企業とNGO/NPO

2020年と、その先へ。未来に挑み続けよう!

社会課題解決を呼びかける認定NPO法人ETIC.のイベントから

いくつもの社会課題が横たわる日本。認定NPO法人ETIC.では、2017年末に連携する企業、自治体、NPOなどから約700名の参加者を集めて「Social Impact for 2020 and Beyond Gathering」を開催した。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを変革のきっかけと位置づけ、その先をにらんだ社会課題と真剣に向き合おうというもの。当日の全体セッションから、新年にふさわしい提案を本誌の読者に届けたい。 [2018年1月11日公開]


38の課題テーマで議論を深めたラウンドテーブル

38の課題テーマで議論を深めたラウンドテーブル

社会を変えるアイデアをたくさん出す

面白法人カヤック(株式会社カヤック)代表取締役CEO 柳澤 大輔さん


柳澤 大輔さん

面白法人カヤック(株式会社カヤック)
代表取締役CEO 柳澤 大輔さん

面白法人は、“面白がるという文化”をつくろうということで3人の友人と立ち上げました。周りを面白くするには、自分たちが面白がることが大切ですが、これが一番難しいのです。会社である以上、報酬や地位で評価しないといけません。サイコロを振って給与を決めたりもしました。評価の中に評価をしない仕組みを取り入れたわけです。

きょうは社会課題に取り組む皆さんが集まっています。そういう組織で働く人たちがいきいきと課題に向き合うには、思い切った評価の制度をつくればよいのです。NPOこそがそうした評価ができる組織だと思います。

「つくる人を増やす」を経営理念に

会社にとって一番大事なのは経営理念です。迷ったときの指針になります。ただし、よい経営理念はビジョンの具体性が大切です。私たちは「つくる人を増やす」としました。主体性をもった「つくる人」が増えれば、会社も社会も楽しいものになると思います。

ブレーンストーミングでアイデアの数を出す

会社ができて時間が経つと、新しい社員には主体的に参加したという意識が薄れます。そこで採用したのがブレーンストーミングでした。

私たちが大事にしているのは、出てきたアイデアに乗っかろうということです。つまり他人の話をしっかり聞こうということです。仲間から出てきたアイデアに乗っかって次のアイデアを出していくわけです。

自分の意見を出すことがブレストだと思われがちですが、他人の意見に乗っかっていくことで、思いもよらなかった新しいアイデアが生れます。人の話を聞いて理解しようとすることで、チームワークもよくなります。アイデアは数を出すことがゴールなのです。

重要なの、他人のアイデアに乗っかるということと、ブレストのお題設定をどうするかです。世の中を変える人は、課題設定力とチームでアイデアを出していく力の両方を備えていることが多いと思います。


官と民のカベを取り払うことから

渋谷区副区長 澤田 伸さん


澤田 伸さん

渋谷区副区長 澤田 伸さん

一昨年、渋谷区は「ちがいをちからに変える街」というコンセプトをつくりました。2030年までにこのコンセプトが当たり前の風景になるようにしたいと思います。そのためにはソーシャルイノベーション(社会変革)を連続させていきます。イノベーションを巻き起こすには多様性が必要です。そろそろ行政と民間の壁を取っ払わないといけません。

民間のアイデア、スキル、情報を活かす

社会にある課題を地域横断で解決に導くには、行政がもっている税金と、地域の皆さんが持っているアイデア、スキル、情報を横につないで、再配分していかなければいけません。それが未来をつくるエネルギーになると思います。

ご参加の皆さんには、組織横断のリーダーになってほしいと思っています。渋谷区は2018年4月に「一般社団法人渋谷未来デザイン」という団体を官民連携でつくります。固定観念に縛られるのではなく、よりオープンな形で議論し、行政が提案するさまざまなサービスにも付加価値を付け、課題解決につなげていきます。


渋谷区と連携し、子どもたちを支援

認定NPO法人フローレンス代表理事 駒崎 弘樹さん


認定NPO法人フローレンス代表理事  駒崎 弘樹さん

認定NPO法人フローレンス代表理事
駒崎 弘樹さん

これまでの行政は、自分たちこそが官であり、公なんだという上から目線でした。社会的な課題に市民が共に立ち向かうという視点が欠けていました。新しい連携の一役を担うのは民間であり、NPOであり、ソーシャルビジネスです。私たちは渋谷区で2つの事業を始めています。

病児、障害児、健常児を受け入れる複合施設

1つは「おやこ基地シブヤ」という複合施設の運営です。すべての親子に保育の光をということで、初台駅から徒歩5分の所に病児保育、障害者保育、健常児保育の複合施設をつくりました。子どもたちの多様性を融合させる役割があります。

CSR-ETIC2018新年5

2つめはスタディークーポンをつくりました。子どもの貧困問題が学力にも影響しています。やがて就職にも影響し、貧困の再生産をします。塾に行けるか行けないかが格差につながります。クラウドファンディングで集めて、子どもたちにクーポンという形で提供します。子供の貧困問題の解決モデルを渋谷から発信します。


