国内企業最前線
社会起業家集団が描く、でっかい初夢!シニア向け《仕事応援サイト》が始動
“一億総活躍社会”が話題になっている。だが、シニアの活躍の場は簡単には見つからない。「求人情報が少ない」「職種の選択肢が少ない」「年金をもらいつつ働きたい」。シニア層の活躍には、いまも大きなカベが立ちはだかる。社会の仕組みをデザインする株式会社budoriが、今年、シニア向け《仕事応援サイト》を立ち上げた。その名も『キネヅカ』……。
シニアの「できる」と「やりたい」を仕事に結びつける
『キネヅカ』の発案者であるbudoriの納谷陽平さんに聞いてみました。
――シニア向け《仕事応援サイト》の『キネヅカ』はどういうところから発想されたものですか。
納谷: いまの日本は超高齢化社会です。国民の4人に1人が60歳以上ですし、子どもの出生率は下がっています。それは労働力不足ということでもあります。都内のコンビニなんかでは外国人の方が増えています。
――シニア雇用の現状は?
納谷: 飯田橋にある「東京しごとセンター」に見学に行きました。55歳以上の方の就業支援を行う「シニアコーナー」がありましたけど、まず求人情報自体が、とても少ないです。ハローワークも同じ状況です。あまり仕事がないなと思うと、何度も行く気が失せてしまいます。
大手企業の求人情報サイトの場合、「シニア向けに用意された入り口」はあるけれど、検索して出てくる求人情報は「若者からシニアまでOK」の求人ばかりです。若い方から応募があれば、若い方を優先的に採用します。
――シニアの仕事となると限られたものしかないというわけですね?
納谷: 選択肢が非常に少ないのは事実です。たとえば清掃や警備、歩道や駐輪場の自転車整理みたいな仕事ですね。選り好みするのもよくないのかもしれませんが、バリバリ仕事をやってきた方には物足りないような仕事ばかりです。
――シニアが培ってきた経験、知識、技術をもっと積極的に活用する場があってもよいはずですよね。
納谷: 最近ではシニアを活用したいという企業も増えています。
1つは、ファストフードチェーンのモスバーガーです。モスバーガー五反田店は、アルバイトのうち約2割が60代以上です。学生と比べて時間の余裕があるため、早朝や深夜の勤務シフトを入れることが多いようです。お客さまの評判も良いとのことです。
budori代表の有村正一が、モスバーガーに取材を申し込んで、お話をうかがったのですが、シニア層に絞って募集したわけではなく、ずっと長く昔からパートで働き続けて、気がついたら60代以上のアルバイトが増えていたということだそうです。
もう1つは、岐阜県にある株式会社加藤製作所さんです。国産初のジェット旅客機、MRJのプロジェクトにも関わっているプレス板金加工業の老舗です。こちらは意図してシニア層の求人を行っています。10年以上前からシニア雇用に取り組み、いまでは社員の約半数が60代以上となっています。
金属加工が中心の企業ですが、多品種小ロットの受注に対応するためには平日だけでなく土日も工場を動かす必要がありました。とはいえ、社員のシフトを変更して365日稼働するのは現実的ではありません。そこで注目したのが高齢者雇用だったのです。
この会社のトップが書いた書籍『意欲のある人、求めます。ただし60歳以上』は、ぜひ読んでいただけたらと思います。
――キネヅカというネーミングはどこから……
納谷: 「昔とった杵柄」という言葉がありますね。杵柄をカタカナにして、親しみを込めたというか、いま風にしたわけです。
シンボルマークは、赤い蝶ネクタイをイメージしています。還暦で赤いちゃんちゃんこを着ますが、ちゃんちゃんこの代わりに、赤い蝶ネクタイを締めて、新しい仕事に挑戦するという意味です。この蝶ネクタイを90度、くるりと回すと、餅をつく“杵”の形になっています。
――『キネヅカ』はどのように立ち上げていきますか。
納谷: すでに専用サイトを立ち上げ、関心のある方に、シミュレーションという形でトライしてもらっています。
