CSRフラッシュ

富士山さんから日本を変える

エベレストや富士山で清掃活動を続けてきた登山家・野口健さん。このほど新宿区教育委員会が主催する「環境学習発表会」で小学生や父兄を相手に、環境を守ることの大切さを訴えた。

エベレストや富士山で清掃活動を続けてきた登山家・野口健さん。このほど新宿区教育委員会が主催する「環境学習発表会」で小学生や父兄を相手に、環境を守ることの大切さを訴えた。

生徒たちに語り掛ける登山家・野口健さん

生徒たちに語り掛ける登山家・野口健さん

努力すればできることがある

世界にはいくつ大陸があると思いますか。(子どもたちから4つ、6つ、7つなどの声あり)そう南極も含めると7つの大陸があります。ぼくはその7つの大陸にある大きな山を25歳までにすべて登りました。当時の世界7大陸最高峰登頂の最年少記録となっています。

※編集部注1:16歳でモンブラン(4,808 m 、ヨーロッパ大陸)、17歳、キリマンジャロ(5,895m、アフリカ大陸)、19歳、コウジスコ(2,230m、オーストラリア大陸)、19歳、アコンカグア(6,960m、南米大陸)、19歳、マッキンリー(6,194m、北米大陸)、21歳、ビンソン・マシフ(4,897m、南極大陸)、22歳でエルブルース(5,642m、ヨーロッパ大陸)、25歳、エベレスト(8,848m、アジア大陸)

※編集部注2:エルブルースはコーカサス山脈の最高峰。ソ連崩壊後、ヨーロッパ大陸の最高峰となった。

少年時代のぼくは勉強が嫌いでした。今でいう落ちこぼれです。ケンカばかりしていました。高校生のころ先輩をなぐって1カ月の停学処分になりました。そんな頃、たまたま手にしたのが冒険家・植村直己さんが書いた『青春を山に賭けて』という1冊の本でした。

※編集部注3:植村直己さん:登山家・冒険家、1970年に世界初の五大陸最高峰登頂者となった。1984年、43歳の誕生日に世界初のマッキンリー冬期単独登頂を果たしたが、その後行方不明となった。

植村さんの本に出合って、山にコツコツ登ることなら、ぼくにもできるのではないかと思いました。

ある山岳会に無理やりお願いして、冬の富士山に初めて登りました。そのとき教えられたのは、自分で登ったら、自分で下りてくるということでした。

その後もコツコツ努力をした結果、1999年に25歳でエベレストに登れました。頂上はわずか3畳ほどの場所です。そこから下りるのは本当に怖いのです。ぼくはボロボロ泣きました。頂上に登れて感動して泣いたと勘違いしている人もいますが、実は怖くて泣いたのです。

ヒマラヤのような大きな山では毎年のように遭難が起きます。あちこちで人が死んでいます。ぼくの登山でも雪に埋もれた死体と出会いました。ぼくも死ぬかもしれないと思いました。


エベレストは日本人登山家が捨てたゴミでいっぱい

エベレストの登頂に成功した後、「次はエベレストに清掃登山する」と発表しました。それには理由があります。実はエベレストに初めて挑戦して失敗したとき、海外の登山家たちの呼びかけでベースキャンプ周辺のゴミ拾いが始まりました。ロープやカップ麺の容器や空き缶にやたらと日本語の漢字やカタカナが目立つのです。

実はエベレストに登って、ぼくもゴミを捨ててきました。一番大きなゴミは酸素ボンベです。1本5キロもあります。1本で6時間しか使えません。頂上へのアタックでは5キロのボンベを3本持って行きます。使い終わったボンベは重いので、山の岩陰に目立たないようにおいてきました。

外国人のある登山家から「日本人はヒマラヤも富士山のようにするのか…」と皮肉を言われました。富士山はきれいな山だと反論しましたが、冬の富士山しか登ったことがありませんでした。そこで日本に帰って調べると、富士山もゴミの多い山だったのです。

野口兼さん2

それまでゴミに無関心だったぼくは、まずエベレストの清掃登山をすることにしました。現地のシェルパを雇って、日本人の協力者たちとゴミを拾うのですが、高山病になって大変でした。エベレストでは清掃活動も危険な重労働だったのです。

清掃活動には、各国の登山隊も協力してくれました。いつしか「清掃登山の野口」と呼ばれるようになっていました。


富士山をもっと美しい山にしたい

エベレストでゴミ拾いをしていると富士山が気になりました。海外の登山家たちは「富士山は世界一汚れた山」だと言うのです。

2000年に夏の富士山に初めて登りました。山頂には自動販売機がズラリと並んでいます。空き缶があちこちに落ちていました。

実は夏の富士山には白い河が流れていました。なんだと思いますか。(子どもたちからはおしっこ、ビニールの袋などの声あり)白い河の正体はトイレットペーパーです。富士山にはひと夏で約30万人が登ると言われています。おしっこやうんこは土に浸み込んでも、トイレットペーパーは浸み込みません。

富士山クラブなどのNPOに協力して、「富士山清掃登山」「青木ヶ原樹海ゴミゼロ作戦」を行うようになりました。青木ヶ原樹海には、タイヤ、バッテリー、冷蔵庫、注射器など不法投棄のゴミでいっぱいでした。

あれだけのゴミは一人では拾えません。一緒にゴミを拾う人を探しました。でも最初はなかなか人が集まりません。それでも少しずつ参加者が増えていきました。

今では毎年約7,000人が参加し、最高で85トンのゴミを拾うまでになりました。最近では富士山の五合目から上ではゴミがどんどん減っています。今、私が富士山に登ると何人もの人が声を掛けてきます。「野口さん、私もゴミを拾ってきましたよ」とゴミを見せてくれる人もいます。

あちこちでゴミを拾うと、捨てづらくなります。もし、30万人の登山者たちがひとつずつゴミを拾えば、それだけで30万個のゴミがなくなる計算です。

環境の「環」という言葉には「わ」という意味もあります。人が輪になって環境を良くすることができれば、いつしかまわりまわって人々がもっと健康に生きることができます。自然も蘇ります。それをみんなでやろうというのがぼくたちの環境の取り組みです。

野口さんの講演を熱心に聞く新宿区の小学生たち

野口さんの講演を熱心に聞く新宿区の小学生たち


新宿区が力を入れる環境学習

この日の「環境学習発表会」には、新宿区内の津久戸小学校、江戸川小学校、市谷小学校、愛日小学校、早稲田小学校、鶴巻小学校の4年・5年生110人参加し、それぞれの学校が行う日頃の取り組みについても発表を行いました。また、鶴巻小学校、落合第四小学校、西新宿小学校からは活動をまとめた展示発表も行われました。

野口兼さん4

講演会場となった新宿区立鶴巻小学校では、この日、新宿区に拠点をおく企業やNPOなど64団体が登録する新宿の環境学習応援団=「まちの先生見本市」も体育館を使って開催されました。官民をあげた粘り強い取り組みの“輪”が広がっています。

※野口さんの講演内容は野口さんの当日のお話を当編集部で要約したものです。文責はあくまでも当編集部にあります。

新宿区の環境学習に対するお問い合わせは


エコギャラリー新宿(新宿区立環境学習情報センター)
〒160-0023 東京都新宿区西新宿2-11-4(新宿中央公園)
電話 03-3348-6277 FAX 03-3344-4434


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