識者に聞く
成年後見制度
いつかお世話になるかもしれません4人1人が65歳以上の高齢者、その13人に2人が要介護で、13人に1人が認知症だとされる。認知症や知的障害・精神障害を持った方々の生活を支えるのが成年後見制度。だが、その理解はまだまだ進んでいない。地域に根を張る多摩南部成年後見センター小宮保夫所長に聞いた。
Q1.そもそも成年後見制度とはどのような制度ですか。
小宮: 2000年の介護保険制度スタートと同時に導入された制度です。介護サービスなど福祉の分野では、長らく行政による「措置」によって保護・支援が行われてきたのですが、それが利用者本人の意思に基づく「契約」に変わりました。
しかし契約にあたって、認知症の高齢者や知的障害・精神障害を持った方には物事を判断する能力が十分でない方も少なくありません。そうした方に代わって、ご本人の権利を守り、援助を行うのが成年後見人です。
わが国も個人の意思を尊重する時代になっています。一昔前なら、本人に代わって家族や親族がすべてを仕切ることもあったでしょう。でも最近では親族がいなかったり、親族がいても関係が疎遠な場合も少なくありません。
成年後見人は、一定の条件の下でこうした高齢者に代わって、さまざまな援助を行い、本人の権利や利益を守る役割を担っています。
Q2.成年後見人は普段どのような仕事をしているのでしょうか。
小宮:成年後見人の役割は、認知症の高齢者や知的障害、精神障害を持った方に代わって、「財産を管理」したり、必要な「契約」を結んだりすることによって、本人を保護・支援することです。
成年後見人が選任されると、まず本人の「財産目録」を作ります。選任後1カ月以内に、家庭裁判所に財産目録を提出しなければなりませんから……。
そのうえで、本人の意向を尊重し、本人にふさわしい暮らし方や支援の仕方を考えて、財産管理や介護、入院などの「契約」など今後の計画と収支予定を立てます。
あとは日々の生活を見守り、本人の「財産を管理」します。また、日々の取り組みとともに、収支についても家庭裁判所に報告しなければなりません。
成年後見人は、家庭裁判所の許可なしに本人の財産から報酬を受け取ることはできません。本人の財産を不適切に管理した場合は、成年後見人を解任されるほか、損害賠償請求を受けるなど民事責任を問われたり、業務上の横領罪で刑事責任を問われる場合もあります。
Q3.責任の重い仕事ですね。成年後見人を利用するにはどのような手続きが必要ですか。
小宮:制度を利用したい方は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てする必要があります。申し立てできるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などに限られています。必要な書類に加えて、診断書、申立手数料(1件につき800円分の収入印紙)、登記手数料(2,600円分の収入印紙) 、予納する郵便切手3,200円、本人の戸籍謄本・住民票が必要となります。後見人候補の戸籍謄本・住民票も必要です。
また、本人の判断能力を医学的に確認するため、「鑑定」が必要となります。鑑定料は3〜10万円程度とされています。(詳細は家庭裁判所にご確認ください)
成年後見人は自分の空いた時間を有効活用して社会に協力するボランティア活動と違いがあります。それは家庭裁判所の審判により後見人に就任する点です。
そのため辞めたいと思っても病気や転居などで後見人が務まらないなど正当な理由がなければ辞められません。あくまでも家裁の判断が必要となります。被後見人がお亡くなりになるまで後見人として責務を果たすことを求められます。なお、後見人には後見報酬が支払われますが、これも家裁が被後見人の財産状況を考慮して決定することになります。
Q4.多摩南部成年後見センターが生れたのはどういう経緯からですか。
小宮:東京都は2005年度から市民後見人養成事業を始めました。基礎講習を修了した登録者は2013年度までに453人とされていますが、2014(平成26)年度に養成事業は区市町村に移りました。
実はこうした福祉の流れは、かなり以前から予測されており、調布市では2000(平成12)年度に「高齢者、知的障害者および精神障害者に対する意識調査」を行うとともに、近隣7市(立川市、三鷹市、府中市、日野市、狛江市、多摩市、稲城市)のオブザーバー参加を得て、こうしたサービスの提供が必要となる市民のための支援組織の設立を検討してきました。
翌年度には調布市社会福祉協議会の協力のもと、モデル的にサービスを行っていました。モデルケースで検証を進めながら2003(平成15)年に調布市、日野市、狛江市、多摩市、稲城市の5市により、「多摩南部成年後見センター」を発足しました。
そのため5市から上がって来る案件で、親族からの支援がなく、十分な財産を有しないため後見制度の利用が難しい方々を対象に後見活動を行っています。今年の3月までのセンター利用申し込み件数は累計で175件ですが、うち平成26年度末の受任件数は73件。これまでに本人の死亡で終了したものが60件となっています。2014年度の新たな受任件数は14件となっています。
Q5.業務は大きく分けると成年後見活動とそれを支える市民後見人の育成にあるわけですね。
小宮:一口に成年後見活動と言っても、案件によっては専門の弁護士や司法書士が関わらなければ対応できないものから、親族で対応する親族後見、そして市民後見人(社会貢献型後見人)で対応するものまでさまざまです。
これまでの経験からお話すれば、独居老人のように近くに親族がいないような方が基本的な事例となりますが、利害対立があるケースも少なくありません。また、最近では高齢者への虐待事例も増えています。しかし、親族間のトラブルもなく落ち着いていて、ある程度の財産もある方についてはセンターが後見人となるのではなく市民後見人(社会貢献型後見人)が適任と考えています。
多摩南部成年後見センターは、5つの自治体が設立した法人ですが、それは個人よりも法人の方がこうした困難な案件に柔軟に対応できるというメリットがあるからです。法人の中に専門家等を配置して問題への対応を素早くできる体制を取っています。そのため、センター業務に限らず市民後見人(社会貢献型後見人)へのサポート体制も充実していると考えています。
なお、市民後見人(社会貢献型後見人)の養成は累計で32人、登録者数27人(2015年8月1日現在)となっています。
Q6.今後に向けた課題にはどのようなものがありますか。
小宮:高齢化の動きは待ったなしの状況が続きます。認知症の高齢者や知的障害、精神障害を持った方の利用も増えていくはずです。
過去5年の成年後見人申立件数は、全国で見ると毎年3万件から3万5千件にのぼり、うち後見人を就けたものも昨年だけで2万7千件を超えています。
その受け皿となる市民後見人(社会貢献型後見人)の養成を進めるとともに後見制度の普及・啓発を急がなければなりません。
最近では、どのような医療を受けてもらうかという医療同意の問題や、死後事務の増加という問題もあります。身寄りのない方の場合は、後見人が人生最後のおくりびとになるケースも増えています。
余計な話とは思いますが、相続の問題が絡むと深刻になるケースも増えています。資産を持った方、持たない方、ケースはさまざまですが、まだ判断力があるときに、ご自分の気持ちをしっかり意思表示しておくことも大切です。
(お願い)
*一般社団法人多摩南部成年後見センターは調布市、日野市、狛江市、多摩市及び稲城市の5市が設立した法人で、利用者は基本的に5市の市民であることが前提となっています。また、相談業務は各市が窓口となっていますので、各市の窓口にお問い合わせください。
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