企業とNGO/NPO

2030年の社会はこうありたい

なぜ、私たちは「持続可能な開発目標(SDGs)」に取り組むのか

2015年9月の国連総会で加盟193カ国が採択したSDGs。Sustainable Development Goalsの略で「持続可能な開発目標」と訳されます。13年後の2030年までに、「貧困」「教育」「環境」など世界が抱える17の課題解決をめざしています。私たちの暮らしにも少なからぬ影響があるだけに、本誌でも取り上げていきます。1回目はシャンティ国際ボランティア会が開催した勉強会の模様から伝えます。

[2017年7月27日公開記事]

SDGsの勉強会。三井住友海上のECOM駿河台で

SDGsの勉強会。
三井住友海上のECOM駿河台で

           

13年先の地球に、あなたはどんな役割を果たせるのか

講師 鈴木 晶子さん (公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 広報課 課長)

講師 鈴木 晶子さん
(公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 広報課 課長)

SDGsを直訳すると、「持続可能な開発目標」と訳されます。「持続可能な開発」とは何かというと、《環境・社会・経済》の3分野がバランスよく整った社会といえるでしょうか。今を生きる私たちだけでなく、子や孫の世代にもそんなバランスの取れた社会を引き継いでいかなければなりません。

ゴールとされるのは2030年。そのとき、あなたは何歳で、あなたを取り巻く《環境・社会・経済》はどうなっているでしょうか。一人ひとりが自分事として考えてみたいものです。


歴史をさかのぼると

東西冷戦が終わりかけた1980年代、多くの国で市場経済メカニズムに依拠する開発手法が採用されました。ところがそれは順調に進むどころか、貧困の拡散と悪化をもたらし、新たな地域紛争の引き金となりました。

その反省もあって1990年代には貧困に対する関心が高まり、1995年に開催された世界社会開発サミットでは、「人間中心の社会開発をめざし、世界の絶対貧困を半減させる」という目標が提示されました。

こうした動きを統合して生まれたのがMDGsです。21世紀という新しいミレニアムの始まりを前にした2000年9月の国連で採択されたため「ミレニアム開発目標」と呼ばれました。

MDGsは、「貧困」「環境保全」など8つの共通目標を掲げていました。

目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
目標2:初等教育の完全普及の達成
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
目標4:乳幼児死亡率の削減
目標5:妊産婦の健康の改善
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
目標7:環境の持続可能性確保
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

これらの目標は国連の特定機関でつくられたため、策定のプロセスに当事者たちが参画できなかったこと、また目標値そのものも理想を追ったため、結果として100%の目標達成がかないませんでした。それらの反省点を踏まえ、2011年から改めて新しい次の目標の設定が必要だということになりました。それがSDGs登場の背景です。


だれ一人取り残さない“変革”を

SDGsの特徴は6つほどあります。1つめは、「貧困の改善」「環境保全」の2つの柱からなっていること。

2つめは、「途上国だけでなく先進国も対象」だということ。これまでは途上国が発達すると世界は良くなるという発想でしたが、それだけでは良くならなかったのです。たとえば先進国であるはずの日本をみると、その足元に貧困、環境、高齢化などさまざまな課題が横たわっています。途上国と先進国が手を携え、知恵を出して真剣に取り組まなければ、問題の解決はありえません。

3つめは、「格差の解消」です。世界の富の半分は、世界の1%の人間が握っているといわれます。世界の上位85人がもつ資産は、その他35億人の総資産と同じくらいです。現実は、富める人が富み、貧しい人はさらに貧しくなっています。

4つめは、「実施手段の明確化」。MDGsでも目標はつくりましたが、どのように実現していくかというところまでは決めきれず、実現できなかった課題もありました。SDGsでは実施手段をより明確化しました。

5つめは、「多様な主体が参画」できるようにしたこと。途上国と先進国のそれぞれで、企業、学生、個人などそれぞれの立場で参画し、みんなが行動に移さなければ課題は解決できないということを明らかにしています。

