国内企業最前線

コミュニティサイクルを普及させ、もっと住みよい街に

千代田区が始めたコミュニティサイクル「ちょくる」

千代田区が始めたコミュニティサイクル「ちょくる」

Q1.あのドコモさんがなぜバイクシェアの企業を立ち上げたのか、その理由からお聞かせください。

坪谷: 8年ほど前のことですが、将来に備えた新しい事業の検討をドコモとして始めました。教育、医療、農業、エネルギーなどの検討テーマとともに、エコロジー、特に“シェアリング”というキーワードが浮かびました。

移動手段のシェアリングというと、カーシェアリングの市場が米国で立ち上がり、フランスではバイクシェア、つまり日本でいうところのコミュニティサイクルのサービスが始まっていました。

環境に優しい移動手段である自転車をさらにシェアすることは、環境保全への効果が高く、また同時に人々の暮らしの利便性も高められます。これなら社会貢献型のビジネスになりうると確信しました。情報通信技術などドコモの経営リソースを使えば、自転車の貸出しや管理の仕組みづくりでも新しい提案ができると考えました。

その後、準備を重ね少しずつですが一部の市区域で導入を進め、今年2月に株式会社ドコモ・バイクシェア(本社:東京都墨田区)を発足しました。

代表取締役社長 坪谷 寿一さん

代表取締役社長 坪谷 寿一さん


Q2.事業立ち上げまでの道筋は順調なものでしたか。

坪谷: コミュニティサイクルというのは、公共性を伴うサービスであり、私ども民間企業単独で行えるものではありません。

自転車の貸出・返却場所であるサイクルポートをより多く確保し、どこでも自転車を借り、どこへでも返却できることが前提です。そうした場所の確保では土地・不動産に関する行政の理解・協力が必須でした。

2010年4月に横浜市の入札を経て同市域の臨海都心部で翌2011年4月から実証実験としてサービスを開始いたしました。当初は自転車300台を導入し、山下公園、関内、みなとみらいなど、およそ8㎢をサービス対象エリアとしました。3年の実験期間の後、昨年より商用サービスに移行し、現在は自転車400台、エリアも徐々に拡大しています。自転車には電動アシスト付自転車を採用し、坂道や遠距離でも快適にご利用いただけるようにしました。


Q3.その後、どのような地域に広がっているのでしょうか。

坪谷: 実証実験という枠組みではありますが、横浜市に続いて、2012年東京都江東区、2013年仙台市、2014年東京都千代田区、港区、そして本年には広島市、神戸市、東京都中央区において事業を展開しています。

コミュニティサイクルで街を走る

コミュニティサイクルで街を走る

こうした自治体との連携は、すべて公募プロポーザル形式による入札を経てご採択いただいたものです。コミュニティサイクルでは概ね通常4〜5社が企画書を提出し、開示されている評価項目を元に選定がなされます。

近年コミュニティサイクルに限らず従来公共サービスと目されていた事業に対しては、PFI(Private Finance Initiative:公共サービスの提供に民間資金を利用し、民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法)などもそうですが、最終的には公的な援助で維持するのではなく、民間による持続的な運営を期待されています。私どもも初期導入と立上げで助成などをいただくことが多いですが、2〜3年で自立することを前提にしていますので、極めて厳しい審査になります。


Q4.普及には、サイクルポートの設置、自転車の管理・メンテナンスなど、拡充しなければならない課題やノウハウもありますね。

坪谷: コミュニティサイクルを成功させるためには、地域内により多くのサイクルポートを設置し、どこでも自転車を借りることができ、返却することができるシステムが必要です。

観光客などを対象とした1日パスという制度もありますが、通常の会員(月額会員・1回会員)の場合、通話とメール受信が可能な携帯電話やスマートフォンとクレジットカードで会員登録ができます。SuicaやPASMOなどの交通系ICカード、おサイフケータイ、専用のICカードを会員カードとして活用して、それをかざすだけで自転車の使用ができる仕組みが世界的にも主流です。弊社のシステムでは自転車を直接管理しており、一時駐輪や返却も簡単な操作でできます。

ドコモバイクシェア4

◆代表的な料金プラン
・1日会員: 基本料金ゼロ円。最初の30分は150円で、30分超過するごとに100円。
・月額会員:基本料金2,000円。最初の30分は無料で、30分を超過するごとに100円。
・1日パス:有人窓口では1日分として1,500円+ 専用IC カード発行料500円が必要。
無人登録機の場合、1日分として1,500円。クレジットカードまたは交通系ICカードで決済します。

◆借り方
登録したICカードで自転車を借りる方法
ドコモバイクシェア5

◆返し方
指定の駐輪場に自転車を停めて、手動で施錠し 「ENTER」 ボタンを押し返却完了。
ドコモバイクシェア6

管理システムには㈱NTTドコモで開発したバイクシェアシステムを採用しています。欧米で広まった時分から現在に至るまで、ほとんどのシステムがサイクルポートに専用の機械ラックを敷設し貸し借りを行っています。私どもは逆に自転車本体に従来のサイクルポートが持っていた通信機能やGPS(全地球測位システム:位置の把握が24時間体制で可能に)機能、遠隔制御機能(自転車の貸出・返却制御や電動アシスト機能のバッテリー残量の把握等)をすべて搭載することで、これまでのサイクルポートが必要としていた機能が不要となります。また、万一の事故に備えて保険にも加入しています。

