次世代のための日本を創るために

未来に向かう君たちへ

岩手県久慈地域 スクールギャラリーツアープロジェクト

今、日本各地では日本を元気にするための様々な地道な取り組みが行われている。今回ご紹介するのは、69歳の先生と青年会議所のメンバーがタッグを組んだ地域の子どもたちの心を育てる取り組みだ。岩手県久慈市の小学校で行われたワークショップをレポートする。

自由に表現する楽しさを教えるワークショップ

「今日は、皆でお絵かきをします。右利きの人は左手で、左利きの人は右手で描いてください!」。熊谷先生の言葉に、一斉に子どもたちが「えーっ」と大きな声をあげた。

 雪が降り始めた12月初旬の朝9時、久慈市立平山小学校ホールには小学校1年生から3年生までの全生徒約50名が集まった。今日は美術の特別授業、ワークショップの講師は、久慈市出身の美術家の熊谷行子(くまがいゆきこ)先生 69歳だ。

いつもの美術の時間とは異なり、場所も教室から広々したホールへ、机の上に画材を並べることもなく、「胡坐(あぐら)をかいても腹這いになって描いても良い」というだけでも勝手が違うのに、さらに利き手でない方で描きなさいという。

「せっかくキレイに下書きを描いてきたのに、線が曲がる~」。子どもたちは事前に与えられた今日のテーマ『磁石?~何が集まるの?~』をもとに、自分が好きなものと、関連するもの(そこに磁石のように集まってくるもの)を下書きしてきたのだ。あとは大きな画用紙に綺麗に清書して色を塗るだけと思っていた子どもたちは、利き手以外を使って描くという初めての経験に悪戦苦闘だ。

平山小学校ワークショップ風景

 「いいね、この線。普段使わない手を使うと、いつもと違う線が出てくるだろう?」と熊谷先生は一人ひとりの子どもたちを回りながら、丁寧に声をかける。「これは何かな?筆箱の周りに鉛筆がたくさんあるね。でも、鉛筆は全部同じ縦の向きに並んでいるけれども、横向きがあっても斜めがあってもいいんだよ」。

ある子どもはフライパンと野菜を描いていたが、画用紙の中に収まるように描かなければいけないと思うせいか、一つひとつが小さく、紙には随分と余白もあるようだ。「このフライパンはね、本当は画用紙をはみ出すぐらい大きいんだよ。画用紙にはフライパンの一部しか見えなくても良いし、もっと野菜も大きくていいよ。」と先生。

先生からヒントを得た子どもたちは、何かしらピンと来ることがあるらしく、明らかにそれまでより伸び伸びとした線を描き始める。最初は戸惑いがちだった子どもたちも、段々と描くことに集中していく。線を書き直し、色を塗って完成。朝9時に始まったワークショップは1回の休憩時間をはさんで昼12時まで約3時間、小学校低学年~中学年の子どもたちが集中力を途絶えることもなく続いた。

一人ひとりの子どもたちの絵に丁寧にヒントを与える熊谷先生

 「絵というのは、いろんな風に描いていいんだ。人の真似っこをしないで、自分で自由に描いていいんだなと分かってもらえるだけでも、今日は良いと思っています」。熊谷先生は始まりの挨拶でそのように子どもたちに伝えた。“いつもと少し違う表現の楽しさを感じたのではないかな?”、描き終えた“自分の作品”に満足げにサインをする子どもたちから、そう感じられたワークショップだった。

平山小学校ワークショップを終えて笑顔の子どもたちと

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