキスタンの子は「自分の国のモスク」と述べています。イスラム圏の子は、信仰の拠点であるモスクを誇りにしているのが分かります。

日本の子は、「時間にキッチリしているところ。物を落としても帰ってくるところ」「自然豊かなことを活かした取り組みや体験があること」「治安が良いところ」「田んぼの風景」「白線がまっすぐな所や、自然が多いこと」「どこでも電車やバスで1人で行くことができる」「近くに大きな綺麗な公園がある」「人々に思いやりがあり、いざという時に助けてくれるところ」と多岐にわたっています。


質問4 あなたの夢は何ですか?

日本の子は、「自分の楽しいことをやり続けること」「国際協力などで、未来の国を担っていく子どもたちのサポートをすること」「自分が楽しいと思える仕事に就くこと」「バーチャルYouTuber(VTuber)」「アメリカの大学に行って生物学を学びたい」「世界中の人々の夢を叶えたい」「小児科医になること」と多彩で具体的なのが印象に残りました。

カンボジアの子は、「首相のボディーガード」「警察官」「先生になって、自分の村で教えたい」「警察官になって、国と国民を守りたい」とこちらは堅実。ひと頃、日本の学生たちが「公務員」と答えたのに通ずるものがあるのかもしれません。

パレスチナの子どもたちは「お医者さん」「世界を旅する」「海外で勉強する」「電気かコンピューターのエンジニア」とこちらは夢と現実のはざまで希望を持ち続ける若者らしい答えです。

なお、書面で参加したバングラデシュの子は「オートリキシャを扱うビジネスマン」、シリアの子は「探偵」、フィリピンの子は「警察官」、ヨルダンの子は「まだ決めていません」、パキスタンの子は「兵士」と述べています。

バングラデシュの子が「オートリキシャの運転手」ではなく「オートリキシャを扱うビジネスマン」と答えたのには驚きました。起業家精神にあふれる子がバングラデシュにもいると心強く思いました。


質問5 もし世界を変えられるなら、何を変えたい?

前の質問で「オートリキシャを扱うビジネスマン」と答えたバングラデシュの子は「すべての貧しい人たちを助けたい」と答えています。金儲けだけに終わらない、崇高な精神の持ち主だと分かります。ちなみに難民キャンプで暮らすシリアの子は「私たちがより素敵な未来をつくること」、フィリピンの子が「コロナを終わらせたい」、ヨルダンの子が「差別のない社会、すべての人がすべての人権を持つ社会を実現したい」、パキスタンの子が「世界の悪いことをなくしたい」と述べています。

カンボジアの子どもたちは、「戦争や汚職、暴力がない平和な世界にしたい」「森や動物、文化遺産を守る世界にしたい」「森を守り、ゴミのないきれいな環境を保ち、貧富の差のない社会にしたい」「悪い人たちをいい人たちに変えたい」と社会の現実と自分たちの役割を見据えているのが頼もしく思いました。

パレスチナの子どもたちは「自分が住んでいるところを変えたい」「偽善者や裏表のある人をなくしたい」「暴力から女性を守りたい」「戦争と占領を終わらせたい」とこちらも社会の課題をしっかりとらえています。

日本の子どもたちは、「男女、人種、国など自分の生まれ持ったものに対しての差別をなくしたい」「兵器など使わず、平和的に解決できる世界にすること。生活水準を世界で基準を決めて守られること」「世界中の人が、毎日安全で美味しい食事をとれるようにしたい」「一人ひとりが好きなことを見つけ、生きたくなる世界に変えたい」「兵器をなるべく作らせないようにする」「格差を解消したい」「所得の差による教育格差をなくしたい」と、こちらも現実を直視した、素晴らしい答えが寄せられました。

ワークショップが佳境に近づくと、「学校の一日はどうか」「何をしているときが一番楽しいか」「日本で人気のアニメは何か」「暮らしてみたい国はあるか」など、他の国への関心も一気に高まりました。

カンボジアの子からは日本とパレスチナの子に「あなたの国では人権は守られているか。自由はあるか」という質問がありました。日本の子からは「他の人に迷惑をかけない限り、自由と人権は制限されない」という答えが、パレスチナの子からは「人権も自由もほとんど守られていない。占領が続いているから…」という返答がありました。

互いの国の実態をとおして、あらためて世界と自分の接点を確認する貴重な一日になりました。

ワークショップを終え、別れを惜しむ日本の参加者たち

共に成長するために~世界の子どもたち 誌上写真展

この日、ワークショップの会場となったアイデムフォトギャラリー「シリウス」(東京都新宿区)では、「共に成長するために-世界の子どもたち-」と題する写真展も同時開催されました。

2004年からKnKの活動に賛同する8名の写真家(大川砂由里さん、谷本美加さん、渋谷敦志さん、安田菜津紀さん、佐藤慧さん、ハービー山口さん、吉田亮人さん、清水匡さん)が、海外や東日本大震災の被害を受けた岩手県などで撮りためた写真から大小52点の写真が、会場内に展示されていました。本誌では、KnKの協力を得て、その一部を誌上展示します。

家を流されて(2005年インドネシア・アチェの津波を受けて。撮影渋谷敦志)

ここが私の家(2006年パキスタンで。撮影谷本美加)

学校にいけない(2006年東ティモールで。撮影渋谷敦志)

溶接工場で働く8歳と10歳(2009年バングラディシュで。撮影渋谷敦志)

未来は見えるか(2011年震災後の岩手県で。撮影清水匡)

難民キャンプで飲む水(2014年ヨルダンで。撮影安田菜津紀)

ストリートチルドレン(2017年フィリピンで。撮影吉田亮人)

認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)

事務局所在地 :〒161-0033 東京都新宿区下落合4-3-22
https://knk.or.jp/


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