識者に聞く

いま、被災地にイノベーティブな医療を。持続可能な災害医療のあり方を探る。

日本統合医療学会代議員 小野 直哉

Q3 西洋医学では治らなかった病気が統合医療で治癒するということもあるでしょうに。

小野 そのとおりです。一般的に、欧米の医学の学術雑誌では「統合医療」という名前でも研究の方法が正しければ発表の場を与えられますが、日本の医学の学術雑誌ではなかなか受け付けてもらえません。欧米列強の知識と技術をキャッチアップしてきた明治時代と日本人のメンタリティーは余り変化していないようです。しかし、真に日本が欧米追随をしているのなら、欧米の医学の学術雑誌でも受け入れられる「統合医療」を日本の医学の学術雑誌でも研究対象として受け入れても良いと思うのですが・・・。

今回、震災の被災地に出かけ、たくさんの被災者を診ていると、これだけ大きな災害から復興を遂げるには、政治も行政も地域の皆さんも発想の転換が必要だと痛感しました。言葉を変えればイノベーションです。日本の医学にも求められるイノベーションという言葉は、いまこそ日本社会全体に必要とされる課題ではないでしょうか。それがないことが、復興を妨げる日本社会の弱点かもしれません。

Q4 今回の震災は復興までにかなりの時間が掛かるといわれています。被災者にはどのようなケアが必要ですか。

小野 5月14日に仙台で日本統合医療学会主催の災害支援の報告会とシンポジウムがありました。50~60人が参加しましたが、岩手へ災害支援に入っている私の後輩に聞くと、陸前高田市では津波で根こそぎ街が流され、亡くなったか、生きているかのゼロか1かしかないのが大方の状況だというのです。

被災地では、被災者の置かれた状況によって救急トリアージ(災害や事故、戦争などで救急隊員や医師が治療の優先順位を決める行為)という優先順位を決めます。黒色は亡くなった人、赤色は危険な状態で救急治療が必要、黄色は次に危険な人、緑色は治療の緊急性を必要としない人、というように分類して対処するのですが、陸前高田では、赤色や黄色よりも黒色と緑色が多かったというのです。

助かった人の多くは、津波を逃れた人で、外傷はほとんどなく、街の掛かりつけの医療機関も津波で流されたため、透析ができないとか、生活習慣病や慢性疾患の薬がもらえないという人がほとんどでした。病院の自家発電施設は、燃料の備蓄がもともと少なく、数日ほどでほとんどの病院の非常電源は使えませんでした。普段は豊かでなんの問題もない消費社会が、有事の際はいかに脆いものであるかと痛感しました。

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