識者に聞く

いま、被災地にイノベーティブな医療を。持続可能な災害医療のあり方を探る。

日本統合医療学会代議員 小野 直哉

長期化する震災避難民の生活の質を改善するため、各地でさまざまな取り組みが始まっている。医療に携わるボランティアも被災地の実情を探り、持続可能な災害医療のあり方を模索する。震災直後から被災地に入り、被災者などの「心のケア」の必要性を説く小野直哉さんに話を聞いた。

Q1 震災後、数回にわたって現地に入られたそうですね。どのような地域でどのような活動をされてきましたか。

小野直哉 氏

小野 4月の後半から宮城県を中心に数カ所の被災地をまわりました。宮城県の仙台市若林区、名取市、七ヶ浜町、岩沼市、石巻市、そして最後は私の実家のある福島県のいわき市の周辺も原発事故の影響があるというので訪れました。

率直な感想を述べれば、被災地の状況は被災地域によって大きく違うという印象でした。仙台市内では、海岸線から数キロのところに海岸と平行に高速道路が走っているのですが、この高速道路を境に被害の状況が一変していました。

家を津波で流された人、田んぼや畑が津波を被った人、船が流された人、家族が犠牲になった人、地域ぐるみで流された村、被害の状況で人々のニーズはまちまちなのではないかと思いました。阪神淡路大震災に比べると被災地域が広範囲にわたっているため、個々の皆さんの被害の状況を把握することが一層難しくなっています。

今回の震災は長期化が囁かれています。原発が影響しているからです。私の実家はいわき市の福島原発から40~45キロメートルの地域で保育園をしています。原発に勤めている父兄もいるとかで、彼らの気持ちは複雑です。被災者であり、加害者でもあるからです。子供たちの一部がいわき市から離れる一方、原発の20キロ圏から新しい子供たちも通園するようになりました。

私は専門が統合医療という分野ですから、直接的な病気の治療というよりは、被災者の「心のケア」がどこまで必要かという観点から被災地を見てきました。

Q2 統合医療という言葉そのものにあまりなじみがないのですが、どのような学問分野ですか。

小野 疾病を治療し症状を緩和する方法には、「対処療法」と「原因療法」があります。近代西洋医学は「対処療法」で「科学的根拠に基づく医療」を最善のものとしてきました。日本は明治の近代化で国策として近代西洋医学を取り入れ、それまで蓄積してきた伝統医学を科学的根拠のあいまいなものとして軽んじるようになりました。

和漢薬、鍼灸、按摩などが日本の伝統医学の代表的なものですが、最近では「相補・代替医療」として欧米でも注目されるようになっています。近代西洋医学に伝統医学や相補・代替医療の役割を統合したものを私たちは「統合医療」と呼んでいます。

イラクやアフガニスタンに進駐した米兵やその家族が心的外傷後ストレス障害(PTSD)などになるケースが増え、米国でも統合医療による治療法に注目が高まっています。たとえば、古くから日本に伝わっている温泉療法は、「癒し」という言葉にも象徴されるように精神的な疲労回復にも効果があるとされています。

わが国では明治維新後の近代西洋医学への転換と、第2次世界大戦後の米軍によるGHQ進駐の2回にわたって、伝統医学は危機を迎えました。たとえば、人間の体に針を刺す鍼灸師の行為は米兵からすれば野蛮な禁止すべき行為だったのです。

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