CSRフラッシュ
“働き方・生き方”を変えれば、人生はもっと豊かになる‼
「キネヅカ」プロジェクト 出口治明氏トークイベント高齢社会をもっと明るいものにしたいと始まった「キネヅカ」プロジェクト。このほど60歳でライフネット生命保険㈱を開業した出口治明さんを迎えて、トークイベントを開催した。人生の中で培ってきた“経験や技術”を、人生100年時代にいかに活かすのか。オープンコラボレーションスペースLODGE〔ヤフー㈱が運営〕で開催された当日の模様を報告したい。[2017年12月18日公開]
エピソード(記憶)ではなくて、エビデンス(証拠)で議論を
人間の脳みそは1万年以上ほとんど進化していません。その脳みそには“見たいものしか見ない”という習性があります。そうであれば、世の中をきちんと見るには方法論が要ります。それがタテ(時間軸・歴史軸)、ヨコ(空間軸・世界軸)と算数です。
タテ、ヨコの判断は何にでも応用できます。僕は中学校で源頼朝は平(北条)政子と結婚して鎌倉幕府を開いたと習いました。これを素直に解釈すると日本は夫婦別姓の国だと分かります。OECD(経済協力開発機構)に加盟する35の先進国の中で、法律婚で同姓を強制している国は皆無です。夫婦別姓は日本の伝統に合わないなどと主張している人々は思い込みで主張しているのです。
世界規模の所得変動を示す「象のチャート」をご存知ですか。タテ軸は20年間の実質所得の伸び率、ヨコ軸は世界の220の国や地域を並べたものです。この2つで点を打っていくと象の姿になります。この図を見ると真ん中が膨らんでいます。グローバリゼーションで中間層が増えて世界は良くなっていると読めます。
しかし、象の鼻を見ると先進国が2極化しています。経営者が豊かになる一方で、中間層の所得は落ち込んでいます。先のアメリカの大統領選では、ラストベルト(主要産業が衰退して、さび付いた米国の工業地帯)の庶民がトランプに投票したと言われています。工場が賃金の安いメキシコなどに出て行って仕事がなくなかったからです。つまりトランプも算数に置き換えることができます。
みなさんが判断をする場合、タテ、ヨコに加えて、算数、つまりエピソードではなくて、エビデンスで議論しないといけないと思います。
異常な日本の少子高齢化にどう対処するか
日本の未来をどう思うかと若者に聞くと、多くの人が「暗い」と答えます。理由は、この下のグラフに尽きるのですが、昔は若者10人くらいで高齢者1人の面倒を見ていました。現在は肩車に向かっています。ただし、この考えには根本的な間違いがあります。
人口が増えて高度成長した戦後、「若者が高齢者の面倒を看るのは当然だ」という考えが広まりました。人間は動物です。動物の世界では、若い動物が高齢者の面倒を看ることはありません。
20年前から高齢化が進んでいる欧州など先進国では、若者が高齢者をサポートするという考えはとっくに消えています。みんながみんなをサポートする時代になっています。年齢を見るのではなく、シングルマザーなど困っている人に手を差し伸べ、みんなで社会を支えるという考えが主流です。つまり、若者の所得税と住民票で社会が回っていた段階から、消費税とマイナンバーが社会のインフラとなるパラダイムシフトが要請されているのです。
そうはいっても日本は世界で一番高齢化が進んでいます。とりわけ介護は大変です。あと5年もして団塊世代が後期高齢者になったら目も当てられない、とみんなが話しています。では介護を減らすにはどうしたらいいのでしょう。
介護の定義は、「平均寿命-健康寿命」ですが、健康寿命を伸ばす以外の“解”はありません。健康寿命を伸ばすには働くことが一番、つまりこの国がやるべき第一の政策は「定年制の廃止」です。
定年を廃止すれば、➀介護が減り、➁医療・年金財政は好転し、③年功序列がなくなり、④同一労働同一賃金になって労働力が増え、⑤中高年のモラルが上がります。
団塊の世代は2百数十万人いますが、新社会人は100万人ちょっとです。誰が考えてもこの国は労働力不足になります。2030年には800万人不足すると言われています。
みなさんは幸せです。上司とケンカをして会社を飛び出しても食いっぱぐれることはまずありませんから……(笑い)。
