フクシマがドイツの世論を変えた!

原子力発電所廃止に舵を切ったドイツからの緊急報告

グリーンピース・ドイツ気候変動・エネルギー部門リーダー
放射線アドバイザー、フィナンシャル・アナリスト トーマス・ブリュアー

一進一退が続く福島第一原子力発電所。いまだ安定にはほど遠く、予断を許さない。最新のINES(事故評価尺度)によればチェルノブイリに並ぶレベル7となった。今回の事故を重く受け止めた、ドイツのメルケル首相は17基の原子力発電所のうち、8基の一時停止を決めた。ドイツにおける争点は、原子力発電所を使うか使わないかではなく、5年後に廃止するのか、10年後に廃止するのかの議論に移っている。先頃、衆議院第二議員会館で、グリーンピース主催の院内勉強会が開かれた。ドイツから来日したトーマス・ブリュアー氏の報告をお伝えしよう

[関連記事]
◎福島第一原発とチェルノブイリの違いとは?[姉妹誌The Diplomat(英語版)から]
http://csr-magazine.com/2011/04/13/international-fukushima-chernobyl/

地震・津波とその後の原子力発電所事故で被害を受けて苦しんでおられる日本の皆様に心よりお見舞い申し上げます。今回、エネルギーの将来にどのように向き合うべきかという問題でお話をする機会を与えていただき感謝を申し上げます。

この問題は国際的にも非常に重要性の高い問題です。初めに、いまドイツで進行中の事態をより深くご理解いただくために、これまでのドイツにおけるエネルギー政策の経緯と、どのような枠組みで議論がなされてきたのかを振り返ってみたいと思います。

原子力発電所を巡るドイツの動き

70年代、80年代にドイツでも多くの原子力発電所が建設されました。地元の住民からは非常に激しい抵抗がありました。その後、1986年のチェルノブイリの事故を受けて、主要政党の1つである社会民主党が原子力発電所の段階的廃止を決めました。

その後の重要なステップとして欧州におけるエネルギー市場の開放があります。

原子力発電所のコスト構造を考えてみると、真に競争の原理が働いている市場で原子力発電所は機能しません。これは世界の他の地域でも実証されていることです。原子力発電所が存続しうるのは、政府による金銭的、公的サポートがある場合のみなのです。

グリーンピースは活動家の組織として知られていますが、それは小さな一部分でしかありません。ただ、グリーンピースそのものは解決志向の強い組織です。何かを求めていくのは簡単ですが、実行に移していく、変えていくというのは簡単なことではありません。

私たちは欧州のエネルギー市場の開放直後、ドイツで自然エネルギーを供給できる組織(1999年のグリーンピース・エネルギー)を立ち上げました。自然エネルギーを求める市民に対して、自然エネルギーを供給できることを証明したのです。

第一のステップは、ドイツ政府が1990年から2000年に掛けて、原子力発電所の廃止法を打ち出す前に、自然エネルギー法を立ち上げたことです。送電網に接続するに際し、自然エネルギーがより優先されるという法律が成立しました。電力の供給システムを変えていくために必要な法律でした。

原子力発電の段階的廃止が法案化

自然エネルギー法が成立した後の2002年には原子力発電所の段階的廃止法が成立し、2023年までに原子力発電所の全廃が打ち出されました。ところが昨年この法律は改正され、原子力発電所の寿命を平均12年ほど延長させるという法律が改正されました。自然エネルギー法が弱体化されたのです。

自然エネルギーが送電網に接続されると非常に競争力が強くなるため、原子力発電所が競争できなくなってしまうことを恐れたものだと私たちは思っています。

フクシマを受けて8基の原子力発電所を閉鎖へ

津波の後のフクシマの事故を受けて、この3月ドイツ政府は、新しくできた段階的廃止新法を一時停止することを決めました。ドイツにある最も古い8基の原子力発電所を止めることにしました。8基のうち2基は3年前に技術的な問題ですでに止まっているものです。

一時停止は3カ月です。その後、あらためて原子力発電所の見直しをすることになっています。決定的な時期は今年の6月に到来しそうなのです。6月の段階で、どの程度早く原子力発電所の廃止を行うかの決定が行われます。

原子力発電に対する政党の動き

ドイツにおけるフクシマ原子力発電所事故以前の各政党の立場は、キリスト教民主同盟が廃止に賛成するものの、緩やかな段階的な廃止を主張してきました。自由民主党は、実際は原子力推進派でしたが、推進は難しいとして緩やかな段階的廃止を打ち出していました。そして社会民主党と緑の党が2002年の法律に基づいた段階的廃止推進派でした。この2つの党が政権にあったときに成立させた2002年の法律に基づいて廃止を進めていこうというものです。

私たちグリーンピースは2015年までに科学的検証に基づいて段階的廃止を打ち出してきました。

トップへ
TOPへ戻る