ただいま、節電奮闘中!

節電・省エネルギー対策に取り組む 東京都環境局長 大野輝之さんに聞く

この夏の経験を、今後につなぐ

大震災とそのあとの停電、電力の供給不足で何が明らかになったでしょうか。1つは東京をはじめ首都圏の電力が遠隔地の大規模電源に依存していることによる脆弱性です。首都圏はこれまでも4年おきに大きな電力不足に見舞われてきました。4年前には新潟県中越沖地震により柏崎刈羽原発が停止となり、夏のピークに差し掛かる時期に節電が必要になりました。8年前には原発格納容器漏えいの事故を東電が隠していたことが明らかになり、全原発炉が停止となりました。

2つめは、電力需給に関する情報の不透明さです。「需要がどれくらいで、供給はどれくらいか」なかなか本当のところが分かりません。火力発電所まではオープンになっていますが、揚水発電の供給力が読めません。夜の電力を利用して水をダムにくみ上げて昼に発電するというものですが、東電の場合、1,000万kWくらいあるといわれていますが、最近の発表を見ると700万kWです。残りの300万kWがどうなっているのかよく分かりません(その後、東電副社長は上部ダムに水を上げるポンプの能力の限界によるものと発表)。

企業などの自家発電の供給能力の問題もあります。すでに使っているものもあるが、ずっと動かしていないものもあって、どこまで頼りにしてよいのか分かりません。

気候変動の対策からいうと、低炭素性の危うさという問題もあります。原子力発電に依存していて、それが止まるといっぺんにCO2の排出係数が高くなります。東電の場合、LNGを燃やす効率のよい火力発電所もありますが、石炭や石油の火力発電所も4割を占めています。使用電力量1万kWあたりのCO2排出量で比較すると石炭火力はLNG火力の2倍ほどです。原子力発電所がストップすると一気にCO2排出量が増えるという状況です。

我慢の省エネからスマートな省エネに

今後目指すべき方向性ですが、1つは我慢の省エネをなくし、スマートな省エネにしようということです。アメリカのある報道を見ていたら、東京の夏の省エネ対策として「暗闇オフィス」が出てきました。東京のオフィスが全部真っ暗だと誤解されそうです。なかには室温を30℃に設定しているオフィスもありますが、作業効率に支障が出ると思います。空調機の省エネチューニングをしっかりやれれば、空調の効率は高まります。

28℃を維持しつつ、作業効率も落とさないということが重要です。私たちも今年の夏を乗り切った段階で、ベストな対策を収集し、来年に向けてその普及により合理的な節電を目指したいと考えています。

2つめは電力制限制度の合理化です。来年の夏が同じようなことになるかどうかは分かりませんが、仮に同じことになるとしたら、いくつか手直しが必要です。今年は前年度基準で一律15%削減でした。先行して省エネの取り組みを続けてきた事業所には厳しいものです。

自分ところの話で恐縮ですが、新宿の東京都庁は2年前に9%減らしています。しかも、東京都全体でも率先行動として25%という目標がありました。つまり2年前に比べると現在は33%減らしているわけです。

先行している事業所に対しては過去の3ヵ年の中からその事業所にとっていちばん有利な条件を選択できるようにしました。いまは使用制限だけですが、使用制限したところにメリットが出てくるような価格メカニズムも必要ではないかと思います。

3つめは省エネ技術や製品をもっと活用しようということです。一般企業では投資が3年以内に回収できないとなかなか新たな設備投資は難しいようですが、今年の夏はその一線を乗り越えるような動きが出ています。セブンイレブンやローソンは全面的にLED照明を組み込んだ投資をされています。

大きな電気料金は、1年間の中で30分の最大電力で基本料金が決まるというものです。それをコントロールするには、正しい電力をウォッチするデマンド監視システムの普及が必要です。このほか都内ではグリーンビルディングの取り組みがされています。大規模なビルではタスク&アンビエント(環境に配慮して全般照明と局所照明を併用する方式)とか、空調を輻射式に変えることでCO2を半減するビルというのもあります。ここに来て中小規模のビルでもCO2を半減させ、エネルギー使用量も減らすビルが登場しています。

もう1つは低炭素で分散型のエネルギー供給システムへの移行です。高効率なコジェネレーションを普及させていくという課題です。森ビルの六本木ヒルズが東電からの供給がストップしても自前の発電施設で十分に機能しました。大規模な開発にはそうした仕組みが必要ですし、ライフライン機能には独立した電源の確保が今後の課題になります。

家庭には太陽光や太陽熱などの創エネ機器の普及を進めます。戸建住宅は、自前で100%供給できる可能性が一番高いものです。最後は少し話がずれるかも知れませんが、発電事業にいろいろな企業や自治体が参加できるよう参入障壁を解消するとともに、電力の自由化をさらに推進しなければなりません。企業と行政、NGO、都民が連携して今年の夏を乗り切り、さらにその先の低炭素で安全・安心な電力供給、エネルギー供給が実現できるようにしなければなりません。

※本原稿は、7月22日に行われたWWFジャパン「省エネルギーシナリオ発表会」
における東京都環境局長大野輝之さんの講演を当編集部が編集しました。文責は当編集部にあります。

関連記事
●国内企業最前線「家庭でCO2削減 目標達成者に褒賞金も」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/archives/repo_d/rep04_01.html

●識者に聞く「自然エネルギーへの転換は夢物語ではない」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/05/04/analysts-earthday2011-part2/

●識者に聞く「低炭素社会は実現できる―スマートグリッドなど最新の動きから―」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/archives/analysts/rep24_01.html

●識者に聞く「産業界と個人:2つの変化が日本の環境と経済を救う鍵」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/archives/analysts/rep22_01.html

 

トップへ
TOPへ戻る