6つめは、今必要なのは「改革ではなく変革」であり、少しだけ変えても地球が抱える課題は解決に至らないと述べています。大胆な変革が必要なのです。


5つの基本理念に込められたもの

共通するのは5つの基本理念です。People(人間), Planet(地球), Prosperity(豊かさ), Peace(平和), Partnership(パートナーシップ)からなるため5つのPと呼んでいます。人間、地球、豊かさ、平和のための目標であり、国際社会のパートナーシップにより実現をめざします。

シャンティSDGs3

人間 (people)  – すべての人の人権が尊重され、尊厳をもち、平等に、潜在能力を発揮できるようにする。貧困と飢餓を終わらせ、ジェンダー平等を達成し、すべての人に教育、水と衛生、健康的な生活を保障する

地球 (planet)  – 責任ある消費と生産、天然資源の持続可能な管理、気候変動への緊  急な対応などを通して、地球を破壊から守る

豊かさ (prosperity)  - すべての人が豊かで充実した生活を送れるようにし、自然と調  和する経済、社会、技術の進展を確保する

平和 (peace)  – 平和、公正で、恐怖と暴力のない、インクルーシブな(すべての人が受け入れられ参加できる)世界をめざす

パートナーシップ (partnership)  – 政府、民間セクター、市民社会、国連機関を含む多様な関係者が参加する、グローバルなパートナーシップにより実現をめざす


7の目標は、地球が抱える課題の縮図

シャンティSDGs4

上の図は、SDGsが掲げる 17の目標を象徴するロゴですが、1番目から6番目までは「貧困の改善」を達成するために設けられている課題です。MDGsの流れを引き継ぎ、それに沿ったものといえるでしょう。

7番目から12番目までは新しく制定された課題です。7番目の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」から、12番目の「つくる責任つかう責任」までは、私たち日本人にとっても身近な課題です。これらの目標はどちらかというと先進国、あるいは企業が主体となって取り組み、達成すべき目標となっています。

13番目から17番目までは国や立場を超えて、地球全体で守っていくべき課題を示しています。なかでも13番目から15番目までは「気候変動」「海洋資源」「陸上資源」など環境系の目標となっています。16番目の「平和と公正をすべての人に」と17番目の「パートナーシップで目標を達成しよう」は、より包括的な目標設定になっています。

17の目標の下には、2030年までに解決すべて169項目の具体的な課題が提起されています。数値目標も明らかになっており、一度、ぜひご覧ください。


日本でも始まっているSDGsの取組み

2016年5月、わが国も『持続可能な開発目標推進本部』を立ち上げました。総理をトップに全省庁が構成メンバーとして参加し、私たちのようなNGO/NPO、経団連などの民間企業、科学者団体、労働組合からも参加して定期的な会合が行われています。

先ほど17の目標に触れましたが、わが国は「あらゆる人々の活躍の促進」「健康長寿の達成」「成長市場の創出、地域活性化、科学技術のイノベーション」「持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備」「省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会」「生物多様性、森林、海洋等の環境の保全」「平和と安全・安心社会の実現」「SDGs実施推進の体制と手段」の8つに力を入れようとしています。

また、現時点で4,500億円の支援を約束するとともに、「教育」「保健」「ジェンダー (性差による不平等の是正)」の3つの分野に新政策を導入します。

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会とは
http://sva.or.jp/
人間の尊厳と多様性を尊び、「共に生き、共に学ぶ」ことのできる平和(シャンティ)な社会の実現をめざす国際NGO。35年にわたってタイ・カンボジア・ラオス・ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ・アフガニスタン・ミャンマー・ネパールの7カ国8地域で、図書館事業、学校建設事業、緊急支援活動を行ってきました。この日の勉強会のあと、参加希望者が日本語の絵本に活動国の翻訳シール貼りを行いました。シャンティでは年間1万8,100冊の絵本をアジアの子どもたちに届けています。

