CSRフラッシユ

ETIC.の「地方創生チャレンジ in 東北」シンポジウムから東北の挑戦を、未来につなげる II

第2回:データに基づく、社会実験のPDCA

地方創生チャレンジII-1

登壇者

小松洋介 氏:NPO法人アスヘノキボウ代表理事(宮城県女川町)
押田一秀 氏:復興支援センターMIRAI代表(福島県相馬市)
辻内琢也 氏:早稲田大学人間科学学術院准教授
進行役 石川 孔明氏:NPO法人ETIC. リサーチ・ディレクター

左から2人目が小松洋介さん、3人目が辻内琢也さん、4人目が押田一秀さん。左が進行役を務めた石川孔明さん

左から2人目が小松洋介さん、3人目が辻内琢也さん、4人目が押田一秀さん。
左が進行役を務めた石川孔明さん

       

石川:震災からもうすぐ5年が経過します。最近、被災地の生活支援や街づくりでは、客観的なデータに基づき、PDCAをまわしながら復興にチャレンジするという動きが始まっています。

ここに登場する3人は、そんな試みを地域で実践したり、学術的な立場で調査を重視してきた方々です。それぞれの活動内容やデータから得た示唆に富む話をうかがいます。


データを使って地域の課題を掘り下げる

~NPO法人アスヘノキボウ代表理事(宮城県女川町)の小松 洋介さん

NPO法人アスヘノキボウ代表理事 小松 洋介さん

NPO法人アスヘノキボウ
代表理事 小松 洋介さん

小松:女川町(宮城県)ですべての産業が参加する復興連絡協議会に入り、その後NPO法人アスヘノキボウを立ち上げました。一昨年から商工会の職員も兼務し、昨年から「まち・ひと・しごと創生戦略会議」の委員となっています。

震災前、女川町の人口は約10,000人でしたが、2015年の国勢調査では人口は6,334人となっています。街の7割が被災し、人口の10パーセントが亡くなりました。宮城県で一番高い比率です。

私たちができる地域活性化とは何かを考えたとき、地域外から人・物・金・情報が流入し、さらに地域内でも人・物・金・情報が生まれ、新たな循環を生むことでした。

活動をするにあたって大切にしていることが2つあります。1つは地域のトライセクターリーダーであること、もう1つは地域のハブ役であること。

トライセクターリーダーとは、民間・公共・社会の3つの垣根を越えて活躍する人材という意味です。解決策を探るため、別々に動いていた3つが垣根を越えてプロジェクトをつくるわけです。

ハブ機能とは、地域のリソースだけで地域が抱える課題はなかなか解決が難しいので、地域外のさまざまなチームと地域をつなぐ役割を私たちが担うことを指しています。ときには行政と民間の間に入って、街づくりに必要な機能をつなぐ役割を担います。

具体的事業に創業支援があります。金融機関やさまざまな企業と連携して創業支援のプログラムを開発しています。東京のクラウドソーシング(不特定多数の人に業務を委託する仕組み)と組んで移住促進も行っています。

人材育成では、経済同友会と連携して女川町の職員や次世代のリーダーが、東京の大手企業に一週間学びに行くプログラを行っています。そんな活動が認められ、女川駅から徒歩30秒の場所に「フューチャーセンター」という拠点を設けていただきました。

女川フューチャーセンターhttp://www.onagawa-future.jp/

女川フューチャーセンター
http://www.onagawa-future.jp/

活動に重要だったのはデータです。ジャパン・ソサエティーとエティックの東北3カ年プロジェクトに参加し、2005年のハリケーン・カトリーナで被害に遭ったアメリカのニューオーリンズで復興がどのように進んでいるかの視察に行きました。

ニューオーリンズでは客観的なデータに基づいて復興ビジョンがつくられ、街づくりが進められていました。住民が何に不安を持っているかヒヤリングし、データをつくり、発表していると聞きました。

私たちも「女川の未来を考える」というデータ集をつくりました。地域で活動するにあたって必要なデータを、国や県や町が持っているデータを加工してつくりました。

例えば、①地域経済が動いていないことの理由に、地域の中で買い物をしないことがあげられました。週末に郊外のショッピングモールに行ってしまうのです。
②仕事があれば地域に人が来るという話があります。ところが有効求人倍率と人口の相関関係はありませんでした。仕事があればではなく、仕事の幅や種類がなければ人口は増えないのです。

データ集をつくってから、そのデータを基に町の未来を考える討論会を開き、データから読み取れる課題について議論しています。女性をテーマにしたり、観光をテーマにして、そこから新たなプロジェクトを立ち上げています。

 特定非営利活動法人 アスヘノキボウhttp://www.asuenokibou.jp/


特定非営利活動法人 アスヘノキボウ
http://www.asuenokibou.jp/


調査で被災者の実態に迫る

~早稲田大学人間科学学術院准教授の辻内琢也さん

早稲田大学人間科学学術院准教授 辻内琢也さん

早稲田大学人間科学学術院
准教授 辻内琢也さん

辻内:私は内科と心療内科の医師です。駆け出しの頃に阪神・淡路大震災があり、内科医として現地に行き、保健室に寝泊まりしながら救援活動をしました。これが原点です。東日本大震災と原発事故が起きたとき、早稲田大学所沢キャンパスで教鞭をとっていましたが、埼玉県にも多くの被災者が避難してきており、仕事をしながら関われるのでないかと考えました。

