識者に聞く

自転車をもっと暮らしの中に

NPO法人自転車活用推進研究会に聞く

ちょっとそこまで。自転車は便利で快適な乗り物である。だが、片道1時間かかる通勤を明日から自転車に代える勇気はなかなか普通の人には生まれない。クルマとの接触の危険、道の段差、信号や交差点の多さが二の足を踏ませるからだ。だが、高齢化社会を迎えたこの国ではクルマと自転車の大胆な使い分けが求められている。どうしたら自転車の活用が進むのか、NPO法人自転車活用研究会に話を聞いた。

自転車活用推進研究会の小林成基(しげき)理事長(左)と内海潤理事

高齢化社会を迎えた日本は国民の移動する権利に真剣に向き合え

Q1 「自転車活用推進研究会」の設立の経緯からお聞かせください。
小林 13年前にある新聞社の編集委員を辞めたばかりの石田久雄に出会いました。彼は惜しいことに3年前に亡くなりましたが、本当に気の合う友人で、出会った当初からなんの打ち合わせもなしにお互いの考えていることが分かるというような間柄になりました。2000年、彼と「そろそろ自転車だよね」という話が共通の認識として飛び出してきました。

当時、私がいたシンクタンクの中に研究会を設けて月1回くらいのペースで交通関係者、法律家、大学教授などの研究者、警察OB、自治体の駐輪対策責任者、駐輪機械メーカー、駐輪事業者、レンタサイクル店、ジャーナリストなど多彩な顔ぶれの方を集めて勉強会を開くようになりました。内外の自転車政策の現状を取りまとめて、この国の交通体系の中に自転車をきちんと位置づけなければならないと考えて始めたのです。

Q2 小林さんたちが問題意識を持たれた背景をもう少し説明いただけませんか。
小林 私はもともと環境やエネルギー政策を立案する仕事をしていました。2004年ごろからオイルピークということがさかんに言われ始めましたが、72年のローマクラブの「成長の限界」で既に予言されていて、21世紀初頭には化石燃料価格が高騰するだろうと思っていました。オイルピークというのは、地球上の油の産出量がピークを迎える時期で、半分を使った時点を目安にしています。ピークを過ぎると石油は枯渇する前に、価格が高くなって使えなくなります。92年の地球サミットでCO2の削減に話が及ぶようになってからは、化石燃料を燃やして走るクルマの時代は先が見えたと言われてきました。

社会に与えるインパクトとしてエネルギーの高騰の次に大きいのは、先進工業国特有の高齢化社会の到来です。わが国でも人口の都市への集中が始まっており、都市部での高齢者の移動をいかに確保するかが大きな社会問題になっています。高齢者が安全に快適に移動できる環境を整備しないと、寝たきりの高齢者ばかりが増えてしまって社会全体が停滞、ひどい場合には崩壊してしまいます。実は、ヨーロッパでは30〜40年前にそのことに気づいて、街の体質というか交通体系を人にやさしい街づくりという観点から見直し、クルマの都市への乗り入れを規制したり、公共交通網を見直したり、自転車専用道路の整備などに取り組んできました。

Q3 日本も高齢化社会の到来を予測し、高齢者にやさしい街づくりは叫んできたように思うのですが。
小林 いや日本とアメリカは本当の意味で気づいていなかったと思います。アメリカは広大な国ですから、ただちに自転車というわけにはいかない面もあります。しかし、そのアメリカも9.11の経験やイラク戦争を経てガソリン価格が高騰し、都市部ではエリートサラリーマンが率先して自転車通勤する姿が増えています。かつてアメリカではガソリン価格が1ガロン(3.8リットル)1ドルという時代がずっと続いてきましたが、現在は3.95ドルと4倍ほどに高騰しています。もう大きなクルマでガソリンをがんがん燃やして走る時代ではありません。普通の庶民にはクルマ移動は高価すぎる時代になったのです。
日本に話を戻すと、日本は小さな国土であるにも関わらず“クルマ”ばかりが優先され、歩行者や自転車が使いにくい街になっています。思想の根底に「人よりもクルマや経済の方が優先」という意識が透けて見えていて、道路交通法や道路法を読むと間尺に合わないことばかりで頭がおかしくなります。高齢社会対応という言葉はあるけれど、まだ「弱者優先」は絵に描いた餅ですね。

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