識者に聞く

ただ“被災者の心に寄り添う”ために。

日本災害救援ボランティアネットワーク 渥美公秀 教授に聞く

東日本大震災から4カ月を迎えて

Q.未曽有の広域災害と言われる東日本大震災ですが、支援されていて感じることは?

渥美:今まで経験していなくて、自分が出来ていないなあと思うのは、全てを失くした方々と接するのが初めてだということです。阪神・淡路大震災でも家が潰れた方もいますが、津波で何もかもないと言われたときに、何をしたらよいのかというのが一つ。それと、我々が漁業を知らないということです。船に乗っている人が漁師というのは分かりますけれども、漁業関連の小さなたくさんの仕事が分からない。新潟で農業がようやく分かったところだったんですが、例えば稲作は年1回の収穫で収入を得るのでローンも年1回払いで組むような話も聞いています。漁業はいくらの収入があるのか、毎日の支払いなのか、全くわかりませんでした。 

Q.被災者の心に寄り添うには、本当に失ったものが何かを知る、つまり産業の中身まで分からないといけないということですか?

渥美:例えば、被災地での仕事支援という時に、こういう就業施設や保険があれば良いだろうというのも一つの支援のやりかたです。でも、仕事は金儲けだけじゃないですよね、人の生きがい、誇りでもあります。今回は漁業に係る方の心情が分からないというより、その前段階、そもそも、どうやって稼いでいるのか、漁業の方の生業(なりわい)が分からなかった。

その頃、「船の修理工場をつくる」という支援策案を聞いて、なるほどと思いました。それを考えた人は船を修理すれば漁師の方が(精神的にも)何とかなることが分かっていたんでしょうね。だからと言って我々は船の修理工場を作る団体ではないですけれども、漁業に携わる皆さんの心のポイントが分からないというモドカシサを最初に感じ始めたのが、緊急支援が落ち着いた4月半ばぐらいでした。

皆さんのところに就業支援を意識しながら伺っても、とにかく「今は寝られない」というお話になる、さらに伺っていくと「仕事がない」と。我々だけでは解決できない問題がたくさんあるので、「チーム北リアス」のメンバーで雇用支援をテーマにする「チームともだち」の皆さんであるとか、いろんな方々とご一緒させていただきながら被災地での活動をしていきたいと思っています。

Q.性急に答えを見出せるものではありませんが、震災後4カ月が経ち、今から必要と思われることは何でしょうか?

渥美:2つ考えています。一つは、野田村では6月末日で避難場所から全ての方が仮設住宅に入られますので、これまで被災者の方とやってきたこと(避難所でのコミュニケーション)を、(個別の住宅に住むようになるので)もう一度、やり直していかないといけないですよね。 

もう一つは、我々が復興に対して本当にどういう対応をしていくのか。普通に(大学教授という)自分の肩書を考えると、役所で村長に面談して審議会に報告・提案するというのが、学者っぽいですよね。でも、自分はそういうスタイルではやってこなかったので、これからもう一度、皆さんと“出会い直そう”と思っています。

何度もお会いしている村長さんにも、初めてと同じようにお会いして「3ヵ月こういうことをやってきました」とご報告申し上げたり、ずっとお付き合いしてきた社会福祉協議会の方々とも「さあ、我々はこれからどうする?」という話を改めてさせていただく。支援団体の中には、行政に対してデモ行進して抗議したい団体もあるかもしれないし、行政と協力して被災者を支援していきたいという団体もあるかもしれません。チーム北リアスは拘束し合わない原則ですが、右から左までどのような幅でやっていくのか。

Q.ボランテイアの方にとって、厳しい状況も出てきます。

渥美:“被災者を見守る”なんて調子良いことを言っても、本当に突然に自殺される方が現れることもあります。そこまで深くかかわっていてどういうことやねんと言われた時に、どう答えられるかということですね。(そういった事が起きると)若いボランテイアの子は泣いて—この子たちのせいじゃないのは当たり前の話なんだけれども—「自分が昨日もう一回会っておけばよかった」と彼らは言うわけです。そういう事がないようにしたいけれども、確率的にゼロではない、見守る側も追い詰められる局面がある事も想定しなければなりません。 

(これまでの経験から)2年で仮設住宅の期限が過ぎても、出られない方も必ず出てきます。復興計画を立案する先生方はおられても、具体的にどうするかというと答えが出ないことも多いです。我々も、役所の皆さんとも、一緒にボランテイア活動をしてきた社会福祉協議会の皆さんとも“出会い直して”、さあ改めてこれからどうする、という時期だと思います。 

Q.何かをしたいけれども被災地にいけない、心苦しく思っている方も多いと思います。

渥美:何よりも、被災された方を忘れないでいただきたい。それだけでも、大きな支援になると思います。

さらに、寄付という形で頂戴できるのであれば、それは金額の大小ではなくて、確実に我々の団体は、被災された方々に向けて使わせていただきます。被災地に行って一生懸命作業することも、もちろん大切ですが、それだけがボランテイア支援ではなく、ボランテイアの人間を応援していただくことで、被災地支援の活動も進んでいきます。 

また、我々の主力メンバーは学生ボランテイアです。寄付をいただいた方に直接お礼するということはなかなか難しいのですが、皆さんが募金を通じて、被災地で支援する若い人間を支援いただくことは、じわじわと社会を変えていくことにつながっていきます。

被災地に来させていただくことで、学生たちの能力、将来の人生の時間も大きく変わります。学生たちが得たものはきっと未来の社会にも役に立つと思います。社会に出てビジネスに関わる際も、ただそれだけではない、常にもう一つの世界を思い浮かべることが出来る人間に育てていく、そういった責任が我々自身にもあると思っていますし、(そうした若者たちを育てることで)ほんの少しでも、この国を変えることに貢献していきたいと思っています。

(上記のお話は、取材した2011年7月1日現在の状況です) 

「日本災害救援ボランテイアネットワーク」はコチラ↓
http://www.nvnad.or.jp/

「チーム北リアス」はコチラ↓
http://northrias.grupo.jp/

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