シリーズ「突破力---女性と社会」

日本人が知らない「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」

~11/8(火)に日本初の国際シンポジウムを開催

苛めからも始まる「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」

 Q. ポラリスプロジェクト・ジャパンで扱った数百件のケースの半分は海外の女性、半分は日本人の女の子たちからの相談だそうですね?

藤原:「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」のtraffickingとはtraffic(交通)を語源とするものですが、今は、必ずしも(貧しい国から子どもが誘拐されて売買されるといった)人の移動が伴うものとは限りません。

日本での事例ですと、出会い系サイトで募った買春客の中年のオジサンたちとSEXさせられて、その売上げを同じ未成年の先輩たちにお金を搾取されている、それも「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」です。人を利用してお金を搾取する、そのことが問題であって、人が国と国を移動するしないは関係ありません。

さらに言えば、たとえ最初は自らの意思で援助交際をしたとしても、その行為を携帯で映像に撮影されて脅迫されて売春を強要され続けたケース、彼氏と思っていた人に性風俗産業で何年も働かされているケースも「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」です。

傍で聞くと、逃げ出せば良いのにと思っても、親にばらすと脅迫されていたり、彼氏の場合なら一緒に暮らしていて見張られているとか、「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」が生じる際には、巧妙に逃げ出したくても逃げ出す気力を奪っていく仕組みが創られています。

最近の特長として、最初に「映像を撮影されて」脅迫されるというケースはとても多いですね。

売春婦か被害者か?警察官一人ひとりへの教育も行われている海外

Q. 海外女性の場合は言葉の問題もあると思うのですが、本人からではなく、周囲の人がポラリスに助けを求めるケースが多いと伺いました。

藤原:そもそも日本では海外のように行政が正式に「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」の相談窓口を設けていません。本人がSOSを発信している周囲の友人たちや本国の家族たちがポラリスプロジェクト・ジャパンの設ける電話ホットラインを探し出す、まず本人以外の代理人から相談を受けるケースが多いです。

さらに本人たちと接しても、ただでさえブローカーが怖いのに、必ずしも警察や行政が「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」というものを理解していない日本の現状では、自分が被害者だと認めてくれないかもしれない、自分の安全が保証されないのなら、助けを求めても仕方がないと考えがちです。日本には正式に「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」被害者を保護・サポートするシステムがないと分かると、我慢して静かに本国に帰りたいとなってしまいます。

冒頭に申し上げたように日本の対応の遅れから、日本政府は「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」問題の解決に向けて2004年に行動計画を作り、2009年にも計画をリニューアルしましたが—その中では「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」の問題を学校の教科書に取り上げて周知を図るなど計画案もありますが—実質的にはほとんど行われていません。国内にいる被害者が安心して被害状況を話せる状況では全くありません。

Q. 具体的に、海外ではどのような法整備、サポートシステムがあるのですか?

藤原:米国や韓国、台湾では、公式の「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」相談窓口、電話ホットラインがあります。韓国最大の反人身取引NGOのタシハムケセンターに対してはソウル市が予算を出していますし、人身売買専門の警察官もいます。警察官や入管担当者は「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」とは何かの研修や被害者に接する際のトレーニングも十分に受けています。言葉が話せない海外の女性に対して、単なる不法就労者なのか、いわゆる“売春婦”なのか、人身取引の被害者なのか、見極めることができます。台湾でも同様に「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」の問題に政府が力を注いでいます。

ポラリス・プロジェクトの本拠地である米国では連邦政府がホットラインを設けて、毎月7,000~8,000件もの相談・通告があるそうです。実際に被害者と認定された場合は、本人ならびに本国から呼び寄せた家族にもビザが発行されます。米国で被害にあったのだからと、事件の概要が明らかになるまで米国が被害者や家族の安全を守りますという法整備がされています。ビザがあるので滞在中にもきちんと働くこともできる、住居や医療も提供されます。日本の場合は被害者と認定されても、緊急避難的にDV(ドメステイックバイオレンス/家庭内暴力)被害者のために作られたシェルターに短期的に滞在できるだけで、言葉も通じません。

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