企業とNGO/NPO

~地域と連携した実践的BCP(事業継続計画)~いつか来る災害に備えて、避難所のあり方を探る

日本財団 次の災害に備える企画実行委員会

首都直下型、南海トラフ…災害がいつ起きても不思議ではない日本列島。東日本大震災では、震災関連死と認定された約1,600人(東日本大震災における震災関連死 2012年8月21日復興庁発表)のうち避難所生活が原因とされた死者は3割にも上った。日本財団「次の災害に備える企画実行委員会(通称つぎプロ)」は、被災者支援拠点の運営のあり方を探るため、このほど1泊2日で本番さながらの運営訓練を行った。同行した記者からの報告だ。

〔ワークショップ1日目:想定 震災発生~当日〕

○月○日、マグニチュード7級の首都直下型地震が発生。

日本財団ビルには外部から50人近い来訪者があり、
その多くが帰宅困難者となった。

交通機関はすべてストップ。外のコンビニなどにはすでに商品なし。各所で停電や火災が発生。日本財団ビルはかろうじて電気は使えるものの、ガス、水道は使えない。ビル内は一部損壊があり、危険な場所への立ち入りが制限され、使えるスペースは限られている。非常持ち出し袋、ビニールシート、毛布がそれぞれ20人分ある。非常持ち出し袋の中身は、「缶入りカンパン」「軍手」「水」「救急セット」「ロープ」「非常用ろうそく」「給水バッグ」「タオル」「防寒・保温シート」「ポンチョ」「LEDライト」など

シナリオA:備えが不十分な避難所

地震発生後、日本財団ビルは帰宅困難者であふれた。中には管理者に詰め寄る帰宅困難者も

この日の参加者には、1人ひとりに性別、年齢、健康状態、ニーズなどの役割が振り分けられていた。参加者がその人物になりきって、日本財団職員らに次々と要望を出し、その役回りに自らの行動も制約される。

日本財団職員が1階避難スペースに誘導するものの、心臓が悪く倒れる者1名、トイレの使用を訴える者5名、状況説明を求める外国人2名、視聴覚障害者1名らを含む帰宅困難者は40名近くにのぼる。

「ケガの傷口を清潔な水で洗いたい」「寒いのでトイレに行きたい」など会場は統制のない集団からの要求が次々と続き、混乱を極める。1つひとつのリクエストに丁寧に応えようとするが、一人では対応しきれず、他の職員にも新しい要求が突きつけられることに。

帰宅困難者の中には寒気を訴える人も続出

少し、落ち着いたところで、ビル側から管理責任者が報告され、参加者から医療班、食事係などの役割分担が行われた。だが、まだまだ一人ひとりが勝手に発言するような状況が続き、混乱を極める。その中で看護師資格を持った医療班の女性は健康状態が悪化する避難者への対応に追われる。

責任者から避難所の状況報告。「2階の女性トイレは使えるが、水は使用できない」との報告が。2階のトイレに車椅子の男性が行きたいと語り、数人が介護に付く。エレベーターが使えず、階段で運ぶのに悪戦苦闘する。

クルマ椅子の帰宅困難者をトイレへ。段差を超えるのにも一苦労

〔シナリオAに設定された2つのゴール〕
①避難者名簿をつくる 
②自分たちで物資を配布し、夕食をとる

時間が経過しても帰宅困難者の個別の対応で混乱が続く。「水がほしい」「お腹が空いた」などの声も出る。ソファーベンチをベッド替わりにしようと数個運び入れられる。

参加者から避難者の把握の提案があり、いくつかのグループ分けが始まり、グループ単位で避難者名簿をつくることが決められる。だが、よく見ていると、各グループで名簿の記述も内容もばらばらなようだ。もちろん、名簿の用紙なども事前に準備されていない。筆記道具もあるもので間に合わせる。

名簿ができた頃、外部から訪問者。「震災支援団体から来ました。名簿を見せてください。それぞれの方になにが必要か聞いて回り、外に伝えます」と語る。だが、外部の訪問者の突然の来訪に、期待とともに疑心暗鬼も広がる。

その後、非常用の物資の把握が始まり、毛布や医療品など物資配布も行われる。一部で携帯電話などが通じ、家族や職場と連絡が取れて安心する人も。一方で、悪寒が激しく、容態が急変する避難者も続出。看護師資格者や一部の健康な方がその対応に追われる。

手分けして非常用物資の把握が始まった

ホイッスルが鳴り、シナリオAが終了。準備された備品の紹介とともに、暖かい食事が準備されていることも告げられた。だれもがホッと一息をつく瞬間となった。

シナリオB:準備が行き届いた避難所

あらかじめ多様な避難者に配慮のある設備や備品が用意されており、リーダーの指示のもと、シナリオAと比べてすみやかに避難所内の生活スペースが整備される。

〔シナリオBに設定された2つのゴール〕
①一人ひとりのニーズを把握するため避難者名簿を作成し直す
②ニーズ別に仕分けられた物資の配布や、QOLに配慮された備品を搬入して避難スペースを目的別に区分し、就寝の準備を行う

(写真左)帰宅困難者に提供された夕食、(写真右)組み立てられた段ボールの簡易ベッドで寝心地を試す

グループ分けがされ、グループごとの責任者が決められて名簿の作成が行われる。項目は、①名前、②性別、③年齢、④健康状態、⑤帰宅のメドなどに分けられる。リーダーが決められ、作業も比較的順調だ。シナリオAの経験もここでは活かされているようだ。シナリオAで混乱を経験済みのためか、やや緊張感に欠ける場面も。

寝袋や女性、乳児、高齢者に配慮された避難者用グッズなどの物資が配布され、就寝場所づくりが始まる。

○初日の振り返り
村野淳子さん(大分県社会福祉協議会)

防災のプロである村野さん

シナリオAでは混乱が目立ちました。避難所の責任者が右往左往するのではなく、班長さんを決めて役割分担を行い、班長さんに情報を吸い上げさせて全体像を把握できればもう少しきちんとした対応ができたはずです。それからスペースの配置も早めに手配し、重篤な被災者から順番に手当をしていれば、混乱も最小限に抑えられた可能性があります。備品管理も速やかに行い、被災者に発信できればよかったと思います。

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