『キネヅカ』のサービスは3つあります。1つは「年齢制限のあるシニア専用求人」として、55歳以上、60歳以上など、シニアに特化した求人のみを厳選して掲載していきます。2つめは「やりたい」を応援するシニアの仕事づくりサイトとして、それぞれの『キネヅカ』に合った仕事の紹介や、新たな仕事を企業とともにつくっていきます。そして、3つめは「年金バランスシュミレーター」。年金が満額でもらえる範囲での求人を調べることができるシミュレーターを用意します。
シニアのための情報コンテンツはこれから順次追加し、本格的なサービスの開始は2016年4月より公開を予定しています。ご期待ください。
《対談》ワクワクドキドキする仕事と、いかに向きあうか
定年を迎えたシニアが仕事を探す際に一番のカベとなるのが、“プライド”なのだとか……。特に男性のプライドが新しい仕事への挑戦を邪魔する事例は少なくないと言います。
ここからは「シニアの仕事とマインドセット」をテーマに、非電化工房を主宰にして『月3万円ビジネス』を提唱する発明家の藤村靖之さんとbudori代表の有村正一さんの対談をお届けします。
シニアのプライドは捨てられるか
有村: 納谷からは「ハローワークにも仕事がない」という話がありましたが、決して「仕事がない」わけではありません。プライドが邪魔をして「仕事を選り好みしている」部分もあると思います。
藤村先生はビジネス経験も豊富で、考え方の根本、切り口をパリッと変えてしまうようなことをしばしば話されます。シニア層が仕事を選ぶ際の心の持ちようというところではどうあるべきでしょうか。
藤村: 「男は立場で考える、女は感性で感じる」や「女は本能で生きる、男はプライドで生きる」という言葉があります。
このプライドが、男たちが新しいことに挑戦するのを邪魔するのです。「プライドを壊されるぐらいなら死んだ方がましだ」みたいになってくると、これはもう不治の病ですよ。
有村: どうにかして変えられないものでしょうか。
藤村: 「大企業の○○取締役だった」「○○部長だった」みたいなプライドにしがみついたまま、老後を過ごしてもなんの面白みもないと思うんだけどね。
ただ、ガチガチに築き上げたプライドを変えるのは、精神論じゃ無理なんです。方法論が必要です。
私は大手企業で、研究開発のリーダーをやっていました。課長職になるとね、肘掛つきの椅子になるんです。そうなると、1日中、肘掛をなでているのがいます。「ああ、やっと課長になれた」ってね。
部長になると、リクライニングの椅子になります。椅子の背もたれを変えられるわけね。朝から晩までずっと、椅子にもたれかかってばっかりです。(笑い)
有村: そういう企業風土で高度経済成長期を過ごし、企業依存型のプライドを形成していったっていうことですね。
藤村: そのプライドを外すことさえできればね。経験も豊富なんだし、60代になれば時間のゆとりもあるんだし、お金の余裕もある……。
プライドを外すには
有村: プライドを外す方法論はありますか。
藤村: おじさんっていうのは、〔自慢、合理化、批難〕ばかりでね。この3つを、どうやって排除するかが難問です。
ずっと昔、「おじさん解剖図」を描いたことがあります。解剖図ですからね。頭、体、心をそれぞれ、解剖してみようということになります。
頭を解剖して開いてみると、そこにあるのは「思い込み」「決めつけ」「こだわり」。この3つで「ガチガチ」なわけです。つぎに体。体は「炭酸ガス」「乳酸」「脂肪」で、「ボロボロ」です。最期は心。これは「不安」「焦り」「欲望」で、「ドロドロ」です。
こんなガチガチの頭、ボロボロの体、ドロドロの心からは豊かな発想なんてあり得ません。
有村: まず素直な人が残るということですね。
藤村: 方法論をしっかり考えた企業っていうのは、とてもクリエイティブな会社になってるね。
有名な会議の方法論に「Six Thinking Hats」というのがあります。Six Hatsって、6つの帽子です。会議に参加する方は、6種類の色の帽子のどれかを必ずかぶります。それぞれの色に、それぞれ役割があってね。その役割通りの性格を演じて、振舞わなくちゃなりません。
有村: 新しいことを創れと言われたら、なかなか創れません。自分ひとりで創ろうとすると、不安とプライドに負けてしまいます。
私の通った発明起業塾でも、合宿がありました。「今晩、200個のビジネスモデルを考えなさい。考えなければ寝てはいけません」と言われるわけです。なかには、1個目だけで3時間ぐらいかかる人もいます。
