識者に聞く

再生可能エネルギーは原発に替われるか第1回 福島第一原発事故を調査して

なぜ福島の事故は大規模化したのか

今、福島では8万人が強制的に避難させられています。自分の意思で避難した8万人と合わせると、16万人が避難していることになります。この状況を知った海外の人は、日本の東半分が汚染されたとみています。

政府は福島のごく一部だけだと言ってきました。政治的に決着を付けようとしたわけです。放射能が下がりつつある地域もあり、どのあたりで安全性のラインを引くのか難しい問題となっています。ここなら安全、ここは安全じゃないという線引きは学問的にも難しいテーマです。

今回の事故がどのようにして起きたのか、簡単に報告しておきましょう。原子力発電所には圧力容器があり、この中に1万本とかの燃料棒が入っています。燃料棒の間を水が循環し、燃料棒から飛び出した粒子と水の分子がぶつかって蒸気になります。それでタービンを回して電気を起こすわけです。

圧力容器の外側には格納容器があります。万一事故が起きても格納容器内に放射能を閉じ込めようという考えです。窒素で満たされ、酸素はないようになっています。その外側が建屋です。建屋の中は空気が入っています。水素が格納容器の外側に漏れると、爆発する可能性があります。

過密配置と設備の不備

福島第一では4つの原子炉のうち3つで水素爆発が起きました。圧力容器の中の燃料棒は水がなくなってしまうと、原子炉が止まっても放射能を出し続けます。1時間に数トンの水を入れないと空焚きになり、やがて燃料棒も溶けてしまうのです。メルトダウンです。つまり原子炉が停止しても水を送り続けないといけない仕組みなのです。

福島第一では津波で電気がストップし、非常用の電源も動きませんでした。電気が来ていればポンプを回して水を送り込むことができたはずです。やむをえず近くの海から海水を引っ張り、冷やし続けたわけです。

4つの原子炉建屋が建て込んでいたことも事故を大きくしました。1つの原子炉が事故を起こすと、隣の建屋も放射能レベルが上がって近づけません。さらに水素が漏れて次々に水素爆発を起こしました。

圧力容器の中が熱くなって温度が上がってくると、水を入れないといけません。ところが消防車の放水は中の圧力に負けて入りませんでした。蒸気を抜いて圧力を下げるベントという作業が必要だったのですが、ベントもうまく作動しませんでした。

ベントは電気が来ていればボタン1つでできる作業です。電気がないので手動で開けることになりました。ところが開け方が分かりません。そのうちに放射能レベルが高くなってそれもできなくなりました。

欧州の原子力発電所では、放射能レベルが上がっても操作できるよう、遠くから手動で操作できるシャフトが付いています。ベントでは中の放射能も漏れる恐れがあり、フィルターも装着されています。

日本では一機当たり30億円掛かるフィルターの装着をケチってきました。そんなことまで必要はないと考えていたのです。

フクシマ50の功罪

福島に調査に入る前、私たちは福島第一の吉田所長と最後まで残った50人がよく頑張って事故を最小限に抑えたと評価していました。彼らが頑張らなければ今の10倍以上の放射能が漏れる恐れがあったからです。

ところが現地で調べると、事故の備えは何もできていなかったことが明らかになりました。ベントのバルブがどこにあるのかも知らないという実態でした。装置が働いているかどうかも確認していないとか、そういうことが徐々に分かってきました。そんなことの積み重ねが事故をあそこまで大きくしたのです。

東電だけに任せておいたら、一番安上がりな方法を選ぶのは当たり前です。原子力安全委員会とか、安全保安院がそれをやらせないといけないのです。ところがその人たちは東電と仲良しになりすぎていました。むしろ東電よりも保安院の方が分かっていなかったほどです。

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