カンボジアで行われている識字教室

カンボジアで行われている識字教室


タイ国境難民キャンプでの図書館活動(c)川畑嘉文氏撮影

タイ国境難民キャンプでの図書館活動
(c)川畑嘉文氏撮影

あなたにもできる翻訳シール貼り
シャンティ国際ボランティア会ではアジアの子どもたちに贈る絵本に現地語の翻訳シール貼りを行っています。詳しくはhttp://sva.or.jp/

シャンティSDGs7シャンティSDGs8


SDGsはなぜ企業にとって重要か

SDGsは企業活動とも無関係ではありません。企業活動の本来の目的は、利益の追求ですが、SDGsが目指す地球規模の課題解決なしには、企業とて健全な経済活動が困難なものとなるからです。国連の下部機関の1つであるSDGコンパスによれば、企業がSDGsに取り組むことで、以下のような効果が期待できると述べています。

➀将来のビジネスチャンスの見極め

SDGs は、地球規模の公的ないしは民間の投資の流れを、SDGs が代表する課題の方向に転換することを狙いとしています。そうすることにより、革新的なソリューションや抜本的な変革を進めていくことのできる企業のために、成長する市場を明確にしています。

今年のダボス会議で、SDGsに取り組むことで12兆ドルの経済効果がもたらされるという調査報告が出されました。また、3億8,000万人の新しい雇用が生まれ、特にエネルギー、都市開発、農業、保健の4つの分野に取り組むことで、その可能性は2倍にも3倍にもなると言われています。

の課題に取り組む先進的な企業にとって、SDGsはビジネスチャンスそのものです。

➁企業の持続可能性に関わる価値の向上

企業の持続可能性のための理論的根拠はすでに十分に確立されているが、( 環境コストなどの) 外部性がますます内部化されるに伴い、たとえば、企業が資源をさらに効率的に利用し、あるいはより持続可能な代替策に転換するような、経済的なインセンティブを強化できます。

消費者の意識も変わってました。同じ商品を購買するならより環境にやさしいもの、社会のためになるものを選択するという動きが高まっています。

③ステークホルダーとの関係の強化、新たな政策展開との同調

SDGs は、国際、国家、地域レベルで、ステークホルダーの期待と将来の政策の方向性を反映しています。SDGsと経営上の優先課題を統合させる企業は、顧客、従業員その他のステークホルダーとの協働を強化できる一方、統合させない企業は、法的あるいはレピュテーションに関するリスクにますますさらされるようになります。

インドは貿易赤字を抱えており、インド国内の空気汚染もひどい状態です。2030年までにインド国内で走るクルマはすべて電気自動車にすると決めました。インド国内でつくる自動車についても今後は電気自動車にシフトしていきます。そのための新規投資や新たな雇用を進めていこうとしています。

④社会と市場の安定化

社会が機能しなければ、企業は成功できません。SDGsの達成に投資することは、ルールに基づく市場、透明な金融システム、腐敗がなく、良くガバナンスされた組織など、ビジネスの成功に必要な柱を支援することになります。

SDGsの領域、つまり社会課題に投資をすることで、将来を見込んだ市場の獲得ができるとされています。

⑤共通言語の使用と目的の共有

SDGs は、共通の行動や言語の枠組みを提供することにより、企業が、その影響やパフォーマンスについて、より一貫して、より効果的に、ステークホルダーと意見交換を行うことを支援します。SDGs は、世界の最も緊急な社会的課題に取り組むために相互に協力できるパートナーを結びつける。

これまで企業とNGO/NPOの間には共通言語が稀薄でした。SDGsという共通目標が生れたことにより、同じ言葉で同じ目標が伝わるようになりました。

※この記事は、7月12日に開催された「SDGsのきほん」と題する勉強会の内容を要約しました。字数の関係で、鈴木さんの講演内容の一部を要約または割愛しました。文責は当編集部にあります。


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