導入コストですが、サイクルポートの専用機械ラックを不要にし、電源や道路の掘削工事を施さずに設置可能にしました。もちろん電動アシスト付き自転車の購入費、その設置場所の確保と工事など、ある程度の初期投資は必要です。

相応の初期投資を必要とし社会インフラに近い側面を持っていますので、いったん始めた上は財務的な問題や運営上の難しさからすぐにやめれるというものではありません。各自治体が事業の提携先としてどこをパートナーに選ぶのか慎重になる背景には、こうした問題もあります。


Q5.東京都23区を中心に広がりを見せているわけですが、さらに広げるためにはどのような課題がありますか。

坪谷: 都内では江東区、千代田区、港区、中央区という湾岸4区で始まっていますが、現時点ではそれぞれの行政区内にとどまる運用となっています。つまり、銀座(中央区)で自転車を借りて、皇居前(千代田区)や六本木(港区)で返却することは残念ながらできません。

街のいたるとろにサイクルポートがあれば(東京・飯田橋駅前で)

街のいたるとろにサイクルポートがあれば(東京・飯田橋駅前で)

東京都の舛添知事のご発声で当該4区での広域利用について協議する枠組みの提案があり、この3月に協定が調印されています。具体的な協議がなされる中、できるだけ早い段階で広域連携が実現できるようなればと願っています。私どものシステムは広域連携のための基本的な機能は備えており、導入自体は決して難しいことではありません。

今後は自転車の台数を増やすとともにさらなるオペレーションの改善を図り、お客様にとって安全で利便性の高いサービスに昇華していきたいと考えています。台湾の台北市では、自転車の台数を増やすだけでなく、コミュニティサイクル用の自転車の開発や、初乗りの30分を無料にするなどさまざまな工夫を行うことで、一気に利用が膨らんだと聞いています。


Q6.企業である以上、利益を出せないといけませんね。そのあたりについては、NTTドコモグループとの合意形成はありますか。

坪谷: パリやニューヨークでは屋外広告費やネーミングライツ(命名権)との複合により収益を確保できる事業モデルをとっています。わが国では導入のみが先行し、また行政上の規制などの制約で欧米のような複合事業のモデルとして始まらなかったのも実情です。欧米とおなじようなシステムや製品では日本での導入は困難であると考え、弊社では抜本的な導入コストの削減とオペレーションの工夫を施してきました。また新たな付帯事業の創出により、収入基盤を強化していくことを進めています。観光や健康などの諸産業との連携などを付帯事業として重視しています。

なによりも、自転車に乗ることが単に便利であるから、というだけでなく、乗って楽しい、乗って気持ちがよいという文化を広めることが大事だと感じています。それにはお客様の理解が広がることが前提です。利用者が認知してこそ、広告のメディアとしても評価されることになるわけですから…。

また自転車を扱うサービスであるため、昨今の道交法の改正や安全面についても十分配慮する必要があります。たとえば、最近では放置自転車の問題や自転車が絡む人との接触事故が社会問題となっています。乗る方へのルールやマナーの徹底、一方でヘルメットの着用など利用者の安全を担保することも重要です。行政により自転車の走行空間の整備が進められていますが、自転車が絡む事故から利用者をいかにして守るか、私たちも研究を進めています。


Q7.ドコモ・バイクシェアの社会理念をもう一度お聞かせください。

坪谷: 大きくは3つあります。1つはバイクシェアそのものが「環境に貢献できる」事業であることです。まもなくCOP21がパリで始まりますが、低炭素社会の実現に自転車の利用拡大は世界的に見ても欠かせない取り組みです。

2つめは、「個々人の健康促進」です。自転車に乗ることがメンタルにもフィジカルにも良い影響を持つという研究成果も示されています。この10月に、自転車機材メーカーと大学のスポーツ健康学による実証実験に参画しています。自転車の利用はジョギングやランニングと同様の有益な有酸素運動になります。膝への負担も少なく風景も楽しめるため、メタボを心配される前にぜひ利用して欲しいものです。

3つめは、「移動の楽しみ・観光資源との連携」です。近年海外からの観光客が増えていますが、特に欧米の観光客は自転車を使った体験型の旅にも関心が高いようです。日本の都市でも自転車を利用した旅ができると分かれば、さらに観光客を呼び込む大きなインパクトになります。

“自転車に乗る”という楽しみを広げ、自転車に“ちょっと乗る”という文化を定着させていくのもドコモ・バイクシェアとして取り組んでいきたいと思っています。


ドコモバイクシェア8                   

代表取締役社長 坪谷 寿一さんのプロフィール

1992年4月:日本電信電話株式会社入社
同年7月:NTT移動通信網株式会社(現 株式会社NTTドコモ)
2013年7月:スマートライフビジネス本部ライフサポートビジネス推進部 環境事業推進担当部長
2015年2月:株式会社ドコモ・バイクシェア代表取締役社長就任


●株式会社ドコモ・バイクシェア

http://www.d-bikeshare.com/


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