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地域の民話を手づくりの絵本に

東京・稲城市で絵手紙教室を開く大西邦子さんのチャレンジ

手習いで始めた絵手紙や淡彩画の趣味を活かして、いま暮らす東京・稲城市に伝わる民話を手づくり絵本にした大西邦子さん。このほどメリーウィドウ(陽気な未亡人)と銘打った絵本の原画などの作品展を開催しました。原画をもとに自費出版された絵本は、地元小学校の読み聞かせ授業に使われています。(2018年7月18日公開)

自費出版した2冊を掲げる大西邦子さんご自身の作品展のポスターの前で

自費出版した2冊を掲げる大西邦子さん
ご自身の作品展のポスターの前で

「絵本をつくりたい」がきっかけ

20年ほど前、最愛の夫を亡くした大西邦子さんは、それまで経験したことのない喪失感に襲われました。「夫に甘ったれて生きてきた」と生きざまを語る大西さんには、夫の存在はそれほど大きいものでした。

1年ほど経ったある日、「絵本をつくりたい」と考えるようになりました。絵が好きだったことに加え、わが子に絵本の読み聞かせをした体験が目を覚ましたのかもしれません。

絵手紙ブームが始まっていました。いま人気のテレビ番組「プレバト」(TBSテレビ.毎週木曜夜7時放送)で絵手紙の講師を務める花城祐子さんの教室に通うとともに、祐子さんの夫で日曜画家として知られる花城康雄さんの淡彩画教室にも通い始めました。

10年ほどして、住んでいる稲城市の公民館で絵手紙教室を主宰します。初めは生徒が集まらず、洋裁仲間の主婦たちに声をかけ、無理やり集まってもらいました。いまでは1クラス10人ほどの絵手紙教室を4クラス掛け持ちするまでになっています。

穴澤天神社と民話との出会い

京王線のよみうりランド駅を降りると、目の前に大きな森が広がっています。穴澤天神社です。2400年ほど前に創建されたとされる穴澤天神社は、多摩地方でも格式を誇る由緒のある神社です。

大西邦子さんが初めてこの社を訪れたのはおよそ10年前。うっそうとした森に覆われている神社の霊気に鳥肌が立つような思いでした。

穴澤天神社には、毎年4月に行われる氷雨祭の太々神楽や8月の例大祭に奉納される江戸の里神楽が有名で、神職や巫女が舞う神楽舞に大西さんも魅せられていきます。

お祭りや神事を絵にするとともに、いま住む稲城市の歴史を調べると、30ほどの素朴な民話が残っていることも分かりました。それらを取材し、丹念に調べて絵や文字にすると、いつしか膨大なメモになりました。

江戸の里神楽(上)と祭礼で舞う若者たち(下)を描いた作品

江戸の里神楽(上)と祭礼で舞う若者たち(下)を描いた作品


大西邦子さん4

自費出版という未知の体験

構想に1年、制作に1年を経て、2016年に『天神さまと神がかりの童子』『小田良 昔がたり』の2冊が出版の運びとなりました。ただ、そこまでの道のりは平たんではなく、かつて経験したことのないものばかりでした。

一番苦労したのは出版費用の捻出です。通常、印刷物は最低でも1000部からだといわれました。見積もりをすると、簡単に手が出せる価格ではありません。いろいろ探すと、1冊いくらでやるという印刷会社が見つかりました。ところが、紙の選定や色だしの手順も分かりません。手書きの原画では墨色にこだわりましたが、その墨色を出すのに一苦労でした。

大西さんの作品を手にする作品展の参加者たち

大西さんの作品を手にする作品展の参加者たち

そうして完成した冊子は稲城市の教育委員会にも寄贈され、地域の小学生の社会教育の授業で、読み聞かせという形で活用されるようになりました。

大西さんは、稲城市に伝わる30余りの民話のうち6話を自費出版した2冊に盛り込んでいますが、残りの話を1つでも多く描き、地域の皆さんに伝えたいと意欲を燃やしています。

『天神さまと神がかりの童子』から

その昔、多摩川はたいへんなあばれ川でした。大雨が降るたびに川は水であふれ、田も畑も水浸し。水神さまの怒りをしずめようとみんなでお供え物に励んだがなかなか洪水は収まりませんでした。

いまから800年ほど前、とりわけ大きな洪水がありました。丘の上に逃げ込んだ村人たちが途方に暮れていると、どこからともなく一人の童子が現れ、「みなの衆、小沢峰の頂きに社を建て直し、天満宮として祀れば、百日の間に霊験あるべし」と叫びました。村人たちは童子のお告げに従って山の頂きに新しい社を造り、天神様を祀ると、みるみるうちに洪水は収まり、やがて肥えた5丁歩ばかりの新田ができるようになりました。

それから洪水はめっきり減って、稲城の村人は米づくりに精を出し、孫子の代まで栄えるようになりました。

神がかりとなった童子のその後は分かりませんが、童子のお告げで建てられた穴澤天神社は村の大切な守り神となりました。(民話を編集部でまとめたものです)

作品の原画から

作品の原画から


大西邦子さん8
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