識者に聞く
再生可能エネルギーは原発に替われるか第1回 福島第一原発事故を調査して
平和利用に秘められたリスク
世界の原子力発所は原子力の平和利用ということで1953年につくられ、順調に稼働してきました。しかし、1979年のスリーマイル、1986年のチェルノブイリの2つの事故を経て、先進国における新規の建設はほとんどストップしてしまいました。
その後、原子力発電所をつくった日本と途上国を含め、世界の原子炉の平均年齢は現在28歳です。原子炉の寿命は30年から40年と言われていますが、検査をして10年延ばし20年延ばしすると原発はどんどん高齢化します。
2つの事故のあと、欧州は脱原発に移ろうとしました。ところがその決意は挫折し、原発の稼働延期を繰り返しています。ドイツもメルケル首相が3.11の前に原発の延長を決めたばかりでした。その直後に福島の事故が起きたわけです。
科学者である私の経験則では、今後、日本より国土の狭い国は脱原発を決意するでしょう。ドイツ、イタリア、韓国、オーストリア、スイス、ベルギー、台湾などです。ただ、韓国と台湾は簡単には決められないかもしれません。
米国、中国、ロシア、インド、ウクライナ、フランス、スペイン、トルコなど日本より国土の大きい国では福島のような事故が起きても住民を移せば良いと考えるかもしれません。おそらく原発はやめないでしょう。
日本はちょうど境界線上にいる国ですが、日本と台湾は地震が起きやすい環太平洋のプレート上にあります。原発立地と地震の予測地域が一致するのが日本と台湾なのです。日本では活断層のないところを探すのは大変なことです。
もう1つ。スリーマイルもチェルノブイリも福島も、すべて人の問題が絡んでいます。人は常に間違いを犯します。人が犯す過ちには人為的なテロの可能性もあります。
※この記事は、2012年11月16日に「豊かな成熟した日本を考える会」が主催する懇話会での講演をまとめたものです。あくまでも北澤先生の発言の要旨であり、文責は当編集部にあります。
〇北澤宏一さんのプロフィール 独立行政法人科学技術振興機構顧問。1966年東京大学理学部化学科卒業、1972年マサチューセッツ工科大学材料科学専攻博士終了、1987年東京大学工学系研究科工業化学専攻教授、新領域創成科学研究科物質系専攻教授などを経て、2007年から独立行政法人科学技術振興機構理事長、2011年独立行政法人科学技術振興機構顧問。 |
〇福島原発事故独立検証委員会について http://rebuildjpn.org/fukushima/about/kitazawa |
〇北澤さんの著書のおすすめ 『日本は再生可能エネルギー大国になれるか』 福島第一原発事故の独立民間事故調査委員会委員長の経験を踏まえ、脱原発を行うための経済的な検証などを行ったもの。北澤さんが自費でまとめたものです。 |
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