野生の鹿肉を、良質のペットフードに

クマが人を襲った。イノシシが田んぼを荒らし回った。各地で鳥獣害が広がっている。なかでも鹿の増加は森林資源に大きな被害をもたらしている。オーガニックコットンで知られる㈱アバンティ(代表取締役社長 渡邊智惠子)では、この鹿の害に着目、「一般財団法人 森から海へ」を設立して、野生の鹿肉をペットフードとして販売する事業をスタートさせた。
[2017年10月2日公開]

愛犬家にうれしい話

愛犬家にうれしい話


繁殖した鹿が森の生態系に大きなダメージを

Q1 『森から海へ』の設立はどのようなきっかけからでしょうか。

渡邊: もう4年以上前になります。長野県の知り合いで鹿の研究をしている人たちと接点がある方からお誘いがありました。フォレストセラピストの女性と一緒に金峰山(標高2,599 m、日本百名山の1つで長野県と山梨県の県境に位置する)のキャンプ場に行きました。。

㈱アバンティ代表取締役社長渡邊智惠子さん

『森から海へ』代表( ㈱アバンティ社長)
渡邊智惠子さん

ところが、緑の森の中にあったはずのキャンプ場が荒涼とした場所になっていました。木の新芽どころか、ディアラインと呼ばれる鹿が届く範囲の一切の緑が食べられていました。

鹿の食害に関する情報を集めると、もう1つ大きな問題が浮かび上がりました。野生の鹿は、各地で捕獲されているにも関わらず、その90%が利用されることもなく捨てられているというのです。

鹿による食害

鹿による食害

野生の鳥獣の肉は、ジビエと呼ばれてヨーロッパでは貴族の伝統料理として発展し、近年はわが国でも珍重されるようになっていますが、食肉の衛生管理が厳しいわが国では、捕獲から2時間以内に解体所で適正に処理されたもの以外は流通できません。そのため、せっかく捕獲された鹿が利用されることもなく、廃棄されたり焼却処分されていたのです。


Q2 天然の鹿肉の90%が利用もされていないというのは、「もったいない」ですね。野生の鹿がなぜそんなに増えたのでしょうか。

渡邊: いくつかの要因が重なっていると思われますが、もっともシンプルに言えば地球の温暖化でしょうか。

かつて山間の厳しい冬を子鹿が越冬する確率はかなり低いものでした。ところが、最近では地球の温暖化で積雪量が減少したことから、越冬する子鹿が増加し、里山だけでなく高地にも鹿が生息域を広げるなど、全国的に鹿の個体数が増えています。

動物行動学の専門家である麻布大学の南正人准教授によると、栄養状態の良い本州や北海道の鹿は、2歳から子供を産みはじめ、十数歳で死ぬまで毎年子供を産み続けるそうです。

宮城県石巻市の沖にある金華山は、鹿が島の自然の許容量一杯まで増えて、食物を食べ尽くし、シバのような植物しか残らなくなりました。そのため、今度は鹿が栄養を摂れなくなっています。

このまま手をこまねいていると、日本の各地で野生の鹿が大繁殖し、緑の森林帯の多くが鹿の食害ではげ山になりかねません。森の生態系は、きれいな水と空気を生産し、野生動物を育み、人間の生活に恵みをもたらしてきました。そして、豊かな森はきれいな水と栄養分を海に供給する役割も果たしています。それが自然の構成員である鹿の増えすぎで大きな影響を受けているのです。生態系のバランスを崩さない程度まで、鹿の増加を抑える必要があります。

私はオーガニックコットンと出会い起業しました。遺伝子組み換え種の普及にも抵抗し、天然の綿でつくったオーガニックコットンを使用したメイドインジャパンの衣服にこだわって、「アバンティ」を業界トップクラスにまでしました。

    オーガニックコットンのアバンティでは、ペット用の衣服も。写真は上がタンクトップ、下が長袖Tシャツ


オーガニックコットンのアバンティでは、ペット用の衣服も。
写真は上がタンクトップ、下が長袖Tシャツ

また、阪神淡路大震災や東日本大震災でも地域の復興に役立とうと、さまざまな活動を展開してきました。いわば社会起業家のはしりともいえる存在だと自負しています。そんな私が日本の森林生態系のバランスを崩す、鹿の繁殖を抑制するだけでなく、森を守り、野生動物を含む自然を良い状態で維持することを事業としてなんとかできないかと考えたのです。それが一般財団法人 森から海への設立となりました。