先日、ある企業から講演に呼ばれました。「うちの会社では50歳を超えたらみんな仕事を流します。少しでもモラルの上がる話をしてください」ということでした。その会社は53歳で役職定年になり、60歳で定年です。5年延長ですが、給与は下がります。僕に講演を頼む前に、「社長のところに行って定年をなくしてもらいなさい」と言いました(笑い)。
グローバルな世界では、仕事は “意欲と能力と体力” です。年齢は関係ありません。シニアとかヤングとか、年齢に関する言葉は捨てるようにしなければいけません。
子どもが産める国・育てられる国に
世界では“仕事か赤ちゃんか”という二者択一はなくなっています。 “仕事も赤ちゃんも” なのです。先進国では、専業主婦のお母さんよりも仕事をしているお母さんの方が赤ちゃんを積極的に産んでいます。仕事を続ける女性は人生に貪欲だからです。
フランスでは1994年に1.66まで下がった出生率が、約10年で2.00の大台まで回復しました。それはシラク3原則のおかげだと言われています。
1つは、「産みたいときに産む」。2つめは、「待機児童ゼロ」。3つめは「キャリアの中断はあり得ない」。育児には留学と同じ賢くなる効果があります。育児休業を理由にキャリアを中断させるなどもってのほかです。この3つに必要な財源は、GDPの1から1.5%程度です。フランスにできて日本にできないはずはありません。
タテ、ヨコ、算数という3つの視点で見たら少子高齢化対策に日本はまだまだ本気になっていないということが分かります。
長時間労働の是正と生産性の向上
人間は毎年1歳ずつ歳を取ります。高齢化の進んでいる日本では1年経てば介護・医療・年金で予算ベースで考えても毎年5,000億円以上のお金が新たに出ていきます。日本の選択肢はみんなで貧しくなるか、生産性を上げて経済を成長させ、そのお金を取り戻すかしかありません。
2人の編集者がいます。Aは机の上のパソコンとにらめっこ、昼もパソコンの側でパンを食べています。残業も遅くまでやります。しかし、売れる本はつくれません。Bは10時に出社して、昼は外で昼飯を食べ、夕方6時にはオフィスを飛び出して外部の人と会いに行きます。人からアイデアをもらうBは毎年2〜3冊、べストセラーを出します。あなたが上司だったらどちらを評価しますか。Bですよね。
かつての日本は製造業がけん引しました。大量にモノをつくるには、長時間ベルトコンベアを動かせば、たくさんのモノがつくれます。製造業の工場モデルは、女性より力の強い男性の長時間労働が支えてきました。それほど頭を使う必要はなかったので、長時間労働が可能だったのです。
家に帰った男性は「メシ・フロ・ネル」だけ。女性はそれをケアする方が効率がいいということで、第3号被保険者とか、配偶者控除とかのアメを与えて寿退社や3歳児神話をつくり、専業主婦(性分業)を勧めてきました。
現在、日本の産業の74%がサービス産業です。サービス産業にはベルトコンベアがありません。頭を使うわけですから、長時間労働は向いていません。
人間の脳みそは体重の2%しかないのに、エネルギーの20数%を使っています。めちゃくちゃ高性能なエンジンです。5時間も集中できません。脳みその集中力は2時間が限度です。だからハリウッド映画はだいたい2時間で完結します。頭を使う仕事は2時間×3〜4コマが限界なので、長時間労働しても意味がないのです。グローバル企業は残業をしません。
日本の生産性は世界22位。工場モデルが生きていたバブル崩壊までは高かったのです。それから下がりっぱなしですが、これをもう一度上げるのはとてもやりがいのある仕事です。10番くらいはみんなの努力ですぐに上がるはずです。
女性が働くことの意義
もう1つ大事な視点があります。サービス産業のユーザーは女性だということです。日本経済を支えていると自負する50代や60代の男性に女性の消費者が欲しいものが分かりますか。需要と供給のミスマッチを防ぐために、欧米では女性の役員が3〜4割いないと上場を取り消すなどのクオータ制を採っているのです。
日本政府は“女性が輝く社会”の実現という表現にとどめていますが、意味するのは需給のマッチングです。女性が輝くためには男性が早く家に帰って、家事や育児や介護などを分担するしかありません。
