CSRフラッシュ

子どもを性の商品化から守るために

NPOライトハウスのセミナーから

人身取引被害者の支援を行うNPOライトハウス。このほど東京・渋谷で「子ども支援セミナー」を2日間にわたって開催した。コミュニティサイトなどを使った子どもたちへの性の商品化が広がる中、専門家6人がそれぞれの貴重な体験やノウハウを語った。2人の専門家の講演要旨を届けたい。[2017年12月4日公開]


ライトセミナー1


スマホ時代を生きる子どものために――いま大人が知っておくべきこと

兵庫県立大学 環境人間学部 准教授竹内 和雄さん

兵庫県立大学 環境人間学部 准教授
竹内 和雄さん

スマホでなにが変わったか

私は毎年、3万人以上の子どもたちにアンケートやインタビューをしています。いま、小学4年生の男の子に「将来何になりたいか」と聞くと、1位のサッカー選手、2位の医者に続いて、3位にはユーチューバー(YouTubeに動画を投稿し、広告収入を得る人たちのこと)という答えが登場するほど、子どもたちはネットに夢中です。

子どもたちの世界ではスマホの存在は当たり前で、これを否定するのは思考停止とのいわざるをえません。子どもたちがスマホを持っているという前提で、賢く使う方法を考える必要があるのです。

パソコンには外部からウィルスの侵入を防御するソフトが入っていますが、スマホは無防備な場合が多いのです。フィルタリングをしない子どもが増えてきているのは、子どもたちの性被害が増えている理由の1つだと考えています。ウィルスソフトやフィルタリングを賢く使わなければなりません。

私が体験した“生徒間いじめの実態”

かつて私は公立中学校で生徒指導をしていました。子どもたちが不安定な時期があり、生徒間暴力が多発し、不登校生が増えた時期がありました。厳しく指導してもなかなか成果は出ません。ところが学校はさらに荒れていきました。子どもたちの心は厳しい指導だけでは変わらなかったのです。

その後、指導を進めていくと、ネットのいじめの問題が背景にあるということが分かり、その対処を進めると学校が見違えるように落ち着いていきました。さらに、子どもたちの心のケアや、子どもたち自身の自己有用感が高まる取り組みをしていくと不登校や生徒間の暴力などトラブルはほぼゼロになりました。

その後、私は大学の先生になり、子どもたちが被害者や加害者になったさまざまな問題に関わるようになりました。

ネット利用の低年齢化とネット被害

兵庫県のある田舎町の話です。子どものスマホ率は小6で32%。この数字は神戸市よりはかなり低いのですが、子どもたちにネットの接続率を聞くと、中学生で94%、小学6年生で90%でした。この数字は神戸市よりもかなり高い数字です。

都会の子よりも田舎の子の方がネットの接続率が高いのです。楽しみや刺激が少ない田舎の子の方がゲームから始まって買い物もできるスマホはとても便利な存在です。子どもたちはLINEやTwitterを当たり前のように使っています。

実はネット利用の低年齢化の中でいろいろな問題が起きています。「スノー」「ミクチャ」「ツイキャス」などという言葉をあなたは知っていますか。

例えば、「ツイキャス」はネットで無料で生中継できるインターネット上のライブ配信サービスですが、ライブ配信者と視聴者がやりとりができます。

これを使って、子どもたちが飲酒や喫煙シーンを公開したりすることが起きています。低年齢化で大人が予想もつかない問題が起きているわけです。

ライトセミナー3

“いじめっ子”の実像が変わってきた

ある学校で6年生の子どもたちに「あなたの学校のいじめっ子はどういうタイプか」と聞きました。答えとして一番多かったのは、ガキ大将でも優等生でも落ちこぼれタイプでもなく、ドラえもんでいえば、しずかちゃんタイプでした。大人しいはずのしずかちゃんタイプがいじめっ子になりやすいというのです。子どもたちに聞くと、「しずかちゃんがLINEを駆使して、いじめの頂点に立つ」といいます。子どもたちの世界は昔と変わってきているのです。

女の子仲良し6人組がLINEをやっていました。ある原因でA子を仲間外れにしました。どういう方法かというと、別の「グルチャ」をつくってA子さんだけ仲間外れにするのです。子どもたちにとって「グルチャ」から退会させられるのはとても傷つく問題なのです。

大人は、LINEはメールの代わりだと思っていますが、子どもたちにとってLINEは会話です。そこでのやり取りで相手を傷つけたり、ときには自殺に追いやることもあります。

私たちが知らないところで、子どもたちはいろいろなことを始めているわけです。

LINEやTwitterが危険な出会いの場に

出会い系サイトというのはご存知ですか。あるサイトでは、ここから〇〇キロの範囲で何人が出会いを求めているか分かります。ところが最近は警察も厳しくなって、出会い系サイトでは、18歳未満の子どもと大人は出会えなくなりました。入会に免許証等の提示を義務づけるなど厳しく規制したのです。