現在は「震災支援ネットワーク埼玉(SSN)」の運営委員も兼ね、避難している方たちにどういった支援をすべきなのか、いま何に困っていて、どうサポートすべきかなどの企画をしているうちに、被災者の調査を行うようになりました。

2015年3月にNHKスペシャル『被災者一万人の声』が放映されましたが、その基礎データは私たちの調査を基にしています。

私どものやった調査は岩手県12,000人、宮城県27,000人、福島県17,000人近くに及びます。どこの県も20%くらいの回収率でしたが、11,377人の声を集めることができました。

地方創生チャレンジII-5

調査項目は被災状況・生活経済状況・就労・住宅・健康・放射線の問題・賠償の問題・家族や子供の関係・地域とのつながりなど、さまざまな観点から質問を作成しました。

私たちの調査によれば、「とても困っている21%」「少し困っている47%」と7割近くが経済的に困っています。住まいについては「仮設住宅やみなし仮設住宅の6割近くが不満」を持っていました。仮設住宅の状況では、4年経った時点で「阪神淡路は10%」くらい、5年経ったところで全員が復興住宅に移られて、自活しました。

ところが東日本では4年経った時点でまだ「7割近くが仮設住まい」で、この調子で行くと仮設から出るのに8年くらいかかるのでないかと言われています。

世帯収入を聞いたところ、震災前より減っていると答える方が多く、200万円未満の低所得の方が震災前の22%から38%と倍近くに増えていました。

私の専門である健康問題でいうと、持病が悪化した方32% 震災後に高血圧・コレステロール値が高い・糖尿病・精神疾患など新たに病気となった方が4割近くいます。

被災者の約半分の方が抑鬱をかかえていることが分かりました。困難を抱えると、うつになり易いのです。コミュニティーの再生が必要であり、経済状況の改善も必要です。

地方創生チャレンジII-6

心の問題をいうとカウンセリングなど“心のケア”ばかり言われるのですが、これは傷口にバンドエイドを貼るようなもので根本的解決になりません。社会や経済の復興が心の復興をもたらし、人間の復興を成し遂げるのです。


データを使って地域産業と仕事づくりに関わる

~復興支援センターMIRAI代表(福島県相馬市)押田一秀さん

復興支援センターMIRAI 代表 押田一秀さん

復興支援センターMIRAI
代表 押田一秀さん

押田:私自身は埼玉出身で、震災後に福島に入り、現在は相馬市を中心に東北に密着する“よそ者”の観点から地域の仕事づくりを支援してきました。

2011年7月にNPO法人化した「相馬はらがま朝市」で60人を超える雇用創出をしました。その後、復興レストランをオープンしたり、復興関連事業の企画制作や産業創出のサポート施設「復興支援センターMIRAI」を設立しました。

相馬市復興支援センターMIRIのfacebook https://ja-jp.facebook.com/somamirai/

相馬市復興支援センターMIRIのfacebook
https://ja-jp.facebook.com/somamirai/

きょうのテーマは、事業にデータをどのように活かすかという話です。

私たちは住民を対象とした調査と事業者を対象とした調査の2つに分けて活動しています。まず、事業者を対象としたデータについて説明します。福島県の浜通りは、津波に加えて原発による放射能の問題があります。

相馬市は、黒潮と親潮がぶつかる日本でも有数の高級魚が獲れる水産業が栄えた地域です。震災前の市内の総生産が1,600億円という比較的裕福な土地でした。1000年以上の神事「相馬野馬追い」や日本百景にも選ばれる観光地もあります。年間180万人ほど訪れる海水浴場もあります。

震災後はどうなったかというと、観光客は53万人にまで減少し、漁獲は現在67種だけに限られています。

相馬は宮城県との県境にあり、原発の30キロ圏の外側にあります。20キロ圏内はいまだに帰宅困難の状況ですが、30キロ圏内は徐々に人も戻り産業も起き始めています。ただ、いまも風評被害は深刻です。

そのため観光資源が活かされず、雇用のミスマッチも起きています。有効求人倍率2.4倍という数字はあるものの、実際の失業率がどのくらいか分からない状況です。

どういうことかというと、漁業者は漁業を続けていると補償金をもらえるため、漁業をやっていることになっているが、実際はやっていない人も多いわけです。

1次産業と2次産業では補償金が違います。1次産業には手厚い補償金が出るものの、2次産業に従事した方にはほとんど補償金は出ません。2次産業の方は仕事を変えてしまうか、土地を離れてしまう、そういう現状があるのです。

補償金が止まったときに、人々はどうなるのか、町はどうなるのか。新たな産業を育てる取り組みが必要なのですが、その前に地域の産業構造の実態が見えないという大問題がありました。そこで事業所のマッピング化をスタートしました。

