CSRフラッシュ

パリ協定は“地球のがけっぷち”を救えるか⁈

COP21のパリ合意が意味するもの

COP21用砂漠化

Q.バリで開催されていたCOP21がようやく閉幕しました。一時は合意も危ぶまれたこの会議のそもそもの論点は?

A. 地球の温暖化が進み、異常気象などが原因とされる自然災害が世界各地で大きな被害をもたらしています。国連気候変動会議の略称であるCOPは毎年開かれているものの、1997年にわが国の京都で開催されたCOP3で京都議定書が採択されて以来、その後、実効性のある合意がなされてきませんでした。

21回目となるパリ会議では、地球温暖化対策に向けて以下の論点があったと言われています。
➀気温上昇を産業革命から2度未満に抑える。 
➁すべての国・地域が削減目標を掲げ、5年ごとに点検する。 
➂先進国と途上国の区分を取り払って協力する。 
➃温暖化の被害軽減策に取り組む。 
➄途上国への資金支援を行う。 
➅議定書か協定か。新しい合意の形成を行う。
――という6つの論点です。

Q.「パリ協定」という形で全会一致の合意がなされたわけですが、その合意の中身は?

A. ➀気温上昇については2度よりもかなり低く抑え、1.5度未満に向けて努力すると決まりました。さらに21世紀の末までに温室効果ガスの排出と吸収を均衡させて、人間活動によるCO2などの排出を実質ゼロにするとしました。➁各国には、削減目標の作成・報告、達成に向けた国内対策を義務化しました。また、5年ごとに目標を更新し、後退させないこととしました。➂先進国には資金の拠出を義務化し、途上国にも自主的な資金拠出を奨励することになりました。➃温暖化の被害軽減策を温室効果ガスの排出削減策と並ぶ、もう一方の柱と位置づけ、途上国で起きつつある被害の救済策に取り組むこととしています。

京都議定書では罰則が設けられましたが、パリ協定には罰則規定がなく、法的拘束力はやや緩やかなものとなりました。合意を優先し、参加国の誰もが一定の責任を持つことにしました。

Q.先進国と途上国の対立があったと聞いています。主な対立点はどのようなところにあったのでしょうか。

A. 干ばつ、異常気象、海面水位の上昇、感染症の拡大、生物種の絶滅など、気候変動は多くの国・地域に被害をもたらしています。たとえば、島嶼国の中には海面水位が上昇して陸地が奪われ、住民が移住を迫られている国もあります。後発開発途上国と呼ばれる貧困層を多く抱えるアフリカなどでは、干ばつで耕作地が干上がるという問題も発生しています。

途上国からすればそれらの原因の多くは先進国の経済発展によってもたらされたもので、対策費用は先進国が負担すべきものとしています。一方、先進国側も責任は感じているものの、途上国の言うがままに大きな負担を約束できないという立場でした。

実は18年前に採択された京都議定書は、当時画期的と言われたものの、その後CO2の最大排出国であった米国が脱退したほか、中国やインドなどの排出国が途上国であるとの位置づけから排出枠の義務づけがなされなかったという課題が残りました。そのため、特定の国が6%の削減目標を達成しても、地球の大気中のCO2濃度は確実に増えていきました。

COP21では、こうした反省もあり、実際に「損失と被害(loss and damage)」が発生した国々への救済を行うため、国際的な仕組みを整えていくことで合意しました。


人間の英知は地球を救えるのか

Q.世界の平均気温は産業革命前と比べて、すでに1度近く上昇し、今世紀末には4度近く上昇するという予想もあります。今世紀後半までに“1.5度未満に向けて努力する”というのは、なんとも楽観的な見通しではないでしょうか。

