東日本大震災から1年

「あれから1年」を語る欲望をもっとコンパクトに。自然と共生する。[前半]

坂本龍一(音楽家)+後藤正文(音楽家)+岩井俊二(映画監督)

東日本大震災から1年。「311東日本大震災 市民のつどい Peace On Earth」にはさまざまな人たちが参加し、それぞれのメッセージを発信した。同イベントから、音楽家の坂本龍一さんと後藤正文さん、映画監督の岩井俊二さんの3名による、過ぎ去った1年への思いをご紹介する。

◆欲望をもっとコンパクトに。自然と共生する。[後半]

「311東日本大震災 市民のつどい Peace On Earth」

あのときどこに

坂本 震災の当日、後藤君はどこにいたの?

後藤 世田谷のスタジオでリハーサルをしていました。

坂本 演奏中だったのですか、それでぐらぐらっと。

後藤 ちょっとこれは大変な地震だなあと。

坂本 僕はたまたま東京のスタジオにいて、レコーディングの準備をしていたのですが…。地震は何度も経験しているのですが、ぐらぐらが1分以上続いたときに、これは尋常の地震じゃないなあと思いました。

後藤 外を見ると電線がヒューヒューと音を立てていました。そのあと、家に帰れませんでした。

坂本 津波の映像を見ても最初は現実感がないというか、ちょっとSFのような、映画のような印象を持ちました。でも実際に起こっていたわけで、どう反応したらよいのか分かりませんでした。

後藤 言葉にならないというのはこんなことだと思いました。

坂本 人間ってあまりにも大きな出来事に直面すると判断停止になります。僕は11年前の911の時もニューヨークの現場の近くにいました。あのときも愕然として判断停止の状態でした。311と911では、原因も背景も全く異なるわけですが、人知を超えた大きな出来事に接すると人間は思考停止になるとよく分かります。

‟よりそう”気持ちで

坂本 911の時は、普段にぎやかなニューヨークがすごく静かになりました。あの後、だれも音楽をかけないし、普段はストリートで音楽をやっている人もいなくなりました。車もクラクションを鳴らしません。弔う心というのは世界共通なのでしょうか。こういうとき人間は静かになるのだと思いました。
1週間ほどしてから散歩をしていると公園で若い子がビートルズのイエスタデーを弾いていたのです。911のあと初めて耳にする音楽でした。

後藤 今回は僕もかなり長い間、音楽を聴こうという気になりませんでした。

坂本 リハーサルスタジオにいたということはコンサートかツアーが予定されていたわけですね。

後藤 そのコンサートはなくなりました。予定した会場がダメージを受けたということもありますが。

坂本 あのようなとき、音楽に耳を傾けたり、音を発するというのは難しい精神状態になります。メディアなんかで‟音楽の力”とか言いますがどうですか。

後藤 やっている側としては、おこがましい感じです。

坂本 メディアに‟音楽の力”とか言われると照れくさいし、ちょっと違うとも思います。でも後藤さんは被災地に行って音楽をやったりしていますよね。

後藤 やっています。でも、‟施す”という気持ちではありません。

坂本 よく元気を与えたとか、元気をもらったとか言いますよね。

後藤 やっているときは元気を与えようと考えていません。

坂本 いい言葉がないかと考え、最近、これが近いかなあと思うのは、‟よりそう”くらいの感じですね。

後藤 聴いている方の立場では、勇気づけられたり、元気をもらったりというのはあるかもしれません。やる方も上から目線で元気をやるぞとかでもないと思います。フラットな感じです。ただ、音楽が無力だといわれるとカチンときます。きっかけにはなっていると思います。音楽があるから変わっていけたり、立ち上がれたり、行動が始まったり……音楽が社会を変えるのではなく、音楽をきっかけに社会が変わるのだと思います。

坂本 勇気づけられました。岩井さんがいらっしゃったようですからお呼びしましよう。映画監督の岩井さんです。(拍手)
岩井さん、僕は強力な晴れ男なのです。映画などに出演するときは不思議と晴れになります。本日もトークが終わると分かりませんが。(笑い)

岩井 僕も晴れ男なのです。撮影が雨で中止になったのは過去2回くらいしかありません。異常な晴れ男です。

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