識者に聞く

東日本大震災への取り組みとNGO「石巻モデル」と「企業とNGOの協働」 Part 1

長坂 寿久(拓殖大学国際学部教授)

4.石巻災害復興支援協議会の仕組み

(1) 設立の経緯

石巻の社会福祉協議会は、「石巻市災害ボランティアセンター」を3月15日に開設した。しかし、このボランティアセンターの活動が職員の被災や慣れない仕事などのため進展しないこともあって、3月20日に青年会議所やNGOの有志が「NPO・NGO支援連絡会」をスタートさせた。この連絡会は、4月2日に、「連絡会の機能を保持した上で長期的な視野に基づき、より能動的で主体的な活動をすべく」(ホームページ)、「石巻災害復興支援協議会」と名称を変更した。3月20日の設立以来、1カ月の内に参加団体は100を超え、ボランティア登録者数は1000を超えた。

協議会は、NGO間の連絡・情報共有・活動の調整が中心的役割であるが、さらにそれ以上の機能をもつ組織へと発展していった。内容、人数ともに被災者のニーズに対応した人材を派遣できるように調整を行い、石巻周辺の被災地で活動する人々もここを拠点にしているという。石巻の協議会を拠点に周辺の自治体に赴くボランティアも多くなっていった。

この協議会の設立によって、団体はニーズの変化を踏まえた全体的・総合的な活動情報を入手でき、「心おきなく活動できる」ようになった。「最初はどこで何をすればいいか分からなかったが。今は毎日計画がたてられるようになり、一層機動性がますことになった」(NGOの声)という。

設立以来、週7日、欠かさずに夜に会議を持ち続けている。7時からは全体会議で、30分を目処に開かれる。4月23日夜、私も参加させていただいた。木の床の狭い会議室に膝を寄せ合って座り、まずその日初めて参加する団体の自己紹介から始まる。次いで報告事項として、各分科会(テーマ)からその日の活動成果が報告されていく。7時半からは分科会が随時開催される。

この協議会を含む、石巻市の災害対応組織図は以下のとおりである。

図:石巻災害復興支援協議会の仕組み

 

 

出所:石巻災害復興支援協議会ホームページ
http://gambappe.ecom-plat.jp/group.php?gid=10051

自治体全体の仕組みとしては、「災害対策本部」がある。これは行政主体の組織で、市役所、各官庁(自衛隊を含む)、その他関係機関からなっている。その他関係機関の中には個人ボランティアを受け入れる「石巻市災害ボランティアセンター(社会福祉協議会)」があり、もう一つ「石巻災害復興支援協議会」も出席している。協議会は、活動報告のみならず、NGOたちから提示のあったアイディアも提言しているという。

(2)生活に密着した9つの「分科会」活動

協議会には事務局があり、フィールド(活動)別に、以下の9つの「分科会」が設置されている。各団体は、石巻市災害ボランティアセンターを訪問の上、石巻災害復興支援協議会に登録する。団体には、基本的にはどれかの分科会に所属して活動してもらう。分科会の範疇にあてはまらない独自の活動をしたい場合も協議会に申し出てもらうことでマンパワーを統括的に補足することが可能になっている。

協議会の各分科会の内容は、以下のとおりである。

①炊き出し――避難所や在宅避難者向けのニーズと、炊き出し提供団体とのマッチングを行い、毎日8,000食~20,000食(4月末時点)の食事を提供している。重複を避けるため、炊き出し予定の団体は必ず協議会に事前連絡をする。日々の会議では、その日の炊き出し数と翌日の提供予定数が報告される。ちなみに4月中旬頃は毎日1万2000食程を提供した。

②メディカル(医療)――健診活動、訪問診療等を行っている。

③リラクゼーション&エンターテイメント(整体・マッサージ等)――マッサージの資格やスキルを持っている個人ボランティアが整体チームを結成し、避難所で非常に歓迎されている。整体、マッサージ・指圧、鍼灸、アロマ、足ツボ、美容師・理容師(ヘアカット)、タッチセラピー・タッチマッサージ、足湯、音楽提供、包丁研ぎ、大工、等々のサービスを提供している。

④心のケア――臨床心理士やストレスケアに取り組むグループ等が調整し、被災者の心に寄り添い、心理的負担を和らげるための活動を行っている。

⑤キッズ(子どものケア)――紙芝居、音楽、お菓子やおもちゃの配布等により子どものケアを実施している。サッカーなどの運動、入学式の手伝い、折り紙などの教育的遊戯や支援なども行っている。

⑥移送(車による運転の提供)――交通手段を失くしている被災者に、通院や入浴、役所での手続き等のための車による移送サービスを提供している。被災者の方々が診療や介護等を受けたりするときの支援をすることが多い。

⑦マッドバスターズ(泥出し、瓦礫撤去・車両撤去)――現在被災者から一番ニーズの多い要望は、自宅(一般家屋)からの泥出しや、壊れた家具・水に漬かった畳などの運び出し作業である。個人登録のボランティアにも協力してもらい、とくにNGOが指導して地区ごとにチームを組み、実施している。日々の全体会議では、団体別に実施地域と家屋数(実施終了数と継続数)を報告している。なお、マッドバスターズから派生した「漁具回収」プロジェクトが牡鹿半島で進行している。

⑧生活支援(仮設住宅入居者への物資配布等)――仮設住宅への入居開始にともない、新しいニーズが発生しており、5月2日より新設された分科会である。

⑨復興マインド(ローラー)(調査および物資配布)――主に在宅避難者向けの現状調査・ニーズ調査や物資配布を実施している。現在は、配布活動はピークを過ぎ、コミュニティの自立を見据えた活動が求められるようになっている。各団体や個人が避難所や在宅避難所を訪問し、行政で把握しているような基本的な情報や物資ニーズを繰り返し質問していたことがあり、被災者の方から「同じことを何度も聞かれる」「一体どこの誰なのかわからない」といった声が上がってきており、ニーズ把握調査を一本化するようにしたものである。

なお、協議会では、避難所の地図情報や物資配布状況などの情報をアップデートしている。また、市内の泥出しの主要完遂図を作成している。そのため、個別の問い合わせには、協議会を訪ねるのが一番いい。

また、協議会は『ガンバッペ「絆」石巻』、および『まちなかスマイルプロジェクト』というキャンペーンを行っている。『まちなか』は4月10日から中心部の一斉清掃活動を開始した。

(3)大学内に設置された事務局

協議会の事務局は、石巻専修大学の施設に置かれている。この協議会が有効に機能したもう一つの要因として、この大学の存在も大きかったといえよう。

石巻市と石巻専修大学はもともと3月末に災害協定を締結することになっていたが、その直前に大震災が起きたため、協定締結を前倒して実施することになった。大学側はグラウンドや駐車場、芝生でのテント設営、仮設トイレの設置など約4万平方メートルの土地を提供している。また、教室などの一部の部屋を提供し、体育会の練習場のような広い建物は、救援物資の倉庫として利用されていた(NGOのピースボートが管理)。なお、石巻専修大学は連休開けに授業を開始するため、センターは市内から1時間程のところに移動することになっている。

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