企業とNGO/NPO

東北復興リーダーを企業と連携して支える企業リソースを自立的復興に活かせ(2)

みちのく復興事業パートナーズとETICの取り組み 〔後半〕

東北の未来を担うこどもたちを応援したい

株式会社ベネッセホールディングス 広報IR部CSR推進課 課長 龍 千恵

ベネッセグループは教育・子育てと介護を2本柱として事業を行っています。通信教育のこどもチャレンジや進研ゼミでお馴染みかと思いますが、これら事業の特性や強みを活かして、被災地で「こどもの未来応援プロジェクト」を展開しています。

主な活動ですが、まず商品・サービスを活用した支援ということで、NPO法人と連携して進研ゼミを無償でお届けしたり、社員が勉強を教えるボランティアを行っています。また、「しまじろうの応援イベント」を2年間60カ所以上で実施しています。こどもたちが元気になれば、大人も元気になるという思いでスタートしたもので、のべ13,000人以上の方にお会いできました。「努力賞募金」という枠組みもあります。進研ゼミ会員が赤ペン先生の問題提出で貯めたポイントを寄付するというものです。編集部に届いた「今の自分にできる支援はないだろうか」という高校生会員の声がきっかけで始まりました。

さらに仕組み的な支援ということで、「ベネッセ通信教育奨学制度」や「ベネッセ募金」があります。奨学制度は、震災や事故で両親をなくされた高校三年生までの子供たちに進研ゼミを無償でお届けするもの、ベネッセ募金は一般の方や社員が、被災地で主にこどもや女性対象の活動をされている団体を支援しています。

これまでの活動で大切だと思うことは社外の方々との連携です。教材の支援をするといっても、被災地のことを実際に分かっているNPOや団体と連携しないとできませんし、お客さまとの連携による取り組みはベネッセらしい支援の1つの形と思っています。

もう1つ、事業を通じた支援を紹介します。ベネッセは妊娠・出産・子育て領域で通信販売の事業をやっていますが、その中に“スマイルバスケット”という仕組みがあります。被災地と発展途上国のパートナーさんと商品の開発・販売をすることで、関わる方々の就業や産業の振興につながることを目指し、さらに収益の一部をベネッセ募金に寄付して、こどもたちの学習等に役立てるというものです。パートナーさんの商品に当社のマーケティングやデザイン等のノウハウをプラスすることでより魅力的な商品開発につながると考えています。

昨年の12月から今年の1月にかけ、ETIC.さんの協力を得て教育のニーズに対するリサーチを行いました。被災地の生の声として、いまの支援も大切だが、将来東北の地に残って地域づくりを担う次世代のリーダー人材の育成が重要だとありました。被災地の課題は日本全体の地域の課題です。企業としてはグローバル人材育成など外に出ていく人材の支援に傾きがちですが、地域に残る人材の支援も重要だと考えています。

被災地には“イノベーションとモチベーション”の手がかりが

日本経済新聞社 編集委員兼論説委員 石鍋 仁美

ご参加の皆さんの中には、企業の経営が厳しくなる中で、なぜCSRなのかと思われる方もいるかもしれません。ヒントになるキーワードを2つ申しますと、“イノベーションとモチベーション”だと思います。どちらも日本企業が手がかりのほしい課題です。

                     

前半のお話の中に、“批判ではなく、一緒に動く”“試行錯誤する”という言葉がありました。企業や自治体は完成されたサービスやモノをつくり、それを発表し、その後で顧客や住民からさまざまな意見が出てくるというのがこれまでの一般的な流れです。しかし被災地ではそんな余裕はありません。追い込まれた中で、新しい連携やサービスを生まなければいけないのです。

これからは、通常の企業や自治体のサービスやモノづくりでも、開発のプロセスで外部の多様な声を取り入れていくことが求められます。閉じたマーケティングリサーチの中で、こっそりとモノづくりをするという時代ではなくなっていくのです。

被災地では、NPO、高齢者、住民など、いままでビジネスでつきあったことのない人と触れ合う機会があります。ほかの企業とも実効性のある連携を迅速に組まなければいけません。被災地が、イノベーションの手法を開発したり、習得したりする場になっているのです。新しい経営のノウハウ、新商品のヒントをつかむやり方を、被災地に出かけ、さまざまな利害関係者とともに活動やビジネスをする中で、企業が学べる可能性は高いと感じます。

もう1つのモチベーションについてですが、日本生産性本部で新入社員の意識調査をすると、入社のときは勤続意識も意欲も高いのですが、半年ほどで大幅に減少します。これは企業の側にも問題があると思います。

いまの若い方は、ボランティアの経験を持つなど社会意識が高いのが特徴です。就職意識調査でも、他人のためになる仕事をしたい、社会に貢献したいという項目が年々伸びています。目の前の仕事がどのように社会の役に立つのか知りたい。しかし上司は、とにかく頑張れと言うばかり。そういう職場は多いのではないでしょうか。

損保ジャパンさんの活動を取材させていただいたことがあります。被災地に出かけ看護師さんらと協働する中で、看護師さんから「企業というのはこんなに凄いのか」と感謝されたと聞きました。普段、会社で使っているパソコンなどの技術が被災地で役に立ち、頼りにされたわけです。参加した社員は自分の仕事の意味を再確認することになります。

さらに、被災地での体験が、新しい保険商品の生まれるきっかけになるかもしれません。被災地の復興に企業が関わる意味は大きいと感じます。

※このレポートは、3月13日に東京・電通ホールで開催された企業5社とETIC.による「みちのく復興事業シンポジウム」の模様を要約の上、再構成いたしました。編集責任は当編集部にあります。

みちのく復興事業パートナーズ
http://www.michinokupartners.jp/
東日本大震災の復興支援に向け、被災地で復興に取り組む次世代リーダーを支援する企業のプラットフォーム。2013年3月末日現在で、味の素株式会社、花王株式会社、株式会社損害保険ジャパン、株式会社電通、株式会社ベネッセホールディングスの5社が参加しています。被災地では、今後、長期視野による多様な支援が必要となってきます。本プラットフォームは、「右腕派遣プログラム」をベースに、各被災地で復興に取り組む次世代リーダーおよび団体を、企業が自社のリソースを活かし支援していくための機会を検討し、実行につなげていく場となっています。設立には、NPO 法人ETICが関わっています。
NPO法人ETIC.
http://www.etic.or.jp/etic/index.html
社会のさまざまなフィールドで新しい価値を創造する起業家型リーダーを育成し、社会のイノベーションに貢献する目的で設立されたNPO法人。東日本大震災では、被災地の自立的復興に向けた人づくり、コトづくりに取り組む一方、震災復興リーダー支援プロジェクトを立ち上げ、現地の復興を担うリーダーの右腕となる意欲ある人材を派遣する「右腕派遣プログラム」や、東北での起業を応援する「みちのく起業」などをとおして東北の自立的な復興を支援している。

※お問い合わせは、「みちのく復興事業パートナーズ事務局(担当:山内亮太、海津)」まで

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