日本の女性のみなさんは幸せです。男女平等ランキングで日本は世界144カ国中114番目となりました。過去最低の数字です。ちょっと頑張れば100位くらいはすぐに上がるはずです。日本の若い人は量(労働力不足)・質(改善余地大)ともにいま世界一幸せな時代を迎えつつあるのかもしれません。
「人・本・旅」の大切さ
本日、僕に与えられたのは「人生100年時代の仕事とお金のこと」というテーマです。この中で、自分が70歳になったときに年金が破たんしているからお金を貯めないといけないと思っている人はいますか。欧米では、自分で貯めないといけないと思っている人は皆無です。中学校や高校できちんと教えるからです。
日本の年金積立金は約150兆円。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用しています。年金給付の主たる財源は、現役世代が払う年金保険料であり、国庫負担金です。年金保険料が35兆円。それに12兆円くらい国税が投入されています。2つで47兆円くらいあります。ここから50兆円くらいを年金として支払うわけです。
家計でいえば、毎月47万円稼いでいて、150万円の普通預金があり、毎月50万円ずつ使っているという状態です。高齢化で50万円がさらに増えれば家庭では節約するでしょう。
少子高齢化がいち早く進んだ欧州では、消費税とマイナンバーを導入し、社会を支えるインフラとしました。このマイナンバーを使えば、年金の必要のない資産や所得のある高齢者が一目瞭然になります。それでもだめなら国の負担を現在の1/2から2/3に増やす方法だってありますし、それでも足りなければ社会保険料を上げればいいのです。
年金が破たんすると言っている学者は、世界中を見ても日本にしかいません。最近、東洋経済から『教養としての社会保障』(香取 照幸著)という優れた本が出ました。年金が破たんするはずがないとすぐに分かります。
年金は破たんしませんし、定年制がなくなり、働くことさえできれば老後のお金は何とかなるということです。若いみなさんなら年収の半分くらいの蓄えがあれば大丈夫というのが世界のファイナンシャルプランナーの答えです。
財産3分法というのがあります。手取りが30万円だとしたら、1〜2万円は財布に入れ、25万円で1カ月の生活ができれば、そのまま銀行に入れておきます。いつでも現金に変えられるというのが預金の役割です。残りの3万円はなくなってもいいお金です。これが投資です。投資の使い道は3つ。
1つは自分に投資する。2つめは他人への投資。好きな人に貢いでもいいでしょう(笑い)。3つめはお金への投資です。
お金に投資する場合、2つのルールを覚えておいてください。まずは72の法則です。「72÷金利」が元本が2倍になる年数です。昔は金利が7〜8%ありましたから、72÷7だと10年で倍になりました。しかし、市場金利がゼロ金利やマイナス金利の現在は、投資信託のような変動商品しかありません。これは上がったり下がったりするので怖いという人もいます。
本当にそうでしょうか。2つめのルールは、変動商品は安いときに買って、高くなったら売ればいいだけです。問題はいつが安いか分からないことです。そこで生まれたのが、毎月一定額、たとえば1万円ずつ買っていくという方法です。ドルコスト平均法と呼ばれています。
みなさんは年収の半分くらいの預金があったら、あとは好きなことに使うのが一番です。病気などで働けなくなったときのために、少しだけ保険に入ればよいのです。就業不能保険(病気やケガで長期間にわたって働くことができなくなった場合に給付される保健)に入っておけば十分です。
みなさんが“おいしい人生”を送ろうとしたら、たくさんの人と出会い、たくさん本を読み、いろいろな所に旅をして、知見を蓄えることです。そして、自分のアタマで考えることです。それがみなさんの働き方や生き方を豊かにするのです。「人・本・旅」はとても大切です。
※当日の出口さんのお話の一部を当編集部が要約したものです。編集責任は私どもにあります。
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