ペットの健康も考えた安全・安心なペットフードを実現

Q3 『森から海へ』では、捕獲した鹿の肉をペットフードとして加工し、活用する仕組みづくりを進めているようですが……。

渡邊: 全国の森林地帯では、かつてはマタギと呼ばれる猟師が地域の鳥獣を捕獲し、生業としていました。その後、趣味で鳥獣を捕獲するハンターが増えましたが、いまでは大きく減少しています。

ハンターたちは、行政からの依頼で有害な鳥獣の捕獲も担っており、一時はハンターの高齢化と減少によって捕獲数が減っていました。しかし、国が事業費を増やしたこともあり、鹿の捕獲頭数は増える傾向にあります。

ただ、捕獲した鹿の利用にあたっては、衛生基準などが厳しいことから、そのほとんどが利用されることなく、廃棄されたり焼却処分されているのです。

麻布大学の南正人准教授など有識者の意見にも耳を傾けた結果、鹿肉を加工して愛犬家のペットフードに利用するのが一番の近道だと考えるようになりました。

最近では、ペットにも成犬病や皮膚病が広がっていると聞いています。ペットフードには、低価格で大量に販売することを目的とした健康を気づかっていないものも多く、ペットの健康な“食の改善”が課題となっています。

私たちがペットフードの原料としている鹿は、野生の木や草など天然の植物だけを餌にしており、その肉は高ミネラル、高タンパク、低脂肪だと言われています。そのため「鹿のめぐみ」とネーミングしました。

販売を始めた「鹿のめぐみ一般食」のパッケージ

販売を始めた「鹿のめぐみ一般食」のパッケージ


「鹿のめぐみ」野生鹿ジャーキー 60g 1,200円(税抜き)

「鹿のめぐみ」野生鹿ジャーキー 60g 1,200円(税抜き)

野生の鹿肉(丹波産)を使用した素材そのままの美味しさをとじ込めたジャーキーです。

「鹿のめぐみ」野生鹿スティック 50g 1,800円(税抜き)

「鹿のめぐみ」野生鹿スティック 50g 1,800円(税抜き)

野生の鹿肉(丹波産)、内臓、ドライトライプ、骨。それぞれの持つ栄養素を損なわないようにブレンドしたスティックです。

「鹿のめぐみ」野生鹿ドライトライプ 30g 1,500円(税抜き)

「鹿のめぐみ」野生鹿ドライトライプ 30g 1,500円(税抜き)

丹波産の野生の鹿肉(胃の内容物)を乾燥させたドライトライプ。 「トライプ」には乳酸菌が多く、消化酵素含まれていますので内臓から愛犬を元気にしてくれます。


Q4 ペット犬を家族同様大切にしている愛犬家は増えています。ただし、一般のペットフードに比べるとやや割高な印象もあるのですが。

渡邊: まだ、スタートして間もないため、大量生産に入れません。せっかく出発した新しい事業ということもあり、パッケージなどの包装材にもかなりクオリティーを追求したため、価格面ではやや割高な印象が残るかもしれませんね。

ただ、購入いただいたペットフード「鹿のめぐみ」の利益は、鹿を捕獲するハンターの収入として還元されるほか、森を守る専門家の育成資金などに活用する計画です。持続可能な地球環境の維持にも貢献できるはずです。


「鹿のいのちを無駄にしたくない」という熱意のある方に

Q5 鳥獣害の被害は年々深刻になっています。この事業が軌道に乗れば、新しい問題解決策として各地の取り組みにも勇気を与えるのではないでしょうか。

渡邊: 私たちが鹿に注目したのは、鹿によって各地ではげ山が広がるようになれば、森を覆っている表土が大雨などでさらに押し流され、国土の保水力の源となる、に至る自然の循環システムに取り返しのつかないダメージを与えかねないと考えたからです。

いまなら間に合います。強い意志をもって森を守る人材の育成を図り、“森から海へ”つながる自然の循環の仕組みを維持しなければなりません。

課題は、この活動の意義を理解する販売協力者の獲得です。当面はモニターを募集し、「鹿のめぐみ」を実際にモニタリングしてもらうと同時に、その効能を広めていきたいと考えています。

現在はWEBのオンラインストアを中心に販売していますが、商品の品質や社会的な活動に意義を見出してもらえる生協などへの販路拡大を目指していきます。

コラム: 読者のみなさまにお願い
「一般財団法人 森から海へ」の活動に関心のある方で、「鹿のめぐみ」の普及をお手伝いいただける方、「鹿のめぐみ」をご自分のペットに試したいモニター(先着200名)希望の方などを募集しています。お気軽にお問い合わせください。

●本件に対するお問い合わせは

一般財団法人 森から海へ
Info@morikaraumie.jp
http://morikaraumie.jp/


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