代わりに使われているのが、LINEやTwitterなどのコミニュティサイトです。警察庁の調査では、出会い系サイトでの子どもの被害は激減していて、その他のコミュニティサイトでの被害が激増しています。女子高生に「どうして、ネットで知らない大人と出会う女の子がいると思う?」と聞きました。ある子は「寂しいんだと思う」と言いました。ある子は「リアル(実生活)がうまくいってないと思う」と、別の子は「ネットしか逃げ場がないと思う」と答えました。ネットに問題があるのではなく、リアルに問題があるからネットに逃れるというわけです。

大阪での調査ですが、見知らぬ人とLINEをやったことがあるかどうかを調査しました。小学生の25.2%、中学生の45.0%、高校生の60.0%が経験あると答えています。大阪の生野区で高校生にデートDVの調査をしたら、暴言や暴力に遭った子は39.3%。性的強要は20.0%もありました。

まず大人の意識が変わらなければ

大阪の2,800人の子供たちにJKビジネスのアンケート調査をしました。JKビジネスを何で知ったかを聞くと、マスコミ、ネット、友だちの順でした。ネットや友だちから聞いた子の危険の認識は低かったです。「誘われたらどうするか」と聞くと約8割の子は断ると答えていますが、16.1%の子は迷うと答えています。7.5%は働くかもしれないと答えています。

性の商品化はネットで氾濫しているので、罪悪感の意識は下がっています。そんな子どもたちにもっと社会の危険性をアピールしていくような機会をつくる必要があります。


被害者支援と加害者治療から
性被害を考える


聖マリアンナ医科大学 神経精神科学 准教授 安藤 久美子さん

聖マリアンナ医科大学 神経精神科学
准教授 安藤 久美子さん

私は医師になってからこれまで司法関係の仕事に関わってきました。はじめはPTSD(心的外傷後ストレス障害)など犯罪被害者の観点で勉強していましたが、被害をなくしたいという思いから、精神鑑定をはじめとした加害者の勉強も始めました。精神鑑定では罪を犯した人の責任能力などについて調べます。そのほかにも少年院や児童相談所での勤務を通して、加害者と被害者の子どもたちとも向き合ってきました。

性被害で広がる誤解

性被害というと暗い夜道で見知らぬ人から暴行を受けるというイメージかもしれませんが、私が取り扱ってきた事例では、身近な人物から受ける性被害も多いことがわかります。

父親から8年間にわたって性的暴力を受けた女性がいました。母親はその事実を知りながら見過ごしていました。1年間の治療を行いましたが、また父親の元に戻ってしまう可能性があり、性の被害が及ぼす怖さ、根深さを感じます。

性被害に遭った少年・少女を見ていると、被害状況は多種多様です。加害者側の話では、「(被害者の)年齢は関係ない」という加害者もおり、実際、70歳くらいの女性を襲った例もありました。子どもを狙うのは周りにしゃべらないからだと話した加害者もいました。

犯罪統計を見ると、犯罪全体の検挙件数は減少している一方で、強姦は横ばい、強制わいせつはむしろ増加傾向にあります(H26年の犯罪白書に基づく罪名を掲載)。児童ポルノ事犯の検挙件数は、この7年間で約3倍に増加し、近年は出会い系サイトよりもLINEやTwitterなどのコミュニティサイトを使った犯罪の検挙数が増えています。

出会い系サイトの被害者は16歳以上が多いのですが、コミュニティサイトの被害者は半数以上が15歳未満です。年齢の低い普通の子どもたちが性犯罪に巻き込まれるケースが急増していますが、警察の対応は追いついていません。

児童ポルノといってもピンとこなかもしれませんが、最近は“自撮り”といって自分でわいせつな写真を撮って送るケースも増えており、子どもたち自身のハードルが低くなっています。また、いじめの手段として同年代同士での性加害、性被害もあります。

性被害によって生じる症状・行動の変化

性的虐待の見極めは難しいところがあります。幼児期の子どもでは、内またなどに指で抑えたようなアザがあったりした場合には虐待が疑われることもあります。また、口腔内の確認については、歯科検診などを通して比較的検査しやすいのですが、特に子どもの場合は傷が治るのも早いので発見が難しいといえます。性的虐待が強く疑われる場合には肛門や陰茎のただれなども確認しておく必要があります。
ライトセミナー5

幼児期から学童期まで

上記のような身体的な傷やアザがあれば、比較的虐待の事実を発見しやすいのですが、心理的な傷はわかりにくく、子どもの表情や行動だけで判断できるのかというと、率直に言えばなかなか難しいと考えます。しかし、それでも典型的なケースでは「表情が暗かったり、硬かったり、感情をあまり表に出さない」といった特徴が見られます。大人の顔色をうかがったり、おびえた表情を見せることもあります。

学童期〜

身体をゆする(落ち着きがない)、忘れ物が多い、髪の毛を抜く、爪噛みのような特徴や習癖が見られることがあります。男の子では攻撃的になったり、女の子では女性性を強調したりすることもあります。