社会起業家を資金で応援する

鎌倉投信取締役・資産運用部長 新井 和宏さん


鎌倉投信 取締役・資産運用部長新井 和宏さん

鎌倉投信 取締役・資産運用部長
新井 和宏さん

ソーシャルファイナンスにもクラウドファンディグをはじめ、さまざまなソーシャルファンディンクが出てきました。選択が難しくなっています。

受け手の側には、ファイナンスの知識が足りないとか、そうした知識を持った人材がいないという問題もあります。

ファイナンスの集団には、寄付、融資、株式取得してもらう出資という形があります。その割合という問題もありますし、どのタイミングでどういう人たちに協力を仰ぐか、これまでのファイナンスの教科書では判断できなくなっています。

ソーシャルファイナンスのプラットホームを

情報を整理し、発信するプラットホームが必要になっています。プラットホームの構築を支援してくださる方と連絡を取りたいと思います。ファイナンスの方法論をまとめれば、みんなが助かります。

2つめは、出し手の側の情報が欲しいのです。どんな情報があればファイナンスできるのかという情報です。

参考までに10分ほどでつくってみました。たとえば公募の投資信託、募集のタイミングは随時です。資金は5,000万円から4億くらいまで。無担保無保証ですが、10年物の私募債ですと、今なら0.6%です。

社会課題を解決できるテーマをもった企業を支援

各分野で社会課題を解決できるようなテーマをもった企業を応援するわけです。上場は不要です。鎌倉投資信託の場合、いま1万8,000人くらいの個人投資家が消費活動と広報活動を行いながら応援してくれます。

鎌倉投資信託は、2010年3月から開始し、ファンドの期限は無期限です。現在は325億円を運用していますが、その5%まで社会起業家に資金を出そうとしています。各分野のリーダーになれる企業を応援しようと決めています。

現在の投資先には、耕作放棄地を集めて農業を進める会社、循環型産業をめざす設計会社、途上国支援会社があります。


生き方を進化させ、SDGsの達成を

国連開発計画(UNDP)駐日代表 近藤 哲生さん


国連開発計画(UNDP)駐日代表近藤 哲生さん

国連開発計画(UNDP)駐日代表
近藤 哲生さん

きょうは2020年に向けて生き方を進化させたい人たちが集まる会合だと聞いて来ました。私は国連にて、2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に取り組んでいます。

SDGs(持続可能な開発目標)の浸透はまだまだ

SDGsを知っているかといま全国で聞くとまだ3割から4割です。ただ、企業の経営幹部の方に聞くと9割以上がご存知です。日本の経済団体も企業の経営戦略に入れるべきだと言っています。

SDGsは、私たちが生き方を進化させるための目標設定であり、コンセプトなのです。2030年までにやろうという17の目標が設定されています。

日本企業の取り組みが本格化

SDGsの目標17項目はいずれも、持続可能な開発、民主的なガバナンスと平和構築、気候変動と災害への対策など、UNDPの戦略計画の重点分野と結び付いています。貧困に関する目標1、不平等に関する目標10、ガバナンスに関する目標16は特に、UNDPの現在の活動と長期的な計画にとって中心的な意味を持っています。

しかし、SDGsを達成するためには、複数の目標にまたがって進捗を支援する包括的なアプローチが欠かせません。UNDPはこのプロセスを支援できる独特な立場にいます。

これからSDGsとどのように関わるか、私たちの一人ひとりに突き付けられています。


社会課題の何係になるかを決める

オイシックスドット大地株式会社 代表取締役社長
経済同友会 東京オリンピック・パラリンピック2020委員会 委員長
高島 宏平さん


オイシックスドット大地株式会社 代表取締役 経済同友会 東京オリンピック・パラリンピック2020委員会 委員長高島 宏平さん

オイシックスドット大地株式会社 代表取締役

経済同友会 東京オリンピック・パラリンピック2020委員会 委員長
高島 宏平さん

パラリンピックの競技団体と企業をマッチング

私は経済同友会で東京オリンピック・パラリンピック委員会の委員長をやっています。パラリンピックだけで34競技団体になるのですが、ブラインドサッカー以外は専任のスタッフがいません。経済同友会ではパラリンピックを中心に応援しようと呼びかけています。

オリンピックのスポンサーになれないが、何か貢献したいと思っている企業はたくさんあります。そうした企業の皆さんと、パラリンピックの競技団体のマッチングを進められないかと考えています。この前、30の競技団体と35社の会合を持ちました。

自分だったら何係ができるか

私が皆さんに提起したいのは、さまざまな社会課題がある中で自分だったら何係ができるかということです。一人の人がすべての問題と関るには人生は短すぎるし、社会課題が多すぎます。私自身がいま考えているのは、何かの実行する係になるということです。

