識者に聞く

自転車をもっと暮らしの中に

NPO法人自転車活用推進研究会に聞く

環境にいい、健康にいい、渋滞の解消にもなる、経済効果もある
Q4 2006年7月12日に特定非営利活動法人「自転車活用推進研究会」となったと聞きましたが……。自転車活用のメリットはいろいろありそうですね。
小林 2006年7月に東京都のNPO法人の認証を受けました。私たちの設立趣意書には、自転車の活用を推進することによって期待される環境、健康、交通、経済の各分野での効果を以下のように述べています。①環境:短距離移動の手段を自転車に転換し、化石燃料の消費を減少させる ②健康:自転車の活用でメタボリック・シンドローム(複合生活習慣病)の予防を ③交通:5キロ未満の自動車利用を自転車に置き換え、交通渋滞と駐車場確保など都市問題の解決を図る ④経済:製造に要する資源やエネルギーの消費の少ない自転車を活用し、持続可能な社会づくりに寄与する、という理念を掲げています。

Q5 自転車の先進国における最新事情とはどのようなものでしょうか。
小林 ヨーロッパ、特に北欧では都市部の自転車利用者が急増しています。スウェーデンの首都ストックホルムではこの10年で自転車利用者が80%増えたと報告されています。もちろん自転車専用道路や交差点で自転車が自動車に巻き込まれる事故を防ぐ自転車ボックスの整備も進んでいます。しかし、個人的な意見かもしれませんが、わが国が北欧の真似をする時間的なゆとりはありません。北欧では自転車によるスローな移動が定着しているだけでなく、そのためにクルマがスピードを抑えるというルールもしっかり定着しているからです。5年や10年でそこまではいきません。

自転車利用が遅れていたロンドンでさえ大胆な自転車革命が進行中。サイクルスーパーハイウェイと称する自転車レーンを行く通勤者の群れ

日本がいまお手本にするとしたらイギリスの首都ロンドンでしょうか。実は、ロンドンで市長が公選で選ばれたのが2000年のことです。そこで選ばれたケン・リヴィングストンが交通革命を断行しました。自転車や公共交通重視を打ち出したのです。クルマと自転車の分離などを進めました。ところがイギリスは典型的な階級社会で、自転車は貧しい人の乗り物という印象が根強くなかなか普及しませんでした。

2005年に地下鉄で3つの同時テロがあり、公共交通網がストップしました。このテロのあと、エリートたちがスーツ姿でヘルメットをかぶって通勤する姿を多く見かけるようになりました。この光景をテームズ橋で2004年と2006年に定点観測した人たちがいます。2004年当時はマイカー、タクシー、自転車の順だったものが、2006年は自転車、タクシー、マイカーの順に逆転しています。

2010年には、バークレイズという英国の代表的な銀行がスポンサーになり、バークレイズ・サイクル・ハイヤーという自転車の貸し出しも始まり、自転車の普及が広がっています。今年はロンドンでオリンピックが開かれます。選手村と競技場が近いことから移動には自転車が使われるという話を聞いています。テレビでオリンピック競技を観戦するだけで、自転車活用社会の片鱗が見えてくるかもしれません。

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