企業とNGO/NPO

幻の巨大魚 イトウを守る

北海道猿払村での取り組み

日本最北端の村・猿払村にはいまも幻の淡水魚イトウが生息する。2009年に設立された猿払イトウ保全協議会では、猿払川一体の地権者である王子ホールディングスや猿払村と連携し、イトウの保全環境の整備などに熱心に取り組んできた。このほど東京で行われたイトウシンポジウムの模様を伝えたい。[2017年11月15日公開]


イトウのお腹の中を描く猿払村の子どもたち

イトウのお腹の中を描く
猿払村の子どもたち

絶滅が危惧されるイトウ

幻の淡水魚イトウは、かつては本州の北の各地で見られました。しかし、いまでは環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定され、北海道でも11水系しか生息が確認されていません。

イトウが生息する北海道各地の図

イトウが生息する北海道各地の図

今回のシンポジウムは、いまもイトウの生息が確認されている北海道猿橋村の猿払イトウ保全協議会が呼びかけ、猿払村の土地の30%を社有林として保有する王子ホールディングスが協賛し、猿払村が全面協力して行われたもの。

冒頭、あいさつに立った猿払イトウ保全協議会会長の小山内浩一さんによれば、2003年から環境NPOワイルド・サーモン・センター(アメリカ・オレゴン州)の助言や提案を受け、イトウの保全環境を整えるため、河川の落差を解消するなど産卵場所の確保に向けた活動などを続けています。


イトウという巨大魚の生態

サケ科に属するイトウは、産卵しても死なないことが特徴です。通常、20年から30年生きるとされています。世界には4種類のイトウがいるといわれていますが、日本で見られるイトウは、体長は1メートルから1.5メートルあり、国内で最大の淡水魚です。記録では十勝川で捕れた2.1メートルのイトウの写真が残っています。

川を遡上するオスのイトウ

川を遡上するオスのイトウ

イトウの1年を見ると、冬は淡水である猿払川の水温の安定している中流域で越冬し、4月に産卵のため上流域に移動します。4~5月に産卵した成魚と新魚がそのまま下流にくだり海の近くの河口域で体を慣らします。淡水域だけで暮らすイトウもいるようですが、猿払村のイトウは海に出るとされています。越冬のため9月10月に河川に戻り、淡水域に移って越冬します。

猿払川では、流域が深い森で覆われ、ダムなどの河川工作物も少ないので、過去20年ほどは個体数が減少していないとされています。王子ホールディングは広大な社有林の中に環境保全区を設け、猿払イトウ保全協議会の活動をバックアップしています。


絵本作家と写真家、2人のゲストからのメッセージ

今年のシンポジウムでは、イトウが好き、大自然が好き、猿払が好きという2人のゲストが登場。「イトウの森へようこそ」とばかりに熱く語ってくれました。

写真家 知来 要さん


写真家  知来 要さん

写真家 知来 要さん

猿払には30年ほど通っています。この間、猿払はほとんど変わっていません。変わったのはスーパーが夜7時まで開くようになったことと、旅館の壊れたお風呂が直ったことぐらいです(笑い)。

この会場でイトウを見たことがある人いますか。(2割くらいが手を上げる)

オスのイトウは、胸ヒレから下半身は産卵期が近くなると赤くなり、頭だけは黒っぽいという特徴があります。メスのイトウは体中に黒い斑点模様があって、豹のような風貌です。

イトウが産卵するのは、雪解けが始まる4月下旬とか5月上旬。その頃、川に潜ると非常に冷たい雪解けの水で辛かったので、私のペーンネームは「辛いよう」に引っ掛けて「知来要」としました。

猿払には、一度は行きたいイトウ釣りの憧れの場所がいくつかあります。産卵場所の上流域では、オストメスがペアになっています。オスは赤くなり、メスはあまり色が変わりません。初夏を迎える頃、イトウの卵が孵化して7月頃になるとメダカのように泳ぎだします。

猿払川でも堰堤のある場所があり、堰堤を登れないイトウは下流の支流に行って産卵していました。その後、堰堤の真ん中部分をⅤ字にカットして登れるようにしたため、上流で産卵できるようになりました。猿払川は、イトウにとって素晴らしい環境が残っていることになります。

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。

イトウ5


絵本作家 村上 康成さん


絵本作家 村上 康成さん

絵本作家 村上 康成さん

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。私はイトウが大好きです。猿払川は、川幅2メートルぐらいですが、雪が解けて川になる上流にまでイトウが上ってくることを知っただけで感動ものでした。

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。ある日、体長1メートルほどのペアがやってきました。静かな川をのぞくと赤と緑のペアがそこに居ました。その絵は猿払のパン屋さんの店先に掛かっています。

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。熊が出る話を聞いて出かけると、30センチほどの熊の足跡がある場所を踏んづけていました。5本並んだ熊の爪の穴が妙に生々しく、古い毛玉が近くに落ちていました。ビニール袋に入れて持ち帰り、後日それを毛ばりに巻いて、春のイトウ釣りをしましたが、全く反応がありませんでした(笑い)。

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。猿払の子供たちとワークショップをしました。4メートルのイトウの赤いシルエットを最初に僕がこしらえ、「イトウは何を食べているのかな?」と子供たちに聞いて、中に書き込んでもらいました。トゲウオとかウニを食べるイトウは、恵まれた環境がないと生きていけない生物です。イトウのお腹から鹿の角が飛び出てきたこともありますし、イカやヤツメウナギも入っています。

イトウ7

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。共同通信の新聞連載で「水際の珍プレー」を40回続けました。ある日、川岸に立っているとトゲウオが、下からずっと川を遡上してきます。それを待ち伏せして、イトウががばっと一気に食べるのです。

猿払川流域は、生物多様性が守られており、この先も豊かな自然が続くよう、祈っています。

なぜかイトウと関わることが増えて来ました。猿払村は、東京23区に相当するほどの面積に2,684人が住んでいます。漁業があり酪農がありという豊かな暮らしのそばに、とんでもない魚が生きづいている事実に身震いする思いです。

会場では猿払村の物産の展示販売も行われた

会場では猿払村の物産の展示販売も行われた

猿払イトウ保全協議会

猿払村


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