いいアイデアを思いつく人は一杯います。それを政策に落とせる人もいます。私がやれるのは、多少の軋轢があってもチームをつくって、何かを実行することだと思っています。私は“チームを作って何かを実行する係”として、2020年までは、パラリンピックのスポーツを一緒にやったり、一緒に応援したりしたいと思っています。


2020年をきっかけに、社会が良くなる、それが当たり前になる

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会
役員室特命担当部長 河村 裕美さん


東京オリンピック・パラリンピック組織委員会役員室特命担当部長 河村 裕美さん

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会
役員室特命担当部長 河村 裕美さん

皆さんがやっているのはソーシャルイノベ―ション(社会変革)ですが、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会もスポーツを通じてより良い世の中をつくっていこうという。非営利の公益財団法人です。皆さんと同じ土俵に立っていると思っています。

いつか当たり前になるのがオリンピックレガシー

ソーシャルインパクトを起こすためには、最初は人が思いつかなかったようなアイデアでイノベシ―ションを起こすことが必要です。ところが最後のゴールは“当たり前”というゴールです。その当たり前の1つがオリンピックレガシーです。オリンピックレガシーは、2020年をきっかけに社会が良くなって、それが当たり前になっていくことなのです。

オリンピックは、スポーツテクノロジーを通じてスポーツの新しいあり方を提案しています。5競技33種目、東京では新しいスポーツが登場します。

オリンピックには社会生活に対するインパクトもあります。未来の暮らしの一断面がオリンピックをきっかけに生まれ、それが当たり前になっていくということなのです。


スポーツで社会の空気を変えよう

一般社団法人アスリートソサエティ代表理事
為末 大さん


一般社団法人アスリートソサエティ代表理事 為末 大さん

一般社団法人アスリートソサエティ
代表理事
為末 大さん

1人のアスリートが1つの社会課題にコミットする

2020年に向けて、私自身の役割は、スポーツとテクノロジーの領域をつなぐベンチャーをポコポコ立ち上げることだと思っています。私はかねてから1アスリート、1イシューという取り組みを提案しています。1人のアスリートが1つの社会課題にコミットするということです。

選手は忙しいのですが、2020年の主役です。彼らはさまざまな機会にスピーチをします。そのときに何を語るのか、とても大きな影響があります。私の現役時代、アメリカのある選手が「私は勝負に勝ちたい、私には言いたいことがあるから…」と語りました。1人のアスリートが発する言葉にはそれだけの重みがあります。

スポーツには空気を変える力がある

カールルイスという選手がロスアンジェルス・オリンピックに登場しました。彼が金メダルを獲得したのですが、その時の100メートルのゴールタイムが9秒99でした。2017年に桐生選手が日本人としては初めて10秒を突破し、9秒98という記録を出しました。誰かが壁を破ると、人々の意識がその壁の向こうに移り、いずれそれが当たり前になっていきます。
さて、アスリートにはセカンドキャリアがとても大切です。アスリートは引退すると自分自身のアイデンティティーを見失い、精神的に落ち込むことが多くあります。その選手が次のアイデンティティーを見つけることと、もうひとつは腹をくくるということが大切になります。新しい自分になるという決意です。

さて、アスリートにはセカンドキャリアがとても大切です。アスリートは引退すると一度体力もガーンと落ちていきます。その選手が次のアイデンティティーを見つけることと、もうひとつは腹をくくるということが大切になります。新しい自分になるという決意です。

私からすると、2020年は日本のセカンドキャリアに思えます。かつての日本は経済的に発展した時代がありました。現在は経済的に世界のトップでいることが難しくなっていて自信を失っているように思えます。選手のセカンドキャリアに当てはめれば、最初に輝いた方法と同じ方法で輝かなくてもいい、次のステージでは新しい輝き方を見つければいいとわかった瞬間に選手の意欲が次に向かいます。これからの日本がどのような形で世界の役立って行くのかを考える上でも、次のオリンピック・パラリンピックは重要だと思っています。

きょう参加されている皆さんには、日本はこっちに向かえば良いのではというアイデアをどしどし出してほしいと思っています。皆さんと協力して、社会の空気を変えていきたいと思っています。

※この記事は、12月3日に東京都渋谷区で開催された認定NPO法人ETIC.主催の「Social Impact for 2020 and Beyond Gathering」の一部を当編集部で整理調整しました。文責は当編集部にあることをご承知ください。

認定NPO法人ETIC.の社会課題解決中マップ

https://2020.etic.or.jp/
なお、ETIC.では、社会課題をチャンス捉えて、ポジティブに次の社会を創ろうとするプラットフォームをつくるため、2017年12月3日に以下のようなホームページを立ち上げました。現在、私たちが抱える社会課題を、SDG’sや「組織内リーダーシップ、高ストレス社会、創造的な教育の拡大、教育格差、専門職の活躍、スポーツ、人口減少、マイノリティ、健康寿命、社会保障、ローカル経済、食糧問題、自然災害、コミュニティの希薄化・孤独化」などの項目で確認することができ、プロジェクトに取り組む方につながることができます。ぜひご一読ください。CSR-ETIC2018新年

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