東日本大震災から1年

「あれから1年」を語る欲望をもっとコンパクトに。自然と共生する。[前半]

坂本龍一(音楽家)+後藤正文(音楽家)+岩井俊二(映画監督)

ロスで津波の映像を見て頭が日本時間に

坂本 岩井さん、3月11日はどちらにいましたか。

岩井 ロサンゼルスにいました。日本のスタッフに電話していると、うわっ地震だとなりました。自分の記憶では、ロスで今くらいの時間に地震があったという記憶なのですが、記憶違いでした。津波の映像をテレビで見て、一瞬にして日本時間に戻ってしまっていたのです。それくらいショックが大きかったのでしょうね。

坂本 すぐに帰ってこられたのですか。

岩井 帰ったのは、1か月後くらいでした。実家が仙台なものですから、両親や妹ともなかなか連絡がつきませんでした。

坂本 海外にいて日本の大災害を見て、すぐに帰って来られないというのはどういう気持ちでしたか。

岩井 肉親の消息をツイッターで呼びかけたりしながら、テレビのニュース番組をずっとつけていました。そのうち、原発が爆発したらしいということで、爆発した瞬間の映像もあるのではないかと探しました。ユーチューブで映像を探し、ネットを使って原子力情報室の情報にもアクセスしたのですが、大変なことになっていると分かりました。

坂本 311を契機にそれまで表に出ていなかった日本社会が抱える問題がオープンになったという印象ですが、災害によって起こったというよりも実はそれ以前からあった問題が露呈したという印象です。それは911でもそうでした。アメリカが世界でやってきたことを世界の人たちが知ってしまったということがあります。

タブー視されてきた原発

岩井 原発はある種タブー視されていたじゃないですか。僕が大好きな漫画で『闇金ウシジマくん(真鍋昌平)』というのがあるのですが、金融屋の主人公の男が唯一泣くシーンがあるのです。負債を背負った元友人がある施設に売り飛ばされるシーンです。その施設が原発です。漫画の中では原発の施設であるということをぼかして書いています。311以前は漫画ですら原発をタブー視していたわけです。あとで作家の方に聞いたのですが、そこははっきり描かないという暗黙の了解があったようです。

坂本 後藤さんは六ヶ所村の再処理工場の問題にも関心を持っていますよね。僕も「ストップ六ヶ所村」というプロジェクトを2006年から始めています……。

後藤 鎌仲ひとみさん (映画監督) の映画を見て、それで坂本さんのサイトにたどりついて関わるようになりました。ミュージシャンの方もやっているというのに気づきました。

坂本 核燃料サイクルの問題というのは、今事故を起こしている原発の底にある問題です。福島の現場で今も熱を出している燃料棒を六ヶ所村に集めて、そこからプルトニウムをつくりだして、もう1回使おうというものです。専用の原発がもんじゅです。それがうまく動かず、燃料ばかりが貯まっています。なんとかして使おうということで今度モックス燃料というのをつくって普通の原発でも燃料として使うようにします。仮に六ヶ所村が本格的に稼働したとしても、日本にある54基の原発の使用済み燃料が次から次と生まれるので、六ヶ所村だけでは処理が追いつきません。行き場のない使用済み燃料が貯まっていくわけです。最終的には地中深く埋めようということですが、プルトニウム239の半減期は約2万4000年ですから、そんな先まで責任をもって管理できるのか心配です。

後藤 今日本全体で使用済み核燃料は1万4,000トンあります。とんでもない量です。瓦礫の埋め立てですら紛糾しているのに……。

坂本 福島第一の事故は建屋が爆発したり、燃料が溶けたり、というものですが、格納容器はそれなりに頑丈につくってありますよね。ただ、使用済み燃料というのはあの4号機の場合、ただプールの中に置いてあるだけの状態です。もう一度地震が起きたら落ちたり、壊れたりする危険性がないわけではありません。あのような大地震がなくても日本中のどこにでも起きる可能性があるということです。

後藤 震災前に原子力のこととかで発言すると、お前らミュージシャンは電気をたくさん使っているのにという声がかなり広い範囲から飛んできました。今はがらっと変わったのはうれしいのですが、また別のきっかけでその反対にならないかという怖さがあります。

坂本 東電の中にも自然エネルギーを普及させようとして研究を続けている人もいます。魔女狩りみたいに家族を含めて糾弾するような風潮も困ったものだと思います。もっとお互い冷静になってどうしたら乗り越えられるのか議論できることが大切です。

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