企業とNGO/NPO

子育てと仕事いま必要なのはイクメンを支えるイクボス⁈

仕事に割く時間は1位、家事への参加率は最下位。日本男性の生活時間配分の各国との比較である。男女共働きが進む中で、子育てや家事への負担はいまなお女性に集中する。その結果、増え続けるのは子供たちへの虐待や育児放棄。孤立する親たちの悲鳴が聞こえてくる。「子育てと仕事」をテーマとしたNPO法人3keys主催のセミナーを取材した。

左から、特定非営利活動法人3keys代表理事 森山誉恵さん、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表 安藤哲也さん、VOYAGE GROUP 代表取締役CEO宇佐美進典さん

森山:イクメンに対する社会の理解は徐々に広がりつつあります。でも、まだまだ広がるスピードは足りないのではないでしょうか。きょうは子育てに詳しい二人のゲストを招いています。まず、それぞれの自己紹介から……。

イクボスたちよ、あなたの出番だ

安藤: NPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也です。NPO法人タイガーマスク基金もやっています。森山さんの3keysには児童養護施設の子供たちの学習支援で協力いただきました。施設の子供たちが進学したいといった場合、資金のサポートも行っています。この3年間で6人の子供たちが大学に行きました。

NPO法人ファザーリング・ジャパン代表 安藤哲也さん

一般家庭の子供たちは56%が大学に行きます。施設の子供たちはまだ12%にすぎません。子供たちは望んで施設に入っているわけではありません。少子化が進む中、そうした子供たちもきちんと育つ環境を与えられないといけません。

施設の子供たちは偏見の目で見られがちです。社会が“寛容と育成”の目を持てるかどうかが問われています。NPO法人タイガーマスク基金の役割は私の捉え方では川下の問題です。川の上流では、子供たちへの虐待やネグレクト(育児放棄)があります。さまざまな事情を抱えた家庭を“包摂の精神”でなんとか支えていけないか。もっと川上ではワークライフバランス、親の働き方、企業社会のあり方、が問われています。

ファザーリング・ジャパンとタイガーマスク基金の根っこは同じです。ファザーリング・ジャパンは、これから父親になる男性に「父親学級」をやっています。女性が妊娠すると母子手帳が配られ、「母親学級」が受けられます。でも「父親学級」というのはありません。

私は文京区に住んで3人の子育てをしていますが、17年前にようやく「両親学級」ができました。男性に教えてくれるのは、「赤ちゃんのお風呂の入れ方」だけです(笑い)。

週末だけお風呂に入れて、「おれはイクメンだ」と威張っている偽イクメンを大量生産しているわけです。これが父親教育の実態です。日本の男性はいまも役割分業意識に縛られています。男は働いて、稼いで、家にお金を入れて、子供を大学に入れて、家のローンを完済する、という使命感でがんじがらめになっています。

共働きが標準化する中、子育てはますますいびつなものになっています。母親に大きな負担が加わり、追い詰められた母親たちが虐待や育児放棄に走るケースが各地で生まれています。児童養護施設に流れ着く子供たちの数は増えるばかりです。その子たちを育てるのも税金です。ゼロ歳で施設に入り18歳まで養育すると2億円掛かるって知っていましたか。そのツケはみんなが払わされるのです。

日本の男性の働き方をただちに北欧レベルにしろといっても無理でしょう。父親になる予定の男性を部下に持つ、職場のボスたち(イクボス予備軍⁈)が少しは考え直してほしいのです。課題は長時間労働であり、慢性的な残業体質の改善です。

実は私も22年間サラリーマンをしてきました。企業社会の働き方を全く知らずにNPOを始めたわけではありません。私自身も残業残業で子育てが回らなくなり、夫婦ゲンカが絶えない日々を乗り越えて、いまの活動に至っています。

〔安藤哲也さん〕
NPO法人ファザーリング・ジャパン創設者。大学卒業後、出版企業やIT系企業で働く。2006年11月、会社員のかたわら父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げる。児童養護の拡充と虐待の根絶をめざすNPO法人タイガーマスク基金の代表も兼務。著書に『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由-親を乗り越え、子供と成長する子育て』(ファミリー新書) などがある。

イクメンから企業経営者へ

宇佐美: VOYAGE GROUP 代表の宇佐美進典です。森山さんは学生時代に私たちの会社にインターンで来ておりました。そういう関係もあり、きょうの参加をOKしたのですが、かなりアウェーな雰囲気に戸惑っています(笑い)。

VOYAGE GROUPは今年で創業15年。従業員数は日本国内で280人、海外を含めると320〜330人くらいの規模です。社員の平均年齢は30歳くらいですから、ようやく結婚をし、妊娠して育休をとって出産するという女性の社員も増えてきました。きょうは会社を運営する経営サイドからの視点も交えてお話したいと思っています。

VOYAGE GROUP 代表取締役CEO宇佐美進典さん

私自身は大学生のときに学生結婚をし、20歳で父親になりました。息子はすでに大学生です。昨年、私が40歳、妻が40歳、息子が20歳、3人合わせて100歳というメモリアルな年を迎えました。

学生時代の子育てですから、ある程度時間の余裕はありました。育児をしながらバイトもするという生活で、息子が3歳になる頃までは育児にもかなりコミットしたと思います。まあ、元祖イクメンの部類だと思っています(笑い)。

子供を公園に遊びにつれて行ったり、おむつを替えたり、布おむつを洗ったりもしました。授乳は妻がやりましたが、夜中に子供に授乳するときは、あなたも起きるのよ、と無理やり起こされました。

その後、社会人になり、さらにVOYAGE GROUPを起業するわけですが、その頃からは育児にコミットできない典型的な日本の父親になりました。働いてきて給料を渡すだけの父親です。ダメダメな感じですかね(笑い)。

VOYAGE GROUPは2013年の「働きがいのある会社」という調査で、従業員25人から249人規模の会社の部で2位になりました。2014年は従業員数のランクが変わり、従業員100人から999人規模の会社の中で5位だったと思います。従業員たちがそれなりにいきいきと働いている会社なのではと思っています。

その理由を私なりに考えてみました。1つは経営陣の中に「いい会社にしていこう」という共通の認識があります。売上を上げ、利益を出し、税金を納めるというだけでなくて、一緒に働く人たちが、仕事を通じていい仲間と出会え、共に成長して、社会に新しい価値を生み出していきたいと思っています。

これをやったら「働きがいのある会社」ができるというものはありません。小さな積み重ねだと思います。私たちの会社が普通にやっていることが、ほかの会社からするとあまり普通じゃない、というのはあるかもしれません。私自身は、どんな会社にしたかったかというと、「自分自身が新卒で入りたいと思う会社」でした。

〔宇佐美進典さん〕 
VOYAGE GROUP 代表取締役CEO。1972年生まれ。トーマツコンサルティング(現Deloitte Tohmatsu Consulting)にて、業務改善プロジェクトに携わる。その後数社を経て1999年10月にアクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)を創業。ネット分野に特化した事業開発会社としてポイントを活用した「ECナビ」「PeX」等のメディア事業と、国内トップクラスのSSPである「Fluct」を運営するアドテクノロジー事業等を展開。インプレスジャパンにて『新・データベースメディア戦略』(共著)、『SNSビジネス・ガイド』 (共著)の著書あり。


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