A. 温室効果ガスの排出量と海や森林によるガス吸収を均衡させるだけでは、おそらく「実質ゼロ」は難しいと思います。そのため各国は自主的な削減目標を提出し、5年ごとの点検・見直しを通じて対策を強化しなければなりません。

COP21では、これまでの反省と議長国フランスの采配もあって、会議を決裂させるのではなく、ぎりぎりのところで妥協が図られたといえます。

下の図は、JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)が集めた2012年の各国の二酸化炭素排出量のデータですが、1番目に多い中国と2番目に多いアメリカが毎年50億トン以上を排出し、全世界の43.6%を占めています。また、日本も世界で5番目に多い排出国となっています。

一人当たりの排出量ではアメリカが最も多く、日本の約2倍、中国の約5倍となっています。日本を含めた大国がどこまで本気で削減に取り組むかが問われているのです。

全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより(http://www.jccca.org/)

全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより(http://www.jccca.org/)

一人ひとりのライフスタイルを見直す

Q.日本の今後の取り組みで、世界に貢献できる課題がありましたら教えてください。

A. わが国は国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比で26.0%の削減(2005年度比で25.4%の削減)を目指し、CO2に換算すると約10億4,200万トンの排出ガスを削減するとしています。

この削減目標については、世界の約100カ国で活動する国際NGOのWWF(世界自然保護協会)が「十分というには程遠いもの。5月の伊勢志摩サミットまでに、国内対策を着実に整備して国際的な対策に協調していく姿勢を打ち出し、2020年にもう一度ある目標提出の機会において、目標を引き上げていくべきだ」と述べています。

日本政府の取り組みでは、日本の優れた環境技術を海外の途上国に提供し、二国間オフセット・クレジット制度(JCM)に取り入れようとする動きも始まっています。温室効果ガス削減目標の積み上げの基礎としていないものの、獲得した排出削減・吸収量を日本の削減としてカウントしたいという狙いがあります。

ある専門家によれば、排出量取引とか旧世代の動力を新型にして省エネ化するなどの取り組みは、それ自体が地球温暖化対策の抜本対策ではなく、化石燃料を使わない社会の構築をめざす研究に全力を挙げるべきだと語ります。

エコプロダクツ2015で語る山本良一実行委員長

エコプロダクツ2015で語る山本良一実行委員長

先ごろ開催され、本誌でも報告したエコプロダクツ2015の実行委員長で、『温暖化地獄―脱出のシナリオ』という著書をもつ東京大学名誉教授の山本良一さんは、「我々人類は温暖化地獄への中間地点に差し掛かっています。バチカンのローマ法王までが人々のライフスタイルの大転換を呼びかけています。そろそろ先進国型のライフスタイルを見直すべきときが迫っているのです」と述べています。(2016年1月)


<関連記事>
緊急報告! いよいよ本番を迎えるCOP21パリ会議に期待すること

国連気候変動パリ会議に向けて交渉進む

今、改めて環境問題を考える part 2自然資源コストを正しく認識すれば経済成長が実現できる

Part 2「自然資源コストを正しく認識すれば経済成長が実現できる」

温暖化は待ってくれない! [Part 1] 地球温暖化の現状と人類の課題

COP19/CMP9から見えてくる気候変動対策の遅れ~地球の明日は崖っぷち

コミュニティサイクルを普及させ、もっと住みよい街に

車をおいて街に。「カーフリーデ-」を日本でも広げよう!

自転車で都市は変われるか~東京サイクリングサミット2014 [Part2]

自転車にやさしい都市へ、大きく変わり始めたニューヨーク~東京サイクリングサミット2014 [Part1]

ママさんバンド、おやじバンドで街を元気に!

NECのプロボノ活動が「Make a CHANGE Dayアワード」大賞を受賞

子どもたちの貧困とどう向き合うか~都大学東京の阿部彩教授に聞く

古本で社会活動の支援を~難民支援協会が新しい資金集めを進める

「保険契約者の無事故がNPO団体の資金援助につながる「ムジコロジー・スマイル基金」

           

トップへ
TOPへ戻る