識者に聞く

東日本大震災への取り組みとNGO「石巻モデル」と「企業とNGOの協働」 Part 1

長坂 寿久(拓殖大学国際学部教授)

5.NGOの対応性・専門性――協議会設立の背景と意義

今回の災害支援では、現地の各地域NPOたちと共に、国際的に活動しているNGO、例えばピースウィンズ、ピースボート、JENなどの国際NGOの始動が早かった。また、現地に救援のために入ったNGO・NPOや、募金活動を行う全国の団体によって3月末には、「東日本大震災支援全国ネットワーク」(Japan Civil Network=JCN)が結成されている。このネットワークには実に多くの団体が直ちに参加した(ホームページはhttp://www.jpn-civil.net/)。

石巻モデルは、石巻青年会議所の伊藤秀樹(いとうしゅうき)氏の強烈な個性(人柄、指導力、人脈等)の存在によって始まり、ピースポートの現地責任者の山本隆氏との出合いによって独特の意義あるものに発展してきたともいえだろう。新しいものの成り立ちには必ず強烈な個性が存在する。そうした人間的な側面も含むドキュメントはこれから多く人が書いてくれるだろう。ここでは私がかいま見たこの組織のシステムとその歴史的意義にのみ注目したい。

ピースボートは石巻に3月17日に入った。その現地責任者の山本隆氏と、石巻青年会議所の伊藤秀樹氏との出合いが、「石巻モデル」を作り上げる原動力となったといわれている。

協議会は、市民団体同士の連携にとどまらず、役所や社会福祉協議会・自衛隊なども連携して災害復興支援を行なう場として機能している。伊藤会長は、設立の動機についての質問に、この未曾有の緊急事態の中で、「役所の縦割り行政の不効率を批判していてもしょうがない。それを乗り越えて、役所や自衛隊やNGOなどのマルチステークホルダーが一丸となって支援活動ができる態勢を整える必要があった。」と語っていた。

協議会のホームページをみると、「NGO・NPOによる情報共有と活動内容調整のため」に設立したとしている。そして、NGO・NPOのみならず、「特別なスキルをもつ個人の方々が連携し合い、円滑で効率的な活動を行うための場を提供するための団体」「出身地や組織の枠組みを超え」た協力のための仕組みとして設立したと解説している。

この協議会は、「各ステークホルダー」と密接に連携しながら調整する場となっている。ボランティアの受け入れ団体である社会福祉協議会と連携していると共に、「市役所や各官庁とは、石巻市で毎日開催される『災害対策本部』に代表者(会長)が出席して、各ボランティアや団体が収集した情報を直接伝えたり、提言を行っている」。「自衛隊とは週に一度、炊き出しを中心議題として、重複を避けたり提供メニューの内容にまで踏み込んだ打ち合わせを行っている」。

石巻市の場合、災害ボランティアセンターは個人ボランティアとのマッチングを中心に調整を行っている。他方、NGO・NPOなど団体が活動する場合には、この協議会に登録してもらい、活動を同じくする団体と分科会で情報共有や調整を実施しながら活動するシステムが確立している。日々の活動を通して個人的関係も深まっていき、団体間の連携も強化されていく。

行政はNGO・NPOという組織の専門性、組織性、機動性、有効性を、今回の対応を通して経験的に認識するようになるだろう。ボランティアもNGO・NPOの枠組みの中で活動することによって、被災者への対応の仕方、ボランティア活動の心得などについて事前に研修を受けることができる。事前にチームを結成して話し合い、現場での組織的ボランティア活動に参加し、さらに事後の話し合いなどができるし、貴重なボランティア体験を一層貴重な経験へと高めることができるチャンスがあるだろう。

6.個人(ボランティア)とNGO

NGOが外(被災地以外の地域)の人々をボランティア募集して、応募者に事前研修し、グループを組んで、派遣して、組織的な活動を運営する意味はますます大きくなっている。個人のボランティアはもちろん重要なことだが、現地での被災者との接し方、活動の仕方、準備情報の提供など(食糧と寝るところを自前でもっていくのはボランティアの前提)を現地に行く前に研修することの重要性ははかりしれない。

「ピースボート」などはこうしたシステムをもつ団体の一つである。本部(東京など)の募集・事前研修体制と、現地の組織的運営体制が両立しているケースである。ピースボートは分科会の中の泥出しでは中心的な役割を担っていると共に、避難所への炊き出しでは需給調整を担当している。ピースボートの東京からのボランティア派遣数は、当初は10数人程であったが、4月初めには1週間単位で100名規模のボランティアを派遣できるようになっており、その派遣数はさらに多くなっている。こういった活動が可能な団体は日本ではまだ少ない。このピースボートのやり方は今後の災害への対応システム(ボランティア動員システム)のモデルとして注目できよう。(Part 2「企業とNGOの協働」に続く)

●本稿は、CSRコンサルタント会社のクレアンが、4月22~24日に企業の方々の派遣とボランティアを目的に石巻市に派遣した先遣隊に筆者も参加させていただいた時の見聞をベースとしている。クレアンに対し記して感謝を表する。

長坂寿久(ながさか としひさ)
拓殖大学国際学部教授(国際関係論)。現日本貿易振興機構(ジェトロ)にてシドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を経て1999年より現職。『蘭日賞』(2009年)受賞。主要著書として『NPO発、「市民社会力」-新しい世界モデルへ』(明石書店、2007)、『NGO・NPOと「企業協働力――CSR経営論の本質』(明石書店,2011)、等多数。

●「復興支援は、企業とNPOとの協働で」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/04/04/復興支援は、企業とNPOとの協働で

●長坂寿久の映画考現学-7「ミツバチの羽音と地球の回転」
http://csr-magazine.com/archives/review/review24.html

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