どこで誰が何をしているのかを明らかにする作業です。2014年にボランティア約600人を使って、グーグルマップを塗りつぶしながら、ローラ作戦で、仕事をしているのかしていないのか、仕事をしていたらどんな仕事をしているのか、登録時と合っているか合っていないかなどを調べました。

現在1727ある事業所のうち、1601事業所を回りました。残りの100は場所も見つかっていないので、慎重に検証なければなりません。賠償金や補償金では、登録の場所を変えるとお金をもらえなくなるケースもあるので登記情報をあえて変えない場合もあります。

2015年度は、1度マッピングを行った事業者に対して、さらにヒヤリングを行いました。震災後、何に困っているか、業績は上がっているか、新商品が生まれているか、などを探っています。例えば学習支援の場所のデータは、事前のデータよりも私たちがマッピングしたデータの数が多かったのです。こんな結果がまだまだ出てくると思います。

住民を対象とした調査は、2011年7月からスタートし、現在も継続しています。私たちは仮設住宅に住んでいる方の生活物資や食品の買い物支援もしており、そのリソースを使って仮設住宅に住んでいる方がどんな状態なのかをヒヤリング調査して市に提供するという活動も行っています。

地方創生チャレンジII-8

面白いデータがありました。観光は全部数字が落ちていると思っていたら、震災の影響を全く受けないサンドゴルフというのがありました。

事業所マッピングからは、例えば、個々の事業所の課題が見えてきます。人手が欲しいとか、ホームページが欲しいという事業者が意外と多いのが分かりました。ITに疎い土地であるにも関わらず、20%以上の事業者からホームページの要望があり、先月IT系企業の方と連携して100の事業者に対してホームページを作成する支援を行いました。

石川:通常、データを集めてパワーポイントなどで資料をつくりますが、活用が問題です。つくられたデータはどのように活用されているのか、小松さんと押田さんに聞きたのですが…。また、辻内さんには仮設住宅に住んでいる10,000人の方のデータを今後どう活用されようとしているのかお聞きします。

進行役を務めたNPO法人ETIC.リサーチ・ディレクター石川 孔明さん

進行役を務めたNPO法人ETIC.
リサーチ・ディレクター石川 孔明さん


データがあれば説得のベースになる

小松:民間ベースでは、事業者に活用してもらいます。また、この街で起こっていることを理解してもらうため、さまざまな討論会でも使われています。地元の議会では地方創生が動き始めているため、議員さんにもデータの活用をお願いしています。行政は、「まち・ひと・しごと創生戦略会議」をつくっているので、そちらにも活用してもらっています。

私たちも行政と一緒に活動しているので、行政との議論の土台ができたと思っています。

例えば、2040年までに人口を何人にするかという議論があります。その際、移住者を増やすのか、出生率を上げるのか、人口減少を減らすのかという議論を詰めています。

押田:相馬市と一緒にやっていますが、市の名前でできない理由があります。登録情報と違う所が出てきた場合、市は取り締まらなければない立場です。

仕事づくりの交流人口を増やすのがこの事業の目的です。まず地元の情報発信をし、「相馬本家」という物産ECサイトを立ち上げました。相馬市の情報を発信し、「買う・行く・働く」などの導線をつくれないかと模索しています。定期開催している「相馬未来ミーティング」でも徐々に使い始めています。

私が力を入れたいのは起業家の誘致です。相馬市で事業を立ち上げるための根拠をデータで見せたいと思います。

辻内:NHKの番組の視聴率は8%でした。全国で800万人の方が見たことになります。私の専門である医療や福祉の分野では、メンタルヘルス(心のケア)が叫ばれていますが、それだけでは駄目で、経済的な課題をしっかり解決していかなければいけません。

私自身、経済や産業方面とのつながりがなかったこともあり、10,000人のデータがありながら“宝の持ちぐされ”になっていると反省しています。1つだけ釜石大船渡エリアの保健所の所長さんから連絡があり、「仮設住宅に住んでいる方がどういう健康状態なのか、教えて欲しい」との依頼でありました。分析したところ、例えば大槌町の人たちには心的ダメージが強く、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の割合が高いことが分かりました。町が巡回バスを走らせました。

10,000人の声を学術の分野だけで使うのはもったいないので、この場で企業の関係者から知恵をいただきコラボしていけたらと思います。

石川:小松さんに。トライセクターやハブの活動で垣根を越えて活動していますが、どのセクターとの連携が弱いのか、工夫されていることがありましたら……。

小松:一番連携が難しいのは行政です。理由は明確で、思想と言語が違います。行政は公平でなければならないというベースと、民業を圧迫してはいけないというのが前提になっています。それぞれの役割を理解しつつ連携していきたいと思います。(2016年1月)


本イベントは、共に震災復興支援に取り組んできたETIC.とジャパン・ソサエティーが主催して行われました。
なお、2月27日には以下のようなフォーラムも開催されます。興味のある方はぜひご参加ください。

●ローカル・イノベーターズ・フォーラム2016@東京
~東北・日本・世界から考える、地方創生にチェンジメーカーが果たす役割~

http://thinktohoku.etic.or.jp/227event/


NPO法人ETIC

http://www.etic.or.jp/index.php


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