シリーズ「突破力──女性と社会」③

人生の“やり直し”を後押し更生保護活動に捧げた34年を振り返って

東京更生保護女性連盟副会長 新宿区更生保護女性会会長 保護司 坂本悠紀子さんに聞く

Q 日本が経済大国になり、更生事業の役割も変化してきたのでしょうか。更生保護事業の歴史的な役割を踏まえて振り返っていただけませんか。

坂本 もともと日本は犯罪件数が少ない国です。移民の多い米国に比べ1/20の低さです。ただ、刑務所の中は社会の鏡です。高齢化の影響が次第に大きくなっています。刑務所に収監された受刑者も高齢化していますし、普段は会話も制限されるので痴呆症になるケースも増えています。 

つまり刑期は終えても病気などで社会復帰できない受刑者が増えているのです。これには国も困っています。刑務所にいても一人年間数百万円のお金がかかります。社会全体が受け皿になることで、もっと安定した社会が実現できないかと思っています。病気になった受刑者には医療刑務所もありますが、たえず満杯です。 

社会に出てからは「愛の手帳」という生活にハンディを持つ人を入れる施設もありますが、枠が限られていてなかなか入れません。

仕事の面倒を見る就労支援も大きな課題です。刑務所にいたというだけで普通の企業はなかなか雇用してくれません。また、履歴書などに書くと経歴に書けない期間が出てくるので、書きづらいのです。社長にだけは本当のことを話し、その間は親の看病で田舎に行っていたといった理由をつくります。でも、よい就職先は簡単に決まりません。

たとえば、早朝2時間、みんなの仕事が終わってから2時間、ビルメンテナンスの清掃の仕事を見つけても生活は大変です。刑務所でも最近は介護士の資格を取る勉強などが行われていますが、それを勉強しても上級の資格試験は外に出ないと受けられません。

Q いまも坂本さんを更生保護事業に向かわせる情熱の源はなんでしょうか。

坂本 元犯罪者というだけで社会から受け入れられないというのは不幸なことです。社会が受け入れなければ、結局再犯で刑務所に行くしかありません。 私はこれまでに環境調整も含めて140件ほどを扱ってきました。あえて自慢できるとすれば、再犯率が低いといわれることでしょうか。

どんな人にも必ずどこかに光るものがあります。私が担当した人たちから暮らしの報告の電話やメールが来ると、私も一気に疲れが吹き飛びます。本当に三倍ほど元気が出る思いです。更生保護という役回りは、地味な仕事ですが、誰かがやらなければならない仕事です。社会に戻ってきた人を私たちが受け入れることで犯罪は減っていきます。さまざまな人々を受け入れられる社会になってほしいと願ってやみません。
(2011年10月)

坂本さんは連日のようにさまざまな社会活動に関わっている。 写真は新宿区更生保護女性会がハロウィンに合わせて毎年開催している「ハロウィン・キッズ・コンサート」の催し。

 

○坂本悠紀子さんの略歴
1940年京都生まれ。中・高生のときにヘレンケラー女史に会い強い影響を受け、同志社大学では社会福祉学を専攻。大学生時代は自動車レースや射撃などで活躍。1978年より保護司・更生保護婦人会会員。2001年より新宿区更生保護女性会会長。この間、東京都薬物乱用防止指導員などを務める。2010年度秋に瑞宝双光章を叙勲。趣味は園芸、旅行、音楽鑑賞、手芸と多彩。

トップへ
TOPへ戻る