学校などでこうした様子が見られると発達障害、ADHD(注意欠如多動性障害)と捉えられがちですが、こうした症状がある場合は、発達障害以外の要因も疑ってみる必要があります。子どもの場合は、被害を告白してからこうした表情や行動が目立つようになるケースもあります。しかし、カウセリングを開始すると、「虐待はされていない」と否定することも珍しくありません。それは、家族や虐待の加害者との関係のことを考えるからです。急に虐待を否定するような場合には、逆に私たちからすると「虐待があったに違いない」という確信を強めることになります。

また、親から虐待を受けた子でも親元に帰りたいと話すケースはかなりの比率にのぼります。親元に戻すべきか、施設に避難させるかでかなり悩みます。

思春期〜

無気力、活動性の低下、疲労感、倦怠感といった症状や、学力の低下として症状が現れることもあります。うつ状態となり病院を受診するケースあります。親からは、やる気がない、なぜこんなに成績が下がったのかなどと叱責されることもあります。

思春期では摂食障害の症状も比較的多く見られます。虐待の心理的なトラウマ症状としてこうした症状が出てくるのです。拒食だけでなく、過食行動の末、食べ物等の万引きを繰り返して、逮捕されるようなケースもあります。

家出、深夜の外出や性非行として症状が現れ、非行少年・少女というレッテルを貼られたり、自傷行為、いわゆるリストカットや自殺企図を繰り返すケースもあります。

青年期〜

PTSD(心的外傷後ストレス障害)症状、多重人格、境界性パーソナリティ障害のほか、アルコールや薬物の依存などが見られることもあります。なかには、児童期に受けた虐待が原因となって大人になってからこうした症状が出現するケースもあります。

自分に対して強い怒りや罪責感、恥辱感を抱いたり、汚れた存在として、自分から性的な犯罪に走ったりするケースもあります。

介入は被害者と加害者を同時に進める

多くの性被害のケースを見てきたなかでわかってきたことは、➀加害者は身近な人にも多い、➁性虐待は起こってからでは遅い(未然に防ぐ必要がある)、③性被害の形態は多様で影響もさまざま、④被害者は周囲の誤解を招く行動をする、⑤介入は被害者と加害者を同時に進める必要がある、ということです。

私はもう15年以上、少年院の少年たちの治療に携わっていますが、性被害も性加害も、少年の方からはほとんど話してくれません。彼らから心を開ける大人だと認められない限り、話してくれません。いかに信頼できる大人になるかが大切なのです。

性被害の問題は、現代社会に投げられた課題です。私たちにもできることはいろいろあります。1つは情報の共有です。警察、医療者、教育者、福祉関係者などの連携が必要です。2つめは教育の普及です。性感染症という病気があることを知らなかった高校生もいました。3つめは家庭の支援です。子育て支援だけでなく、親側の支援を通じて児童虐待のリスクを低減させていかなければなりません。そして4つめは犯罪防止という点では加害者治療プログラムの実施と普及も必要となってきます。

犯罪統計によれば、性犯罪で検挙された1,000人のうち約10%が精神障害のある方と報告されています。さらにその1/4は知的障害があり、再犯率も高いといわれていることから、こうしたケースを治療の対象にしたいと考えました。

刑務所にもいろいろな治療プログラムが用意されていますが、知的障害のあるケースでは、治療の効果が得られにくいと考えられてきました。一方、イギリスでは知的障害のあるケースに特化したプログラムが10年前から開発されています。そこで、そのコンセプトを基盤に日本の風土に合わせたプログラムをつくりました。一番大切なのは刑務所を出てからも、地域社会で実施できる支援体制をつくることだと思うからです。

このプログラムでは1回2時間のセッションを15回から20回で行います。主な狙いとして、➀性的知識や社会ルールに関する正しい理解、➁社会性の向上、③性加害行動に対する認知のゆがみの修正、④自尊心の向上、⑤支援者・支援体制の構築などからなっています。長崎県在住の6名の方にプログラムを行いました。現在のところよい成果が見られています。これからも加害者の治療を続け、性犯罪の被害者が一人でも少なくなるよう尽力していきたいと思っています。


お知らせ:ライトハウス 子ども支援セミナー in 大阪
「子どもを性の商品化から守るには」のご案内[2018/1/20〜21]


ライトセミナー7特定非営利活動法人 人身取引被害者サポートセンター ライトハウス
Lighthouse: Center for Human Trafficking Victims
〒150-8691 東京都渋谷郵便局私書箱7号
Tel 050-3496-7615/Fax 020-4669-6933
HP: http://lhj.jp
Facebook: https://www.facebook.com/LHJapan

NPO法人ライトハウスについて
ライトハウス(Lighthouse=灯台)の団体名には、「人身取引と、その被害者に気づくことのできる社会へ」との思いを、シンボル・カラーの黄色には、「暗闇で、孤独に沈む人々の灯りになる」との思いを込めています。そしてロゴマークは、人身取引に関するあらゆる問題とその被害者たちを照らし出し、決して「見逃さない・見捨てない」という、わたしたちの理念を表しています。


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