識者に聞く

再生可能エネルギーは原発に替われるか第1回 福島第一原発事故を調査して

福島の事故を経て、だれもが原発の危険に気づき始めた。だが、原発に替わるエネルギーとなると、不安と迷いがよぎるのも事実。化石エネルギーへの依存をやめ、再生可能エネルギーへのシフトを果たすにはなにが必要なのか。科学者として福島原発事故の調査にかかわった民間事故調委員長の北澤宏一さんのお話を2回に分けて紹介する。

[第2回]「エネルギー国家百年の計を語る」はコチラ

福島第一原発事故独立検証委員会(民間事故調)委員長
日本学術会議東日本大震災復興対策委員会
エネルギー政策の選択肢分科会委員長
北澤 宏一氏

議論の前にしっかり本質をつかめ

3.11が起きて国民の間からはすぐに原子力発電をやめたいという声が出ました。一方、経済団体の代表などからは「原子力発電を止めたら日本は生きていけない」という声も出ています。「原発は続けないといけないか」と自問しているのが今の状況です。

この議論を深める前提として、原子力発電所がどの程度危険なのか、代替エネルギーに切り替えていくには、何が大変なのか、知っておく必要があります。それが真の成熟した市民のあり方です。

原子力3つの本質的課題

1. 安全炉は実用化していない

原子力の魅力は、石油や石炭に比べ100万倍ものエネルギーをもっていることです。今でもこの凄さ、素晴らしさは変わりません。排気ガスが出ないというメリットもあります。原子力発電所は小さな規模でも100万 kWを出すわけで、非常に魅力的なエネルギーです。手早く豊かになりたい人が原子力に目を付けるのは当然のことかもしれません。

100万倍ものエネルギーはどうして生まれるのでしょうか。核分裂から出てくるエネルギーなのです。ある種の電磁波や粒子がもの凄いスピードで飛び出してこないとあのようなエネルギーは生まれません。私たちはそれを放射能と呼んでいます。放射能だけ要らないとは言えないのです。

軽水炉という原子炉は暴走するようにできています。福島の事故で多くの国民はそれを知ることとなりました。ゴジラのように暴れることがあると分かったのです。

機械など工学の専門家なら分かりますが、制御不能になった機械を安全に止める技術をfail safeと呼びます。ところが、原子力発電ではfail safeは生かされていません。国民がこのことを理解して原子力発電所を容認していたかと言えばそうではありません。

軽水炉は、人間がお手上げすると大変なことになってしまいます。福島では東電が撤退するとかしないとかが大問題になりました。私たち民間事故調では「東電は撤退すると言った」とレポートに書きました。国会の事故調は「全員が撤退すると言ったわけではない」と書きました。東電が撤退したら日本は危ういということで、官邸は東電をそこに留めようとしました。

fail safeで止まる原子炉はあるのでしょうか。実は設計上は可能です。でも、効率が悪いのです。経済性を優先し、あえて安全性を犠牲にしているのが現在の原子力発電所の仕組みです。

2.使用済み燃料の引き受け手がいない

原子力発電所の運転ではウラン235を燃やすのですが、燃えると燃料棒を取り換えなければなりません。放射能という形でエネルギーを出しているので、そのとき放射能をもった粒子がほかの粒子にぶつかり、他の粒子も放射化してしまいます。原子核の変換が原子炉の中で起きるわけです。燃料棒の中に放射能がたくさんできるのです。

使い古された燃料棒の方が新しい燃料棒よりも放射能を多く含んでいます。放射能という観点からみれば使用済み燃料の方がはるかに危ないのです。福島第一の4号炉は震災当日休止の状態でしたが、使用済み燃料が建屋内に蓄えられていました。

米軍関係者をはじめ外国人の方が日本からの脱出を決めたのは、使用済み燃料にありました。使用済み燃料の中に半減期の長いものがあって、中には10万年も放射能を出し続けるものがあります。どこで安全に保管するのか、後世の子供たちに頼まないといけないということで、ドイツは脱原発を決めたといういきさつがあります。

3.資源枯渇がやってくる

石油や石炭と同じくウランも有限です。今のままだと数十年で枯渇すると言われています。

そこで使い終わった燃料棒を化学的に分離してプルトニウムを取り出し、それを分離しながらウラン235を燃やすことで新しいプルトニウムをつくろうとしました。福井県の敦賀で実験されている高速炉です。うまく動けば数十倍の新しい資源が生まれるのです。

そうなると原子力は夢のプロセスとなります。ところが敦賀もなかなかうまく動きません。アメリカやフランスがすでにギブアップし、中国やインドがこの技術にチャレンジしています。

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