藤村: 10個や20個考えるだけなら、長く生きてる人は過去の経験からひねくり出しちゃうんですよね。でも、それだけではカベは飛び越えられません。
有村: 苦しいですね。
藤村: 苦し紛れに20個出すけども、そこから先にいこうと思ったらね、やり方を考えなければ無理です。何か方法論を考えなければ、出てこなくなります。方法論を考えるところがスタートラインです。もうひとつは、自分が過去やったことのないことまで踏み込むことです。そうすると、好きなことが見つかりやすいのです。
有村: そうですね。
藤村: シニアの仕事は、好きなことをやって欲しいんですよ。これまでは義務感に満ちて、社会のため、家族のためにやってきたかもしれないけど、ここからは自分のためにやって欲しいわけです。そうでなければ、いい仕事、面白い仕事は見つからないと思う。
有村: 「儲かること」「得意なこと」が重なるところにしか仕事を見つけようとしないから……。
藤村: それを乗り越えなくちゃいけないですね。「キャリアを活かす」のではなく「キャリアを捨てる」ことです。企業で40年、50年頑張って生きてきた人のキャリアっていうのは後から活きてきます。じわじわとね。
有村: 年をとってからのチャレンジというのは、きっとそうなのですね。
藤村: まず、ワクワクドキドキがないと。
有村: 藤村先生の著作『月3万円ビジネス』は、たくさんの制限とワクワクドキドキの方法論ですね。ものすごく、ゆるいのかなって思いきや、いざ、考えようとすると、かなり制限がありますよね。
たとえば、1カ月に2日しか働いてはいけない。インターネットで販売してはいけない。支出を抑えなさい。その代わり、月3万円で足りなければ、2つ、3つとやって「複業」にしなさいと。「副(サブ)」ではなく「複(マルチ)」です。
藤村: 新しい仕事にはリスクがつきものと思い込んでるでしょう。だから、「ノーリスクじゃなきゃいけません」っていうのが私の提案する絶対の掟です。
この本は、2011年に1冊目を出して、2015年に続編となる『100の実例』を書きました。
ワクワクドキドキで仕事を楽しめ
藤村: 言葉遊びが好きなので、先ほど、納谷さんの『キネヅカ』の話を聴きながら、こんなことを考えたんです。
人間はみんな「カネヅ(ズ)キ」でしょう?お金が大好きです。ただ本当は、できることが沢山あるはずなのに、プライドが邪魔して、「キヅカネ(ー)」を決め込んでいます。
有村: おお!
藤村: シニアの人が陥るのは、若い人の話なんて絶対聞かない、つまり「キカネーゼ」で「キカネーヅ」。(笑い)
有村: そんなところに陥りがちなシニアは、どうやったら新しいことに挑戦できますか。
藤村: 『キネヅカ』のオプションにワクワクドキドキがないといけません。定年後に働くからには「もっと愉しまなきゃ損だ」っていう考え方にシフトできることです。
楽な仕事という意味ではなく、愉快な働き方ですね。自分が納得できる内面の充実を図れる仕事です。
人間の価値っていうのは、カタチもあるかもしれないけど、その人の中身が大切です。それが「魂」です。魂っていうのはなんなのか。僕は、つぎの5つで構成されると思います。
• 哲学
• 思い出
• 生きざま
• 愛情
• 感性
有村: 高度経済成長時代に仕事に就いた方に話を聞くと、「そこにその仕事があったからだ」っていう人が結構多いですね。自分の気持ちをねじ曲げて、仕事に就いたっていう人が多いようです。
藤村: 魂を磨けるようなことが、仕事に結びついていけば、新しい生きがいになると思うね。「昔取った杵柄」が仕事に結びつけば結構だけれど、直接には結びつかなくたって、それはそれで結構だというぐらい緩やかに考えた方がいいですね。
有村: 喜びに満ちた生きざまというのは、丁寧に暮らすということですね。
藤村: それが幸せの第一歩なんじゃないかな。
お問い合わせ
株式会社budori
東京都千代田区岩本町2-11-9 イトーピア橋本8F
電話:03-5809-3057
http://www.budori.co.jp info@budori.co.jp
http://kinezuka.jp/
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